第19回
単体分離と選別結果の関係 ②
~選別結果のトリック~
選別結果のトリック
前回、選別工程における良否判断の指標を整理したが、これらを正しく理解しないと、選別の良否を見誤ってしまう。今回は、これらの指標による数字のトリックの例を紹介する。
「金属Aを10倍に濃縮可能に!」という見出しをみると、非常に高度な選別技術のように見えるが、必ずしもそうとは言えないという例である。例えば図3.1.2のような場合である。
図3.1.2 選別前後の産物組成~10倍に濃縮の例~
「選別前」粒子群のA成分が5%。これを「回収産物」2%、「除去産物」98%に選別したとする。「回収産物」のA成分が50%であったとすると、選別前後の「濃度比」(富鉱比)=50%/5%=10であるから、間違いなくAの純度は10倍になっており、この見出しに偽りはない。しかし、前回に倣って、「回収産物」のA成分に対して、重量ベースで計算すると、以下のようになる。
純度(品位,濃度)=50% 濃度比(富鉱比)=10.0
回収率(収率)=20% 歩留まり=2%
分離効率=18.9%
ここでの問題は「回収産物」の「純度」にしか言及しておらず、「回収率」を示していない点にある。「回収産物」のA成分純度は10倍になったが、A成分の80%を「除去産物」としてロスしているため、「分離効率」は18.9%でしかなく、大して高度な選別技術とは言えない。
次に「金属Xを95%回収可能に!」という見出しについて述べる。これも、図3.1.3のような場合もあり得るということである。
図3.1.3 選別前後の産物組成~95%回収の例~
「回収産物」のA成分に対して、重量ベースで計算すると、以下のようになる。
純度(品位,濃度)=5% 濃度比(富鉱比)=1.0
回収率(収率)=95% 歩留まり=95%
分離効率=0%
「選別前」のA成分5gが、「回収産物」として4.75g回収されているので、回収率は間違いなく95%である。しかし、この例では純度が全く向上していない。「回収産物」と「除去産物」の純度が同じなので分離効率は0%。これは、縮分(分割)されただけで、選択的な分離=選別は全くなされていない。
ここまで酷い例は実際にはないと信じたいが、「純度」あるいは「回収率」だけに注目してしまうと選別の高度さを見誤ってしまうため、まずは、「分離効率」を計算してみることが必要である。逆に言えば、上記の指標の一部しか開示されておらず、分離効率の計算ができない場合には、本当に精度の高い選別ができているかどうかは判断することができない。
なお、「選別精度」「選別技術」「分離効率」と言っているが、これは物理選別工程全体に対する選別結果の良否という意味である。これまでも述べてきたように、選別精度が低い場合に、その原因が選別自体にあるのか、単体分離が不十分なためなのかは、上述の指標からは判断できない。したがって、前記した分離効率18.9%も、選別自体は完璧であり、その粒子状態における選別の可能性を最大限に引き出した結果である場合もあり得る。ただし、その場合にも、どこかに低分離効率となる原因があるはずで、それが究極の技術なのか、更なる改善の余地が残されているのかの判断基準として、まずはこれらの指標の意味について、正しく理解していただきたい。