Taylor&Eichelberger etal(1984)
by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST
Hydrogen isotopic evidence of rhyolitic magma degassing during shallow intrusion and eruption. Nature. 306, No.5943: 541-545. (my_id=A7)
目次 |
問題意識
マグマ揮発性成分の知識は,マグマの発生・噴火のメカニズムに対して重要.
興味
- マグマ水の起源
- 噴火におけるマグマの脱水プロセス
問題
- ハワイの玄武岩マグマ活動のように穏かな噴火であれば,火山ガスを噴火中に採取することは不可能ではない.しかし,珪長質マグマは爆発的な噴火をするため,噴火中のガス採取はほとんど無理.
したこと
噴出物(ガラス)に残された水の量と,水素同位体比を分析した.δ18Oも分析した.
試料:
- オレゴン州のニューベリーカルデラにあるBig Obsidian Flow Ventより.
- カルフォルニア州のリトルガラスマウンテンより.
降下火砕物と熔岩流を採取.
噴火の規模はそれぞれ1km3程度.
なお,ガラスは長時間たつと水和するが,2000年より新しいと思われる試料のみを測定対象としたので,水和の効果は無視できる.
結果
- 火山ガラスのδ18Oは,一連の噴火にわたってほとんど変化がなかった(+7〜+8‰).これは,珪長質マグマとしてはごく普通の値である.
- それとは対照的に,火山ガラスのδDは,系統的な大きな変化をみせた.よって系統的な変化がある.
- 噴火の形態(爆発的な降下火砕物では含水量が多く(最高3.1wt%H2O)δDが高い(-51〜-90‰),非爆発的な溶岩では含水量が低く(0.4wt%以下)δDが低い(-106〜-131‰)).
- 火山活動の層序(初期の噴出物は含水量が多くδDが高い.後期の噴出物は含水量が低くδDが低い)
- δDの低下は,含水量の低下と関連している.
解釈
ガラスの含水量:
- 降下火砕物→ 分析値は,噴火前あるいは噴火直後のマグマの含水量を示している
∵メルト中の水の拡散は遅い.降下火砕物は数十秒以内に冷却される. - 熔岩流→ 分析値は,噴火後のマグマの含水量を示している
∵冷却するまで時間がかかるから.
後から出た噴出物ほど含水量が減った:
- δ18Oや主要・微量元素がおなじなので,少なくともこれらの元素についてマグマだまりが累帯構造を持っていたとは思えない.
含水量とδDの関係:
- ほとんどの含水硅酸塩では,重水素は蒸気相により多く分配される.
- もし蒸気相がマグマから除去(脱ガス)されれば,残された水は重水素が減る(δDが小さくなる).
- 開放系(蒸気がメルトから分離した後,メルトと蒸気の間に全く同位体交換がない場合)
- 閉鎖系(メルトと蒸気の間の同位体交換反応が保たれる場合)
について計算したところ,データのほとんどは開放系の脱ガスでうまく説明できた.
脱ガス環境:
- 降下火砕物の間には土壌や浸食の形跡がないので,噴火(と脱ガス)のタイムスケールは数年程度かもしれない.
- 熔岩流にみられたような含水量(0.4wt%H2O以下)を実現するには地表での脱ガスを考える必要がある.
- メルト中の水の拡散は遅い.水を抜くには,泡のような部分部分からガス漏れさせればよい.
- 分析した試料はほとんど気泡をもっていないが,噴火中〜直後には十分な量の気泡をもっており,それを通じて脱ガスしたのだろう.
- 気泡は最終的にはメルトに再吸収されてしまったのだろう.気泡の潰れと再吸収は,マグマの溶結プロセスの一種として,ゆっくり進んだのだろう.
- 降下火砕物の脱ガスは,火道の中で,短時間(噴火中)に起きたのだろう.
初期値:
- 噴火前のメルトの含水量は3重量%H2Oで,δDは-60〜-65‰だったと考えられる.