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本質マグマか? - Myk2000g -


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Myk2000g 微斑晶斜長石 組成

「Myk2000g」という分類はどの程度妥当なのか

宮城磯治 地質調査所 2000.07.27

2000.08.06 内容追加

★はじめに★

背景:

2000年に三宅島で起った一連の噴火は「水蒸気爆発(マグマ無し)」とされていま
す。水蒸気爆発の場合の噴出物は、高温の地下水が何らかの要因で周囲の岩石を
壊し吹き飛ばされたもなので、マグマに由来する物質(火山ガラスなど)は含まれ
ません。

しかし地質調査所の調査により、この活動によって放出された火山灰には、新鮮
な火山ガラス「Myk2000g」が多量に含まれていることが、既に指摘されています
(この存在は予知連00.07.21に報告済、命名は7月24日)。

特に7月14日噴出物中のMyk2000gは、かなり明瞭な、水蒸気爆発特有の発泡形態
を持っています。

もしMyk2000gが本質物質であれば、これら一連の噴火は「マグマ水蒸気爆発
(マグマあり)」と訂正されなければなりません。また、ガラス部分の含水量を局
所分析することにより破砕時の圧力(マグマ水蒸気爆発のおきた深さ)が推定でき
る可能性があります(#1; #2)。
マグマ水蒸気爆発の深さに関する情報は、三宅で現在起きている現象を理解する
うえで、きっと役に立つと思います。


問題点と解決方法:

しかしながら、火山灰に含まれる新鮮な火山ガラスがいつも本質物質とは限りません。
有珠山の2000年噴火においてUs-2000gを本質物質と断定したときと同様、
Myk2000gが過去の噴出物の破片である可能性を否定できない限り、これを新
しいマグマだと結論することはできません。

Myk2000gを新しいマグマと認定するには、Myk2000gの鉱物の化学組成や発泡形態
を過去の噴出物と比較して、過去のどれとも区別できればよいことになります。
※理想的には、過去の*すべて*の噴出物と比較すべきですが、それは不可能なの
で、この認定には必ず不確定性が伴います。これは仕方がないことです。

この作業を行う前には、まず「Myk2000gというグループわけ」がどの程度妥当な
のかを検討する必要があります。というのはMyk2000gとは宮城@地調という人間
が、反射電子像を「パターン認識」によって分けたグループであって、実際には
一つとして同じ形のものは存在しないからです。


また、この文書で既に触れたとおり、
噴火初日(8日)のMyk2000gは14日のものより発泡形態が異なるので、
Myk2000gを2グループに分けるべきかどうか気になっていました。

そこでこのページでは、Myk2000gに含まれる斜長石微斑晶の化学組成を分析し、
「パターン認識に基づいた分類」が、
「微斑晶化学組成による分類」
と一致するかを確認します。


★結論★

1.
2000.07.08噴出物中のMyk2000g(気泡が大きい)と
2000.07.14噴出物中のMyk2000g(気泡が非常に小さい)とで
それぞれ単一の分布(ユニモーダル)をとることが判明しました。
よって今後Myk2000gは
  Myk2000g-1 (8日に噴出)と、
  Myk2000g-2 (14日噴出)と
に、分けるのがよさそうです。
※単にMyk2000gと呼ぶときは両者を一括して指すものとします。
2.
また、もしMyk2000g-1, Myk2000g-2が同一のマグマに由来すると仮定するならば、
この差は、8日と14日とでMyk2000g噴出前の条件が異なる事を示唆します。
3.
Myk2000g-1(気泡大)とMyk2000g-2(気泡小)中の斜長石の化
学組成分布がユニモーダルだったことにより、
「パターン認識に基づいたMyk2000gの分類」の妥当性が、
「微斑晶化学組成による分類」によって裏付けられました。//


8日と14日のMyk2000gで、組成ピークが異なる原因は、噴火前の温度・含水量が
異なっていた(14日のほうがより高温あるいは高含水量だった)ことで説明できる
可能性があります。今後さらに検討します。


★したこと★ 7月8日から15日にかけて川辺@地調氏が三宅島で採取した試料(8日と14日の火山 灰)を星住@地調氏が水洗篩分け(0.25-0.149mm区間)したものを、宮城@地調が 片面研磨ました。 Myk2000gの石基ガラス部分には10μm程度の斜長石微斑晶が晶出しています。こ れらの中心部の化学組成をEPMA(電子線プローブマイクロアナライザ)を用い て分析しました。 ★予想される結果★ 同じ化学組成のマグマから同じ条件で晶出した微斑晶斜長石は、 同じ化学組成を持つでしょう。 このことから考えると、 同じマグマが同じ条件で噴火した場合、 噴出物中の微斑晶斜長石の化学組成頻度分布は、 単一の組成に集中するはずです。 ※この場合、微斑晶は場合噴火の少し前に一斉に成長したと考えます。 ※微斑晶斜長石の化学組成を左右する主な原因としては、結晶周囲のメルトの化 学組成、晶出時のマグマの温度、含水量、結晶成長速度等があげられます。 ★分析結果★ 走査電子顕微鏡(反射電子像)でみたMyk2000g中の斜長石の特徴としては、比較的 大きい結晶(100μm以上)にはほぼ普遍的に累帯構造を持っていることがあげら れます。すなわち、結晶周囲には、厚さ10μm程度のリムがついており、その組 成は石基に散在する小さな斜長石の組成と同じAn65程度です。 この特徴は、2000年三宅島海底噴火噴出物の観察結果(by 東大地震研の安田さん) となぜか一致(累帯構造の特徴も、化学組成も)します。たいへん興味深いと思い ます。(2000.08.06追加) 微斑晶の斜長石化学組成を(An)のヒストグラムは 2000.07.08噴出物中のMyk2000g(気泡が大きい)と 2000.07.14噴出物中のMyk2000g(気泡が非常に小さい)とで それぞれ単一の分布(ユニモーダル)をとることが判明しました。 このように、 「パターン認識に基づいた分類」が、 「微斑晶化学組成による分類」と、 一致することがわかりました。 ※なぜ8日は14日よりも低いAn組成にピークを持つのかについては、今後の研究 で明らかにしてゆくつもりです。一般的には、低いAn組成はより低温あるいは より低水分圧下での結晶化を意味します。 --- 7月8日の火山灰中のMyk2000g --- --- 7月14日の火山灰中のMyk2000g ---

7月8日の火山灰の操作電子顕微鏡写真(反射電子像)。一辺は500μm。
7月14日の火山灰の操作電子顕微鏡写真(反射電子像)。一辺は1000μm。

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