第15回
なぜ単体分離が重要なのか ③
~単体分離の「され易さ」を整理する~
単体分離の「され易さ」を整理する
単体分離の捉え方を、廃製品に当てはめて考えてみる。廃製品は鉱石のように相似的な構造になっておらず、具体的な製品や部品を想定するとたくさんの階層構造ができて説明が複雑になるため、概念として整理していきたい。
例えば、とある製品から、レアメタルXを回収することを考えてみる。「この製品にはレアメタルXがたくさん含まれているから回収し易い」というような解釈を耳にする。これは必ずしも間違ってはいないが、物理選別における回収のし易さという点では、正確な表現ではない。回収し易いかどうかは、破砕後に単体分離され易いかである。単体分離され易いかどうかは、粉砕前の状態においてドメインが不均一化しているか、つまり偏在しているかによる。一方、たくさん含まれているかどうかは、単位選別操作でどれだけレアメタルXが回収できるかの効率に関係する指標である。
図2.2.5を見ていただきたい。横軸にレアメタルXの含有率、縦軸にレアメタルXの偏在度を示している。図のようなモバイル電子機器の中身は複雑であり、これまで示してきた片刃状態を示す模式図とイメージをすり合わせるのが難しいかもしれないが、レアメタルXが、機器内の特定エリアにだけに存在していたり、特定の電子素子などだけに含有している場合は、「偏在」していると考えてよい。一方、機器内の至る所に存在していたり、例えば、めっきのようにあらゆる部品に使用されている場合は、「分散」していると考える。状態Aと状態Bを比較すると、いずれもレアメタルXは偏在しており、異なるのは含有率である。状態Aの機器1台から回収されるレアメタルXの量を、状態Bの機器から回収するには6台の選別処理が必要となり、同じ量のレアメタルXを回収するのに6倍の選別操作が必要である。これが「この製品にはレアメタルXがたくさん含まれているから回収し易い」という解釈の根拠であろう。
図2.2.5 レアメタルXの濃度と偏在性による単体分離のされ易さ
次に、状態Aと状態Cを比較してみる。状態Aは第14回の図2.2.2の「粒子X」のような状態。状態Cは「粒子Y」のような状態と考えてほしい。いずれもレアメタルXの含有率は30%であるが、状態Aは偏在していて、単体分離され易く、選別も容易と考えられる。他方、状態CはレアメタルXが至る所に分散していて、単体分離が困難であり、選別できる見込みは低い。例えレアメタルXが5%であっても、状態Bの選別は技術的に可能であり、あとは採算の問題だけとなるが、状態C、Dでは、選別自体が技術的に不可能といってよい。このように、レアメタルXの濃度と偏在度という視点でみると、物理選別する上で望ましい機器の状態は、状態A>状態B>状態C≒状態Dとなる。「≒」としたのは、前回述べたように、完全に分散していなければ、わずかな濃縮の可能性はあり、その場合は高濃度の方が若干有利になるという含みである。
ここでの偏在度とは、言うまでもなく、単体分離の度合いである。既述のようにリサイクルの対象となる概ね1cm以上の粒子に対して、単体分離度や片刃分布を測定する方法が確立されていないが、鉱石と違い、人間が作った製品は、製品の構成や組成は知ることができる。単体分離を直接、分析できなくとも、製品情報を得ることにより、レアメタルXの偏在度を推定することは可能であり、物理選別の可否を判断する有力な情報となり得る。