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大木研究室
第 1 回

真・物理選別学(TRANSortics)とは (前編)

本コラムは、主として資源の原料化を目的に、固体粒子を選り分けて目的成分の純度を高める操作を想定して書かれたものである。物を分ける操作は、様々な産業分野で利用されている。物を分けるという言葉として、最も広く用いられるのは「分離」であろう。これは、固体、液体、気体によらず、一体化したものが 2 つ以上に分かれる現象を示すが、分かれたものがどのような状態であるかは限定しない。また、意図せず分かれた (例:マヨネーズが分離してしまった) 場合にも「分離」が用いられる。この意味の最も上位概念の用語と言って良い。一方、異種混合の固体粒子群を、意図的に同じ成分同士に分ける操作を「縮分」、意図的に任意成分の粒子を選り分ける操作を「選別」と呼ぶ。筆者が目指す技術の体系化は、この「選別」に関するものである。「選別」のことを「分別」と呼ぶ例も散見されるが、これは誤用である。「分別」は国語的には「ふんべつ」であり、本来、分ける操作を意味しない。市民がごみを種類別に分けて出すことを、「分別ごみ」と呼んだことに起因する造語である。分別ごみや市民が予めごみを分けておく行為は「分別」と呼んで良いが、混合粒子群を意図的に任意成分(物性)の粒子に選り分ける操作はすべて「選別」である。「選別」は工業的に行われるが「分別」は市民の行為であるため、「選別技術」という用語はあるが、「分別技術」という用語は本来存在し得ない。

選別技術は、各産業分野に密着して進化したため、金属鉱山では「選鉱」、石炭鉱山では「選炭」、粉体工学では「分級」などと呼び方が異なる。これらの基本原理は同じであるが、統一した呼び方があまり定着していない。ただ、鉱山においては学問として「選鉱学」があり、選鉱・選炭に用いられる技術を総称して「物理選別」と呼ぶことがある。「選別」は固体粒子を選り分ける操作であるので、「選別」自体に物理的手法の意味が含まれており、「物理」を付けると意味の重複となる。つまり、「選別」と「物理選別」は完全に同じ意味である。これは、誤用を含め、「選別」を使わずに「物理分離」「物理分別」など、「物理」がないと操作が限定しないことから、これを付ける習慣が生まれたと想像される。また、製錬など多くの原材料製造工程では、前処理として物理的手法である選別で固体原料化(1次濃縮)したのち、固体を溶解するなどの化学的手法が用いられることから、手法の違いを明確化するために敢えて付けたともいえる。筆者も、対象物を特定しない技術体系として、言葉の重複性を踏まえても、手法の性格が明確にわかる「物理選別」という呼称が相応しいと考える。また、英語で「物理選別」のことを、筆者は長らく physical separation と訳してきたが、separation には、必ずしも人間の意図に基づくという意味は含まれないので、「分離」と同様の意味となる。何かの物性を基準に種類別に分けることは「sorting」であり、欧米でも「選別」に対して広く「sorting」が使用されることからも、「物理選別」は physical sorting と呼ぶべきであろう。以上を踏まえて、筆者は、旧来の選鉱学を超えた物理選別学をまとめるにあたり、これまでの選鉱学における誤解や未解明な課題を正しく解釈するという思いを込めて、「真・物理選別学」と名付けた。また、英名としては、完全に、超越してなどの意味をもつ「trans-」と「sorting」を組み合わせた造語として「TRANSortics」(トランソーティクス)という名称を充てた。

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