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大木研究室
第17回

なぜ単体分離が重要なのか ⑤

 

~課題をまとめてみる~

課題をまとめてみる

前回までで、単体分離がおよそどんなもので、どういう状況になるのが望ましいのかについては、ご理解いただけたと思う。ここでは、これまでの説明と一部重複するが、単体分離という概念を実際に活用しようとしたときの課題について述べる。

まず、最大の課題は、第13回で述べたように、単体分離分析は顕微鏡をベースとしているため、現状、リサイクルの主対象である概ね1cm以上の粒子に対して、合理的な測定法が確立されていないという点である。カメラで撮影した粒子の画像処理をすれば代用にはなるが、表面情報しか得られないため、本当に単体分離しているかは判断できない。透過X線やX線CTなどを使う方法もあるが、測定できる対象物が限定されたり、多数の粒子を測定することが難しかったりする。当面は、手に取って良く眺めるなど、原始的な方法で対応するしかなく、合理的な測定法の確立が待たれるところである。

一方、数mm以下の粒子に対しては、素材の識別ができれば光学顕微鏡でも測定可能であり、元素分析をしながらの測定が必要であれば、MLAなどSEM-EDXベースの分析装置が存在する。通常は、多数の粒子を樹脂内に埋め込み、その研磨面(2D断面)を測定する。ただし、そこには、研磨面(2D)分析が故の誤差、ステレオロジカルバイアスが生じる(第13回参照)。ステレオロジカルバイアスは粒子径や単体分離度など、粒子状態に起因する分析をしたとき2D測定値と3D実態との間に生じる誤差である。粒子状態を分析する場合にのみ生じるので、例えば、その粒子を粉砕しても変化しない、素材や元素の割合などでは発生しない。これらの情報は、多数の粒子を測定すると2D測定値=3D実態となるため、単体分離も同様になるとの誤解もみられるが、ステレオロジカルバイアスが生じる場合には、多数粒子を測定しても2D測定値と3D実態は同じにならない。これは図2.2.7のように、研磨面の2D粒子は、多くの場合、3D実態の最大径とはならず、また、片刃粒子も単体分離した粒子のように見える場合があるためである。つまり、粒子径は実際より小さく、単体分離度は実際より大きく測定される。その結果、単体分離度は、グラフに示されるように、多くの個数を測定することで測定誤差は、収束していくが、収束した値は常に3D実態よりも過大な値となってしまう。現在、筆者らは、この点を克服した新たな分析装置を開発中であり、製品化された際には、本コラムでもその機能を紹介したいと思う。

図2.2.7 2D測定による3D実態との誤差

次に測定結果の利用に関する課題について述べる。既述のように、リサイクル現場では単体分離度を測定する機会があまりないことから、ここでは、鉱山における選鉱を例にしてその課題を述べる。選鉱でこのような分析をする機会は、①粉砕前、②粉砕後、③選別後の3つケースが考えられる。

①粉砕前には、例えばサイズが1mmの粒子の中に、回収したい鉱物がどのくらいのサイズで存在するかを知るために測定する。粒子の中の部分のサイズなのでドメインサイズと呼ぶことにする。選鉱の対象となるのはおよそ10μm以上なので、ドメインサイズが100μm位あれば、10μm以上に粉砕しても、相応に単体分離するだろうと推定する。ドメインサイズが数μmだと、この試料の選鉱は難しいだろうと、粉砕前に知ることができる。ただし、粉砕によってどの程度、単体分離するかについては知る由がなく、あくまで相対的な単体分離の難易を知るに留まるため、情報としては十分とはいえない。

②粉砕後には、実際にどの程度、単体分離したかを知るために測定する。ただし、過去に述べたように片刃状態を数値化する術がないため、数値化するのは単体分離度となる。単体分離度が極めて高い場合は問題ないが、単体分離の一性質を示しているに過ぎないため、これが低いからと言って、直ちに選別困難であるとは言い切れない。また、この結果から、選別時にどの程度の分離効率(別の回で解説予定)が得られそうかを知ることもできない。

③選別後には、選別状態が良好かを確認するために測定する。元素ベースの分離効率は元素分析装置で対応できるが、鉱物ベースの分離効率を知るためには、単体分離度を測定するためのMLAなどが利用される。分離効率の課題は、後日、詳述するが、分離効率が低い場合、それが単体分離不十分によるものか、選別精度不十分によるものかが判断できないことが課題である。

以上の課題についても、現在開発中の装置で解決できる予定であり、いずれ、本コラムでも解説したいと思う。

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