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大木研究室
第2回

真・物理選別学(TRANSortics)とは(後編)

選鉱学の歴史を振り返ると、多成分が混在した固体粒子群を物理選別する操作は、有史以前より行われてきている。中世においては既に選鉱学は体系化されてきたが、産業革命以降、資源多消費文化が芽生えるとその技術開発は加速する。特に、19 世紀末から 20 世紀前半には 2 度の世界大戦などもあり、金属や石炭を大量生産するための前処理技術として、選鉱学は大いに発展した。しかし、皮肉なことに、世界的な戦争状態から脱したここ 70 年余り、研究開発は継続されているものの、革命的な技術開発はほとんど行われていない。現在の物理選別の基礎は 1940 年~1950 年頃までに築かれた選鉱学に基づくものであり、その解釈の上に、今日まで、現象論的解釈を積み上げてきた。しかし、詳しく見ると、その基礎自体が、当時の技術水準で、原因と結果の因果関係を類推したに過ぎないものも多い。現状の理論と実際の現象は、およそ矛盾はしないものの、厳密には合致しない場合がほとんどであり、多くは対象物の物性の不均一性がその要因であるとしてきた。鉱山の場合、個々の粒子は不均一であるが、概ね同種の粒子を長年にわたり選別するため、経験則が通用する。つまり、厳密な理論的裏付けがなくとも、およその傾向に基づいて経験的に制御すれば、操業に大きな支障は生じない。一方、都市鉱山(リサイクル)の場合には、事情が大きく異なる。個々の粒子の不均一性に加え、対象物が極めて多種多様であり、さらにその組成は時々刻々と、あるいは年々変化してゆく。旧来の鉄スクラップを回収するような単純な選別では経験則も通用したが、多様な非鉄金属あるいは非金属の高純度回収などを選別の対象とする場合には、経験則だけでは組成変動に追従することは難しい。

現代の科学水準からみれば、選鉱学で築かれた因果関係は、あまりにも簡略化されたものであったり、およその辻褄があっているだけで真の理由が異なるケースも散見され、物理選別機構の多くは、未だブラックボックスのままと言っても過言ではない。都市鉱山における物理選別の高度化にはその解明が不可欠であり、天然鉱山における選鉱の更なる高度化にも繋がるものである。このようなブラックボックスは、現代の科学をもってしても直ちに解明できないものもある。しかし、旧来の選鉱学を学んだ者にとっては、「理論と現実の不一致は、すべて対象物の不均一性、多様性のせい」と本質を回避した方が都合が良く、世界的に見ても、ブラックボックスの存在自体が認識されていない場合が多い。真・物理選別学(TRANSortics)では、筆者の知見に基づいて、このブラックボックスをできる限り明確化することを目指した。したがって、旧来の知見に基づく道理を記述した通常のテキストとは異なり、本コラムは、疑問を投げかけるに留まる部分も少なくない。必ずしも解答を導くに至らない部分も多いため、従来テキストに記載されている、辻褄合わせの道理の「利用価値」を直ちに否定するものでもない。本コラムの狙いは、読者にブラックボックスの存在を認識していただき、筆者の疑念を共有してもらうことにある。未来を拓く次世代の日本の科学者が、本コラムを契機として、多くのブラックボックスの解明を目指し、ひいては、資源循環・資源安定供給のキーテクノロジーである物理選別技術の、飛躍的な進歩につながることを期待して執筆するものである。

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