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大木研究室
第26回

選別装置の選択 ④

 

~個別選別と集合選別 3 ~

個別選別と集合選別 3

これまで、選別装置を選択する際の、個別選別と集合選別の特徴を述べてきた。今回から、個々の装置の特徴について述べたいと思う。とはいえ、個別選別は主にセンサーの性能に依存する装置であり、個々のセンシング技術については、それを専門とする多くの識者がおられるであろう。また、集合選別についても、筆者自身がゼロから設計・開発してきた装置については相応の知見を有するが、単なるユーザでしかない装置に関しては、その神髄を語れる立場にない。そこで、ひとまず、各種のリサイクル用途に選別機を選択する立場から、大まかな分類をしてみることにする。まずは、個別選別の分類について述べる。

個別選別(ソータ)は、第24回で記したように、「選ぶ工程」と「分ける工程」が独立した装置である。しかし、装置としては「選ぶ工程」で分類され、「分ける工程」は粒子サイズなどに応じて適切な機能をあてがうのが普通である。現在、市販されているソータは、カラーソータ、近赤外ソータ、XRTソータ、XRFソータ、LIBSソータ、各種AI利用ソータなどがある。これらは日進月歩の分野であり、様々な波長の電磁波や分光技術の利用、そのイメージング機能、受信情報のAI解析や、これらの組み合わせによって、今後、更に多様な形式のソータが創出されるであろう。旧来は利用される電磁波の波長などで分類されていたが、現在は、複数のセンサーによって得られる情報をAIが判定するタイプなどもあり、分類が複雑になるため詳細な図表化は断念した。ごく簡単に整理したものを図4.1.4に示す。

図4.1.4 ソータに利用される主な検出技術(開発中技術を含む)

製品や部品が単色の場合には、「可視光」を利用するカラーソータが古くから利用されている。また、「近赤外光」ではプラスチックの種類が判定できることから、廃プラスチックの選別には近赤外ソータが普及している。旧来は単に、対象物の反射スペクトルを解析するだけであったが、ピクセルごとに各波長の強度を判定できる「ハイパースペクトルイメージング」技術も普及している。一方、可視光に隣接する近赤外領域では、黒色物の反射光が得られず、プラスチックの種類を判定できない。そこで、赤外域の「ラマン分光」や、更に長波長の「テラヘルツ波」を利用した検出技術などが検討されている。近赤外に比べると黒色廃プラスチックの種別判定精度は格段に改善されるようだが、未だ普及には至っておらず、開発が待たれるところである。

一方、「2D・3D」の画像を利用し、対象物が何かを「AIが判定」するソータが普及してきている。現在は、建材や容器など単純な構造物の選別に限られ、かつ、学習の度合いによって選別精度が変わるため、その有効性は使い方次第という段階である。筆者らが進めているプロジェクトでは、製品の種類を識別可能なAIソータも開発中である。また、「XRT(透過X線)」ソータは、金属/非金属の識別や、軽金属/重金属の識別などに利用されてきたが、これを製品内部の構造解析に利用したソータも開発中である。

金属の種類や合金の判定などには、元素分析が可能な「XRF(蛍光X線)」ソータや「LIBS(レーザー誘起ブレークダウン分光)」ソータが利用される。いずれも粒子表面の特定部位の元素分析となるため、単体分離粒子のように構造が単純なものには有効であるが、複雑な粒子構造を持つ片刃粒子に対しては、識別精度に課題が残る。物体に「中性子線」を照射したときに発する即発γ線(PGNAA)を利用した、多元素同時分析法をソータに利用するアイディアも発表されている。実用化すれば強力な元素分析能を発揮することが期待されるが、安全性の問題など、普及には課題も多いと予想される。

この他、磁界中を導体が通過するときに流れる「誘導電流」によって識別する、メタルソータなども普及している。原理的には渦電流選別機と類似するが、粒子の反発力によって選別を行うのと違い、選別の境界条件を受信した信号によって人が決められる点に違いがある。個別選別は、集合選別ではできないことを成し遂げるための装置として発展し、その出現によって、選別機開発の幅が大きく広がった。この点は、今後も変わらないと思われるが、個別選別機の新たな機能開発だけに拘ると、逆に、集合選別で容易にできてしまうことに行き当たることもある。実際、筆者は、このような相談を幾つか受けてきている。また、XRTや中性子線を除く多くのソータが、粒子表面しか見ていない点も注意が必要である。AI認識を含め、個別選別機も決して万能ではないので、目的達成のために利用可能な選択肢の1つとして、集合選別機も含めた俯瞰した見方をすることが重要である。

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