産業技術総合研究所
■ Site Map
産業技術総合研究所> 環境創生研究部門> 大木達也 研究室紹介> TRANSortics「真・物理選別学」> 第10回
大木研究室
第10回

真・物理選別学が想定する範囲 ②

 

~2つのリサイクル~

2つのリサイクル

リサイクル工場で実施される物理選別プロセスによって、壮大なエントロピー縮小の「出発点」となるのは、極めて多くの種類の廃製品群である。テレビや冷蔵庫といった単一種だけを見ても、メーカや年式、型式によって、大きさや構造などが様々である。自動車、小型家電、容器包装など、対象物よって初めに施される操作は異なる。大きさや構造、異種混在の状況等により、最適な対応方法は異なるため、基本的には対象物依存の個別課題となる。世の中に出回った製品はすべてリサイクルの対象となり得るので、その種類を1つ1つ挙げていけばキリがない。その網羅的整理に基づく合理的な対処方法は、今後、開拓すべき新たな研究分野とも言えるが、ひとまず本コラムでは、「出発点」の概念だけを整理する。

図1.3.3に示すように、製品製造おける従来の出発点は、海外から輸入される天然資源である。製錬原料となる鉱石や、海外で製錬された地金などが輸入される。図は金属をベースに描かれているが、他の素材も概ね同じような構図であろう。極めて単純化して描けば、金属地金から、様々な機能を持つ合金などが製造され、これらを使用して様々な機能の部品が製造され、製品として組み上げられる。製品が販売され、消費者によって社会利用されたのち、製品機能を果たさなくなると捨てられる。消費者が捨てた後に行うリサイクルは「ポストコンシューマリサイクル」などと呼ばれる。

図1.3.3 戦略的都市鉱山・資源循環とはポストコンシューマリサイクルの高度化

一方、動脈産業の様々な製造工程で発生する端材を、再び原料利用する「製造工程内再生利用」のことは、プレコンシューマリサイクル(あるいは工程内リサイクル)などと呼ばれる。リサイクル創生期において、廃品の再利用を広くリサイクルと呼んだことに起因するが、現代の視点からみれば、これを「リサイクル」と呼ぶのは些か抵抗を感じる。理由の1つは、これらは一度も社会に利用されていないということ。もう1つは「対象物の秩序性」が初めから原料レベルにあるという点である。これによって改善されるのは、製造プロセスの原料インプットに対して、金属製品や材料製品のアウトプットが増えることであり、「生産性の改善」と解釈するのがふさわしい。また、ごみの量が減るという意味では、3R (リデュース、リユース、リサイクル)における「リデュース」と位置付けられる。生産性の改善という意味で、極めて重要なプロセスであることには変わりないが、少なくとも本コラムが意図するリサイクルとは異質のものである。

残念なことに、リサイクルに関する統計資料には、「ポストコンシューマリサイクル」と「プレコンシューマリサイクル」が混在してしまっていることが多い。特にレアメタルのリサイクルなどでは、前者はほとんど実現できていないが、統計では高い数値が書かれていることが少なくない。これらのほとんどは後者に基づく数値である。いずれのリサイクルでも物理選別は利用可能であるが、都市鉱山という視点で見れば、社会に利用されたのち、エントロピーが増大してしまった物の再利用が目的となる。また、最先端製品として利用されその使命を果たした廃製品を再資源化して、再びその時代の最先端製品として利用できなければ、資源循環とは呼べないと筆者は考える。

本コラムで示す物理選別プロセスは、基本的にはすべて、このポストコンシューマリサイクルを想定したものである。すなわち、消費者が利用し、捨てられたものが集められた状態が出発点となる。

< このサイトについて >

問い合わせ:産業技術総合研究所 環境創生研究部門 大木研究室 E-mail t-oki@aist.go.jp
< このサイトについて >
© 2024 Tatsuya Oki All rights reserved.
ページのトップへ戻る