第7回 物理選別の難しさ ③ ~理想的な技術1~
日本は世界的に科学技術が進んだ国です。また、社員の給料も、アジアの国の中では最も高いレベルにあります。そのため、日本で製品を作る工場には、多くのロボットが活躍し、わずかな人しか働いていないところがたくさんあります。しかし、リサイクル工場では、日本でも多くの人が働き、廃製品を解体したり、手作業で金属を選り分けたりしています。これは、製品を作る工場では、同じ部品を図面通りに組み立てる作業なのでロボットでもできますが、リサイクル工場では、予期することが難しいさまざまな物が運び込まれ、そこから価値の高い物を見つけ出し選り分ける作業が必要で、簡単にはロボット作業ができないからです。人工知能(AI)の発達によって、リサイクル工場にも少しずつロボットが使われ始めていますが、現在では、まだ、人間ほど賢くはないため、ごく単純な作業しかできていません。
前回、「比較的安い原料を資源循環させるには、高度な物理選別を『より安く』行わなければなりません」と言いましたが、金(きん)が多く含まれている高価な製品でも、実はその価値のほとんどは、製品の機能に対するものです。例えば、1台10万円で販売されている高価な製品でも、そこに含まれる、金、銀、銅やアルミ、鉄などの金属価値は、合わせても100円程度です。つまり、廃製品を集めた後、物理選別で金属ごとに選り分け、化学プロセスで金属の地金(延べ棒のようなもの)にして再び製品に使えるようにするまでを、1台100円未満で済まさなければ商売になりません。特に小型の電子機器の多くは、充電できる電池が内蔵されていることが多いですが、これらに強い衝撃を与えると発火することがあり、火災の原因となります。これらを捨てる際には、電池を外し、正しく分別してもらうことが理想ですが、一部のスマートフォンやシェーバー、電子タバコなど、電池を取り外すことができない構造の製品も多くあります。また、電池を取り外せても、市民が誤って分別したり、 正しい取り扱いをしないと危険です。 将来的にはロボットが取り外すなど、火災にならないような解体方法ができるかもしれませんが、当面、リサイクル工場では、手作業で外すしかありません。
また、これらの廃製品から、より多くの種類の金属を回収するのが理想ですが、化学プロセスで金属を取り出すには、前もって金属の種類ごとに物理選別をしておく必要があります。金属価値が100円ある高価な廃製品も、物理選別にかけられるお金は1台せいぜい数10円ですので、少量でも価値の高い金(きん)などの貴金属や、比較的多く入っている銅、アルミ、鉄を選別するのが精一杯です。レアメタルと呼ばれるような金属も、資源としては大変貴重ですが、1台にほんの少ししか入っていないので選別するのが難しく、無理に選別すると非常にコストがかかってしまうため、残念ながらほとんど回収されていないのが現実です。未来の理想的な物理選別を行うためには、このような作業を、人手をかけずにロボットなどの機械で行うことが必要となります。