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大木研究室
第13回

なぜ単体分離が重要なのか ①

前回、複数の成分で構成された粒子を破砕などで細分化した際、それぞれの成分がどのくらい単体分離されるかが重要であることを述べた。多数の構成成分の単体分離を同時に評価する方法は筆者の知る限り確立されておらず、通常は、個別に考える。例えば、A,B,Cの3成分で構成される片刃粒子を細分化した場合、AとA以外(B+C)、BとB以外(A+C)、CとC以外(A+B)というように、それぞれ着目成分とそれ以外の2成分で考える。Aの場合でいえば、Aのみで構成されている粒子は「Aの単体分離粒子」、A以外のBまたはC、あるいはその両者と共存していれば「Aの片刃粒子」である。

これらの指標としては、古くから「単体分離度」が用いられる。「度(degree)」といっているが、温度などの度数でなく、湿度と同じ比率で、普通は百分率(%)や少数で表す。Aの単体分離度とは、全A成分のうち、どれだけがAのみで構成されている単体分離粒子かの「割合」である。例えば、単体分離度40%であれば、A成分のうち40%は、Aだけで構成された粒子(単体分離粒子)として存在し、残りの60%は、A以外(BやC)の成分と共存した粒子(片刃粒子)として存在することを意味する。単体分離粒子はA成分100%のものしかないが、片刃粒子は、ほんのわずかに他成分が混ざったものから、他成分中にわずかにAが存在するものまで、様々な比率の粒子が存在し得る。この比率を片刃度(片刃率)などと呼び、各片刃率を持つ粒子の割合を片刃分布と呼んだりする。

別の機会に詳述するが、物理選別とは、複数成分が均一に混ざった状態から、粒子を選り分ける操作によって「不均一化」する作業である。単体分離させる行為は、選別精度を高めるため、選別前になるべく回収対象成分を偏在化させておくことを意味する。A成分がすべて単体分離粒子として存在し、最も偏在化した状態であるならば(図2.2.1①)、理想的な選別(不均一化)ができる準備が整ったことを意味する。プレコンシューマリサイクルでは珍しくないが、ポストコンシューマリサイクルでこのような状況となることは稀である。一方、全粒子中のA成分濃度が30%であったとき、全ての粒子のA成分濃度が均一に30%であったとすれば、全く選別できず、回収物のA成分濃度は1%も上げることができない(図2.2.1③)。逆に、単体分離されていなくとも、A成分濃度が90%や10%の片刃粒子が多数存在していれば、相応の選別効果が期待できる(図2.2.1②)。このように、片刃分布も選別性に影響する重要な因子であるが、上述から分かるように、残念ながら「単体分離度」の計算に、片刃分布の影響は全く反映されていない。また、選別に寄与する片刃分布状態を、定量的に評価する指標も確立されてない。

図2.2.1 単体分離度・片刃分布による選別のしやすさの違い

さらに、上述した「割合」とは、本来、重量基準や体積基準であるべきだが、極めて多数の粒子の個々の成分比をこれらの基準で測定することが難しいために、古くは個数基準、現在でも面積基準の割合が測定されることが多い。通常は、光学顕微鏡や電子顕微鏡によって、粒子の断面(研磨面)を測定することにより分析される。このことから、顕微鏡試料として不適な、サイズが大きい粒子は測定対象とならず、リサイクル現場の主たる選別対象である概ね1cm以上の粒子に対しては、合理的な測定法が確立されていない。つまり、現状、多くの対象物は、単体分離度を測定することすらできないと言ってよい。また、仮に測定できたとしても、単体分離は濃度のようなバルク物性でなく、その粒子の状態を示す指標であるため、測定数をいくら増やしても、個数(1D)や面積(2D)で、体積(3D)を厳密に推定することができない。これはステレオロジカルバイアスと呼ばれる誤差である。

このように、選別工程に投入する粒子状態の適否を判断する指標として、単体分離度は極めて不完全な指標と言わざるを得ない。それでもなお、この概念は、物理選別において重要であり、仮にあいまいな目視判断であっても、選別工程の適否や改善の判断材料として役に立つ。

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