ベイジアンネットワークの推論アルゴリズムや学習手法が知られるように なった現在では比較的大規模で本格的な応用例も増えてきた[Haddawy 99].
以前からベイジアンネットワークの基礎研究を進めていたマイクロソフトは, 同社の商用ソフトウェアであるOfficeアシスタントに確率推論を行なう ユーザモデル(Bayesian User Model)[Horvitz 98]を応用している. アプリケーションソフトを使用中のユーザの挙動の観測から,図2の 例のようなベイジアンネットワークを 構築し,ユーザのマウス操作の履歴(どのメニューをたどってきたか,反応時間が 早いか遅いかなど),ソフトの実行可能な状態などからユーザが次に行おう としているコマンドやゴール状態を推定し,現在のユーザが必要としていると 思われる適切な助言を生成する7. また秋葉らは過去のユーザの発話からユーザが対象についてどの位知っているかを 推定するベイジアンネットワークを用いたユーザモデルを内蔵して渋谷の道案内を 行なう連続音声認識対話システムを実現した[Akiba 94]. 自然言語による対話のプランニングにもベイジアンネットが適用されており [Charniak 93], 特定のタスクにおける対話プランニングへの実装例もある [乾 97].今後対話コーパスが普及するにつれて対話制御への さらなる応用も期待される.
対話のプランニングと類似した問題構造を持つロボットや自律移動システムの ナビゲーションも典型的な応用例である[Dean 91]. カリフォルニア大バークレイのS.Russellらのグループでは,高速道路での 自動車運転シミュレータを用いて,運転中の直前の状態から次の状態を 予測するDynamic Belief Networkを構築し,自動運転システムのフィージビリティ スタディを行った[Forbes 93].
他にも大量のデータが得やすい問題への適用は比較的有効であり 豊富な医療データに基づいた,筋神経系,リンパ節,先天性心臓疾患[Jensen 96], 貧血症[Kappen 99]などの医療診断システムも知られている. また通信理論分野で最近脚光を浴びているTurbo符号, Gallager符合などの低密度グラフ 符合の周辺でもベイジアンネットワークの確率伝播アルゴリズムと復号化アルゴリズムとの 関連が注目され議論されている[Mackay 96,Kabashima 99]. 一方,確率ネットワークによる表現に論理的表現を統合する試みも人工知能分野における 重要な研究である.特に確率ネットワークで 表現することが容易でない,述語論理や記号的背景知識の利用を可能にするために 述語論理と確率の統合が行われている[Breese 92,Poole 93,Koller 97,Sato 00].