第9回 カスケードリサイクルと水平リサイクル
これまでのコラムでは、リサイクルの高度化における物理選別の難しさや、真・物理選別学が目指している技術や社会について述べてきました。日本では、これまでもリサイクルを進化させてきましたが、元々は、ゴミが散乱しないよう街をキレイにするためや、ゴミを捨てていた場所が一杯になってきたので、ゴミの量を減らすためのものでした。廃棄物の種類によって違いますが、市民から回収したゴミは、古くはそのまま埋め立てていました(埋め立て処分場に捨てていました)が、その後、下図の「「廃棄物」処理の流れ」のように、リサイクル工場などで、燃やしたり、リサイクルしたりして、埋め立て量を減らす努力をしてきました。その成果が実り、埋め立て量はずいぶん減らすことができましたが、ゴミを減らすことが目的でしたので、何にリサイクルされるかは詳しく決まっていませんでした。その結果、比較的簡単にリサイクルできる、低級品として利用する方法が普及しました(図の低級利用)。セメントに混ぜたり、道路の下地材にしたり、埋め立て処分したゴミの上に被せる土として利用したりなど、さまざまです。これらもゴミを減らす方法としては非常に重要ですが、ここに含まれる金属は、再びハイテク製品を作るために循環利用することはできません。このように、元の製品よりも価値の低い物にリサイクルすることを「カスケードリサイクル」と言います。例えば、皆さんが使っているノートを古紙として回収して、トイレットペーパーにするなどもカスケードリサイクルです。
紙のような有機物は、なかなか循環利用はできませんが、金(きん)に代表される金属は、何度も循環して利用することが可能です。例えば、宝石店で売られている金の指輪の中には、最初に使われたのがいつかわからない位、古くから循環利用されているものが、普通に含まれています。東京オリンピックのメダルを100%リサイクルで、というのが話題になりましたが、普段から使っているすべての金製品や銀製品の一部には、普通にリサイクルされたものが利用されています。このように、元の製品と同等の製品にリサイクルすることを「水平リサイクル」と呼んでおり、何度も循環して利用するには、基本的には、この水平リサイクルを進める必要があります。しかし、現在、水平リサイクルされているのは、一部の高価な金属などに限られており、大部分の金属はカスケードリサイクルされているのが現状です。真・物理選別学では、下図の「「廃製品」資源循環の流れ」のように、リサイクル工場における選別工程を高度化することで、より多くの金属を水平リサイクルして、何度も循環して利用することを目指しています。また、たまたま水平リサイクルできるものだけを処理するのでなく、計画的に水平リサイクルを進める取り組みを、筆者は「戦略的都市鉱山」と名付けました。