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大木研究室
第6回  物理選別の難しさ ② ~商売にすることが重要~

家庭で飲んだ飲料水のペットボトルは、捨てるときに、ふたを外し、ラベルを剥がし、中身を捨て、軽く洗って、袋にまとめ(潰して出すかどうかは市町村によって異なるようですが)、市町村の回収日やスーパーなどで回収するところが多いかと思います。なぜかというと、リサイクル工場でこれらをするのが大変だからです。大変というのは処理にお金がかかるということです。ペットボトルを集めるのは市町村などですが、処理するリサイクル工場は一般の会社ですので、税金ではなく、商売の利益で社員の給料が支払われています。ペットボトルは、様々な製品の「原料」として再び利用が可能ですが、「原料」を販売する値段よりも、処理費用の方が高くなれば商売が成り立ちません。実はペットボトルのような容器類は、法律でそれを売った企業などがリサイクルのための費用を負担することになっていて、商売が成り立ちやすい状況を作っていますが、だからといって、いくらでも費用がかけられるわけではありません。ペットボトルから作られる原料は、金(きん)に比べればずっと安いので、なるべく安く処理をすることが求められます。それを陰で支援するために、家庭で洗っているわけです。これは、現状のリサイクル技術で、資源循環を進めるためには非常に大切なことです。

ただし、必ずしもこれが、「理想的」とは言えません。多くの人は、ジュースなどの残りを流しに捨て、ペットボトルを水道水(飲み水)で洗うと思います。つまり、見えにくいですが、ここにかかる上下水道代は皆さんが負担していることになります。1本1本、手で洗うと、少し余計に水も使ってしまいます。1軒、1軒が利用する水は僅かなので、実際には、皆さんの下水道料金が目に見えて高くなることはないと思いますが、市民全体では確実に負担は増えています(これを社会コストと言います)。工場でまとめて工業用水(飲めない水)で洗う方が、本当は安く済むはずです。風呂の残り湯などで洗えば、社会コストは少し小さくなりますが、わざわざそうするのは大変ですね。今後、ペットボトルだけでなく、様々な廃製品を資源循環させるのに、それぞれに家庭で作業することになると大変です。製品毎に捨て方が異なると何百通りもの捨て方を覚え、毎日、これに多くの時間を費やすことになってしまいます。このような家庭内の作業はボランティアなので、お金は見えてきませんが、この負担が大きくなると、これも社会コストとして考えることができます。さらに、法律で企業が負担している費用も、結局は、その商品の値段に含まれることになるので、市民が支払うお金も知らず知らず増えていくはずです。これらは、より良い社会のために必要な負担だと思いますが、その負担を最小限にする技術が生まれれば、さらに良い社会になりますね。

物理選別が高度化できれば、このような作業がリサイクル工場でできるようになり、家庭の負担が減るとともに、社会コストを減らすことができます。市民の負担を最小限にするには、リサイクル工場自身で商売が成立する必要がありますが、プラスチックなど比較的安い原料を資源循環させるには、高度な物理選別を「より安く」行わなければなりません。高度な物理選別を極めて安く行うためには、金(きん)を回収するよりも難しい技術開発が必要になってきます。

資源循環の理想

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