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大木研究室
第18回

単体分離と選別結果の関係 ①

 

~選別結果の整理~

選別結果の整理

これまで、粉砕後の単体分離状態を推定することは、選別工程への適否の判断材料として役に立つことを述べてきた。今回から、単体分離と選別結果の関係について述べたいと思う。まずは、選別工程における良否判断の指標について簡単に整理する。

図3.1.1は、選別前後の産物の組成を示した例である。対象の粒子群には、通常、様々な片刃率のものが混在するが、選別結果は選別前後の産物の分配と組成だけで判断され、単体分離状態は計算に反映されない。ある意味、この点が、単体分離の意義を不明瞭にしているとも言える。実際には多成分が混在している場合が多いが、選別結果においても単体分離と同様に、回収対象のA成分と、除去対象のB成分(A成分以外)の2成分で考える。例えば、図3.1.1のように、「選別前」粒子群のA成分の平均組成(濃度)が30%の場合を考えてみる。つまり、B成分の平均組成は70%である。このまま%で計算しても良いが、混乱しやすいので重量ベースで計算することをお勧めする。「選別前」の重量は選別試験に供した重量で良いが、ここでは仮に100gとした。これを「選別工程」に供したのち、A成分が濃縮された「回収産物」が、全体の20%回収されたと考える。そして、「回収産物」の平均組成を分析したところ、A成分が80%、B成分が20%であったとする。同様に、B成分が濃縮された「除去産物」は全重量の80%であり、その平均組成はB成分が82.5%、A成分が17.5%であったとする。重量ベースで考えると、選別前試料の100gは「選別工程」で20gと80gに分けられ、「回収産物」20gの内訳はA成分16g、B成分4gとなる。他方、「除去産物」80gの内訳はA成分14g、B成分66gとなる。

図3.1.1 選別前後の産物組成の例

選別結果として、まず注目されるのが、「回収産物」のA成分「純度」(濃度,鉱山では品位)であり、既に図示しているが16/20=0.8(80%)となる。元の純度0.3(30%)から、選別前後の「濃度比」(鉱山では富鉱比)=0.8/0.3=2.67という指標を示すこともある。次に注目されるのが、A成分の「回収率」(収率)である。元のA成分重量のうち、どれだけ「回収産物」として回収されたかであり、純度より回収率を優先させる場合も少なくない。重量ベースで考えると、元のA成分30gのうち16gが回収されたので、A成分回収率=(100g×0.2×0.8)/(100g×0.3)=16g/30g=0.533(53.3%)となる。リサイクル現場では、回収率と歩留まり(ぶどまり)を混同する様子も散見されるが、歩留まりはA/B成分に関係なく、選別工程の投入量に対する「回収産物」の割合であり、この場合、歩留まり=20/100=0.2(20%)となる。「回収産物」の総量しか分からないので、歩留まりだけでは選別成績の良否は判断できない。「選別工程」では、「回収産物」の「純度」を上げると「回収率」が下がり、「回収率」を上げると「純度」が下がるという状況が起きやすい。現場において目標の「純度」や「回収率」があれば、それが境界条件となるが、これが決めきれない場合は、「分離効率」という指標を用いる。「分離効率」には幾つか提案されているが、最も一般的なのは「Newton効率」と呼ばれる指標である。これには同じ計算結果が求まる変形式が幾つかあり、それぞれ提案者の名前を冠している。日本では「Newton効率」として定着したが、欧米では「Hancock効率」と呼ばれることが多い。式の形が違うだけで、数学的に見れば同じ式である。ここでは、単に「分離効率」と呼ぶことにする。好みが分かれるが、筆者が感覚的に一番わかりやすいと思うのが、下記の計算方法である。

「回収産物」におけるA成分の分離効率は、

分離効率=A成分の回収率-B成分の回収率

「回収産物」のA成分「回収率」=0.533,「回収産物」のB成分「回収率」=(100g×0.2×0.2)/(100g×0.7)=4g/70g=0.057(5.7%)なので、

分離効率=0.533-0.057=0.476(47.6%)

となる。A成分「回収率」から、誤って回収されてしまったB成分「回収率」を引いたものが「分離効率」となる。この式はAとBの分離精度を示すので、「除去産物」に対するB成分の「分離効率」を求めても同じ値になる。重量ベースで計算すると、

分離効率=B成分の回収率-A成分の回収率
    =(66g/70g)-(14g/30g)=0.943-0.467=0.476(47.6%)

また、AとBが完全分離されれば、(回収産物において)A成分「回収率」=1,B成分「回収率」=0となるので、「分離効率」=1-0=1(100%)となる。
 以上、図3.1.1のA成分に対して、選別結果に用いられる主な指標を%表示でまとめると、以下のようになる。

純度(品位,濃度)=80%  濃度比(富鉱比)=2.67
回収率(収率)=53.3%   歩留まり=20%
分離効率=47.6%

この値が、優秀であるかどうかは、選別の難易によるので一概には言えない。基本的には複数の選別結果の比較のための指標である。また、これらの指標は、「粉砕工程」~「選別工程」を経た物理選別プロセス全体に対する指標であって、「選別工程」の精度を示すものではないという点に注意が必要である。この点については、別の回で詳述する。なお、「Newton効率」のNewtonとは、Isac Newton(1642-1727)のことではなく、20世紀前半に同式を導出した技術者の名前である。

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