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ガラスの非線形光学特性 -熱ポーリングでガラスを波長変換素子に?!-

波長変換技術は、文字通り、光の波長を変換する技術であり、特にレーザーにとって重要な技術である。一般にレーザーは発振波長が限定されるが(自由電子レーザー等は除く)、高調波発生結晶による波長変換技術を用いると、入射光の一部を、もとの振動数の2倍、3倍、それ以上の高調波に変換することができる。Fig.1のように、入射光波長が1064 nmならば、出射光は波長1064 nmの基本波と532 nmの2倍波(振動数が2倍になったので、波長は半分)となる。私の取り組んでいるレーザー加工分野では、より短波長の光が得られるため、微細加工のダウンサイジングが可能となる。

Fig.1 第二高調波発生

この高調波発生技術でもっとも多用されているのが、第二高調波発生であり、広く応用に供されているのは数十ミリ角のKDP(KH2PO4 : Potassium dihydrogen phosphate)などの2次非線形光学単結晶である。これらの単結晶は、変換効率が高く、光散乱等によるロスがない優れた材料であるが、結晶育成にコストがかかる。

そこで、もし、ガラスのような結晶粒界がないため透光性に優れ、且つ作製コストの低い材料で、第二高調波発生材料が一部代替できれば、、、という目論みがある。

Fig.2 熱ポーリング装置

ガラスは、原子配列に長距離秩序を有さず(短距離秩序としては、一定範囲の結合長と結合角を有する)、ランダムな構造である。その結果、巨視的に反転対称性を有する。第二高調波発生は、反転対称性を有する物質では原理的に観測できない。よって、ガラス内部からの第二高調波発生は本来観測できないのである。

しかし、酸化物ガラスに熱ポーリング(Fig.2, 高温で直流電場印加)すると、2次非線形感受率を付与でき、第2高調波発生能を観測できる。そこで本研究では、テルライトガラスを対象に、下記の点の解明に努めた。

  • 熱ポーリングにより誘起されるガラス構造変化
  • 誘起構造と2次非線形光学特性の相関
  • 2次非線形光学特性の緩和挙動

そして、その成果として以下の点を明らかにした。

  • 2次非線形感受率はアノード側数ミクロンに限定。よって、アノード側にカチオン欠損領域が形成、2次非線形光学特性を発現。
  • ガラス転移温度と最適ポーリング温度に正の相関を発見。
  • 第二高調波強度の緩和挙動は、含有カチオン(価数、イオン半径)に依存。

以上、非常に簡単にご紹介した研究は、私の京大での博士学位取得テーマ「ポーリングしたテルライトガラス及び関連物質の非線形光学的性質と構造」で、平尾一之教授のご指導のもと、当時京都工芸繊維大学に現在京大におられる田中勝久教授にもご指導いただいて進められたものです。基礎科学的観点からの本テーマのおもしろさは、(1) ガラス転移領域での高電圧印加が準安定相であるガラスにどのような影響を及ぼすのか、(2) 固体の強い空間的相関を特徴とする、気体・液体への高電圧印加ではみられない現象という点だと思います。このテーマが私の研究者としての出発点であり、「外場と物質の相互作用」を利用した材料創製研究の原点です。現在、本テーマは休眠中ですが、いつか熱ポーリングにより表面改質したガラスを新デバイスとして世に出せたらと思います。

参考文献

  • "Induction and relaxation of optical second-order nonlinearity in tellurite glasses", A. Narazaki, K. Tanaka, K. Hirao, and N. Soga, Journal of Applied Physics, 85 (1999) 2046.
  • "Poling-induced crystallization of tetragonal BaTiO3 and enhancement of optical second-harmonic intensity in BaO-TiO2-TeO2 glass system", A. Narazaki, K. Tanaka, and K. Hirao, Applied Physics Letters, 75 (1999) 3399.