第5回 物理選別の難しさ ① ~犯人捜しに例えて~
物理選別は、「混ざった状態の粒子を、人の意志(希望)に基づいて選り分ける操作」だと言いました。宇宙開発とかロボット開発とかと違い、一見すると簡単に思えるかもしれませんが、現代の科学をもってしても解決できない難しさが潜んでいます。今回からは、その難しさを例え話を交えて、1つ1つ解説していきます。
リサイクル工場には、さまざまなゴミが運ばれてきます。缶やペットボトルなどは分別して回収されますが、高価な金属を含む製品は、種類ごとに回収されていないものが多くあります。ここで「高価な金属」を「犯人」として、コナン君のような犯人捜しに例えてみます。都合よく事件現場に警察官がいて、直ちに建物を封鎖し、関係者を集めて「この中に犯人がいます!」というシーンを見ますね。1人1人のアリバイが聞けるので、トリックを見破って犯人が見つけ出すことができます。でも普通は、都合よく警察官がいることは少ないので、犯人は逃走していることが多いですよね?「犯人は市内のどこかにいる」となると、多くの警察官が膨大な時間をかけないと捕まりません。両者の違いは、犯人捜しのスタートが、「建物内のわずかな人」なのか、「街中の大勢の人」なのかですね。
リサイクルも、どこからスタートするかが重要です。「高価な金属」を含むスマートフォンやゲーム機だけが回収されれば、比較的取り出すのは易しくなります。一方、リモコンや扇風機など、価値の低い様々なゴミの中に混ざって薄まってしまうと、高価な金属を取り出すのは難くなり、コストもかかります。以前、お話しした学校のグランドからは金(きん)を回収しないのと同じで、コストがかかり過ぎれば、高価な金属も回収できずに捨てられることになります。
図は、このように薄まったゴミから、高価な金属を種類別に回収することの難しさを示しています。リサイクル工場に運ばれてくるゴミは内容がバラバラなため、そのままでは新しい技術を研究するのが難しいのです。そこで、研究では、実際よりも中身を単純にした模擬試料を使うことが多くなります。製品や材料を開発する研究では、実際の試料と模擬試料の差が小さいので、この方法でもうまくいくことが多いのですが、ゴミの場合はその差が大きく、この方法ではなかなかうまくいきません。コナン君の例えで言えば、研究では「建物内のわずかな人」という都合の良い状況を想定しても、現実には「街中の大勢の人」となることが多いので、実際の工場で活躍できる技術にならないことが多くあります。これが、物理選別の難しさの1つです。真・物理選別学による未来型研究では、実際のゴミに対して、どうすれば社会に役立つ技術になるかを考えて研究することを目指しています。