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Bio/synthetic polymer hub

Health and Medical Research Institute
National Institute of Advanced Industrial Science and Technology (AIST)

RESEARCH新着情報


バイオセンシング
 Topic 1-1. 味覚機構を模倣したバイオ試料認識技術 'Chemical tongue'

 Topic 1-2. 複雑なバイオ試料へのChemical tongueの応用

液-液相分離
 Topic 2-1. 「相分離を誘起する場」と「相分離が誘起する場」の理解


タンパク質制御
 Topic 3-1. 酵素機能を自在にコントロールする技術の確立




Topic 1-1. 味覚機構を模倣したバイオ試料認識技術 'Chemical tongue'

 私たちはこれまでに、ヒトの味覚の仕組みからヒントを得て、“Chemical tongue(化学舌)”という、
新しいバイオ試料認識技術を開発してきました。

 この方法では、例えば、図の右側に示したような高分子ライブラリを配置したアレイを使用します。
このライブラリを構成する高分子は、それぞれが少しずつ違った構造を持っています。構造が違う高分子を
試料と混ぜると、それぞれが違った強さで試料中の分子と相互作用します。

 

 この相互作用の強弱を、光などのシグナルに変換して読み取って並べると、それは試料の個性を反映した
パターン”となります。このパターン情報を機械学習によって解析することで、例えば、タンパク質や哺乳類細胞を
高い精度で識別することができます。

 
 ACS Sens. (2019), ACS Appl. Mater. Interfaces (2019), ACS Appl. Mater Interfaces (2017), Anal. Chem. (2016)など



Topic 1-2. 複雑なバイオ試料へのChemical tongueの応用

 上述したChemical tongueシステムを、より複雑な生物試料の評価に応用することにもチャレンジしています。

 例えば、細胞の分泌物情報を認識することを試みています。生体から取り出してきた細胞を培養することは、
今日では、難治性疾患や再生医療の研究において、なくてはならない技術になっています。培養している細胞は、
培養液中に様々な物質を分泌することが知られています。僕たちは、この分泌された成分を、高分子や酵素から
構成されるChemical tongueシステムによって認識することで、細胞の老化や分化といった様々なプロセスを
モニタリングできることを発見しました。

 
 東京大学吉本研究室との共同研究.Anal. Chem. (2020), Anal. Chem. (2018), Chem. Sci. (2015)


 そのほか、治療用の抗体タンパク質の品質評価にもChemical tongueを応用しています。
近年、抗体タンパク質は医薬品として広く利用され、医薬品売上高の上位を占めるようになってきました。
しかし、治療用抗体は製造から投薬までの過程で劣化しやすいという問題があり、治療用抗体の品質を
簡易にモニタリングする方法の開発が求められています。

 私たちは、DNAと酸化グラフェンの複合体のライブラリからなるアレイを利用することで、
抗体の状態特性を反映した蛍光パターンを抽出し、それによって抗体が劣化する過程をモニタリング
することに成功しています。

 
 筑波大学白木研究室との共同研究.紹介記事が日経産業新聞に掲載.Anal. Chem. (2017)


 このようにChemical tongueシステムを利用することで、従来の方法とは大きく異なる原理で
生物試料を認識することができるようになりつつあります。



Topic 2-1. 「相分離を誘起する場」と「相分離が誘起する場」の理解(作成中)

 この数年、あの生命現象もこの生命現象も「液-液相分離」で説明できるかもしれない、
と熱狂的な盛り上がりを見せています。液-液相分離とは、ある分子が一定の濃度以上になったときに、
「分子を多く含む相(高濃度相)」と「分子をわずかに含む相(低濃度相)」に分離する現象です。
生物分野で対象とされる液-液相分離の多くは、高濃度相が非常に小さいことが多く、
ラーメンの上に浮いた油滴などと似ていることから、特に高濃度相は「液滴」と呼ばれます。



 細胞内では、タンパク質や核酸のような生体高分子が、液-液相分離を起こす主役だと考えられています。
こうした生体高分子の液-液相分離は、温度やpHなどの変化に敏感に応答して可逆的に起こります。
また、形成した液滴は、特定の物質のみを選択的に濃縮することがあります。
こうした性質から、「液-液相分離現象は、必要な物質を必要に応じて離合集散させることで、
細胞内現象をコントロールするために利用されているのではないか
」と考えられるようになったわけです。

 しかし、高分子物理の分野では古くから解っているように、高分子はそもそも相分離しやすい性質をもっています。
実際、特定の条件下におけば、多くのタンパク質/核酸は液-液相分離させることができてしまいます。
そのため、試験管内で起こった相分離が本当に生命現象と関与しているのかについては、慎重に考える必要があります。
*実際、最近の風潮に対して、一部では注意喚起もされています [参考:Genes Dev., 2019の解説]

  こうしたなか、私たちは「細胞内で液-液相分離が起こって機能するためには、何が必要なのか
を明らかにすることを目的とし、特に生体高分子のどのような要素が液-液相分離の発生に寄与するのか
相分離を誘起する場)、さらには、どのような要素が生じた液滴の機能に影響を与えるのか
相分離が誘起する場)ということに焦点を当てて、研究を進めています。



 最近では、DNAが '四重鎖構造' という特殊な立体構造に折りたたまれると、
ヒストンタンパク質との液-液相分離が促進されることを報告しました。
塩基対によってつくられた疎水的な面と、リン酸基が露出した親水的な面が作る「場」が、
液-液相分離を誘起するわけです。DNAの四重鎖構造はヒトゲノムの様々な場所に存在しているため、
核内でのDNAの凝縮などの生命現象と関連するかもしれません。

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J. Am. Chem. Soc. (2021)
 
 このほかにも、様々な分野の研究者との共同研究によって、
DNAやタンパク質などの生体高分子を構成する因子と液-液相分離の関係について調べています。



Topic 3-1. 酵素機能を自在にコントロールする技術の確立(作成中)







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