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大木研究室
第16回

なぜ単体分離が重要なのか ④

 

~単体分離の「させ易さ」を整理する~

単体分離の「させ易さ」を整理する

多くの工業プロセスにおいて粉砕機(破砕機)は、流動性、加工性、反応性等を向上させるため、複合粒子を「均一」な粉体にすることを目的とすることが多い。一方、物理選別における粉砕の目的は、単体分離という「不均一」な粒子状態を実現する選別前操作と位置付けられる。しかし、単体分離を促進させるための機構は対象物によって異なり、また、その技術思想も構築されておらず、現時点で万能な単体分離機なる装置は存在しない。比較的大きく、構造に規則性があるものは、人手や機械による「解体」によって不均一化(偏在化)できるが、それ以外のものは、破砕機によって単体分離を達成させるしかない。

図2.2.6は破砕による単体分離の進行と、破砕産物の不均一化の関係をまとめたものである。前回の図2.2.5状態Aあるいは状態Cのモバイル電子機器(片刃粒子)をスタートして、レアメタルXを単体分離させることを考える。以後、前回、図2.4.1の破砕前を大文字のアルファベットで、図2.5.1の破砕後を小文字のアルファベットで示す。

図2.2.6 破砕によるレアメタルXの単体分離のさせ易さ

状態Aの場合、破砕時間の経過とともに出発粒子の細分化が進行すると、次第にレアメタルXの単体分離粒子が生まれる。もし、短時間の破砕により、粗粒の段階で全てのレアメタルXが単体分離されれば、「状態a」に示す最良の状態となり、理想的な選別前処理が実現したことになる。しかし、「状態b」のように、長時間の破砕により細粒子化して、やっとレアメタルXの単体分離がなされたなら、その後の選別が難しくなる。「状態b」は便宜上、同一粒径で描いているが、実際には破砕サイズに幅が生じ、たとえ単体分離されても、サイズが数μm以下になると、選別は極めて困難になる。単体分離という「個別粒子の不均一化」が達成されても、細粒子化して全体が良く混ざった状態となれば、「集合体としての均一化」が進んでしまい、物理選別は困難になると考えていただきたい。このように、破砕による単体分離の促進は、集合体としての不均一性を犠牲にしながら、個別粒子の不均一化を達成させる操作である。すなわち、集合体の不均一性を維持しながら、個別粒子の不均一化を達成させることが理想であり、できる限り「粗粒段階で単体分離を達成させる」ことが肝要である。一方、状態Cでは、長時間の粉砕をしても、各粒子が均一な片刃状態(「状態c」)のままとなり、物理選別によるレアメタルXの濃縮は不可能となる。

次に、図2.2.6の破線は、粒子が一様に破砕される「ランダム破砕」のケース、実線は、単体分離が促進されるような「選択破砕」されたケースをイメージしたものである。粒子を細かくすればするほど単体分離は進行するが、「粗粒段階で単体分離を達成させる」ことを踏まえれば、いずれの場合も、適度な破砕粒度で止めるという最適条件が存在する。例えば、破線の最適条件で単体分離度が不十分な場合、この破砕機では運転条件をいくら変えても、最良の単体分離状態に近づけることはできないから、異なる破砕機の選択が必要となる。

選択破砕とは、レアメタルXとそれ以外の成分の境界での破壊が選択的に起きることであり、これが万能かつ理想的になされれば、上述の「単体分離機」となる。現状、これは存在しないが、既存破砕機でも、特定の廃製品やレアメタルに対して、何らかの選択性が発現することはあり、このような組み合わせが見出されれば、図2.2.6の実線にように単体分離が進行する。さらに、最適条件での運転がなされれば、「状態a」に近づけることができる。

なお、分野によって見解が異なるかもしれないが、粒子を細分化する操作を広く「粉砕」と呼び、この操作の最も一般的な用語である。一方、多くの粉砕が細粒子化を目的とするのに対し、これを目的とせず、粗く粉砕することを特に「破砕」と呼ぶものと認識している。選別工程において単体分離を目的とした装置の多くは「破砕機」であり、本書でもなるべく「破砕」という言葉を使用している。ただし、細粒子化や俯瞰的な視点で述べる場合など、状況によって「粉砕」を使用することもあるが、基本的には同様の操作を意味していると理解いただきたい。

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