第3回 物理選別学の役割とは
粒子を選り分けて回収する操作では、粒子ごとに場所を移し替えるだけで粒子自体は変化しません。移動させるだけなので、物理選別を含むこのような方法を、広く「物理プロセス」と呼んだりします。一方、第1回で記した、塩を溶かして回収する場合のように、熱や薬品で粒子自体を変化させて回収する方法を、「化学プロセス」と呼びます。りんごの例のように、物理プロセスは比較的簡単に、つまり、実際の工場でも安くできます。これに比べて、塩の回収のような化学プロセスは手間とエネルギーがかかるため、費用が高くなります。ただし、物理プロセスでは取り除けない物も化学プロセスでは除去できるため、原料にするときには、最終的には化学プロセスが使われます。では、何のために物理プロセス(物理選別)があるのでしょう。
リサイクルにおいて、化学プロセスは最後の仕上げです。捨てられた製品は、普通、さまざまな種類の物が混ざって回収されます。もし、金(きん)を回収しようとした場合、スマートホンやデジタルカメラには多く入っていて、1トン集めると数十グラム位の金(きん)が回収できます。ただ、他の製品では1グラムも入っていない物も多くあります。これらが混ざると、金(きん)が薄まります。つまり、混ざったままでは、より多くの製品を溶かさなければならなくなり、もともと費用がかかる化学プロセスの費用がさらにかさんでしまいます。そこで、費用のかからない物理選別で、できるだけ濃縮しておくことが重要となります。化学プロセスにかけて採算が合う最低限の濃度は、金属の種類ごとに異なります。物理選別でその濃度を越えれば、その金属はリサイクルされて材料資源として再利用されます。一方、その濃度を越えられなければ、化学プロセスにかけられることはなく、基本的には材料資源として利用されません。基本的にと言ったのは、濃度の薄い金属も、必ずしも捨てられる訳ではないからです。その金属本来の使い方はされず、つまり、資源にはなりませんが、何らかの形でリサイクルされています。このようなリサイクルをカスケードリサイクルと言いますが、これについては後で説明いたします。
いずれにしても、物理選別で各金属をどこまで濃縮できるか、つまり、金属含有率の高い粒子と、そうでない粒子をどこまで選り分けられるかによって、材料資源として再び利用できるかどうかが決まります。ただ、前回でも述べたように、リサイクルで高度な物理選別技術が利用されるようになったのは、ごく最近のことなので、学問として未だ十分な整理ができていません。都市鉱山にはさまざまな金属が何トン含まれているとか、何億円分あるとか言われますが、そのうち何トン、何億円分回収できるかは、物理選別の技術力にかかっています。このように、資源を循環して利用するための決め手となる技術として、物理選別は、これからますます重要な役割を担うことが期待されています。