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本質マグマか? - Myk2000g -


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三宅島 7月8日 の火山灰の反射電子像

宮城磯治 地質調査所 2000.07.25


以下は、基本的に予知連00.07.21に提出した写真(7月14日午後の火山灰)と同様
の写真です。ただし、撮影対象は8日(三宅島2000年山頂噴火初日)の火山灰です。

7月8日に川辺@地調氏が環状林道(山分橋)で採取した試料(8日の火山灰)を星
住@地調氏が水洗篩分け(0.25-0.149mm区間)したものを、宮城@地調が片面研磨
し、走査電子顕微鏡で観察しました。その結果、ある共通した特徴を持つマイク
ロスコリアが多数(観察した粒子の約半数)見つけました。以後、このスコリアを
Myk2000gと呼びます。(観察手法は有珠でUs-2000gを見つけた時と同様です)


Myk2000gが今回の本質マグマに由来する物質であるかどうかは検討中です。
簡単に答えが出せない理由は、有珠山のUs-2000gを本質物質と断定したときと
同様に、これが過去の噴出物の破片である可能性をなかなか否定できないから
です。


※背景:
7月18日の火山噴火予知連絡会議(予知連)では、
噴出物の中に新しいマグマ起源物質は認められないという結論がなされ、
7月8日と7月14〜15日の三宅島山頂噴火は水蒸気爆発(マグマ無し)であった、
と発表されています。

※宮城は個人的にはMyk2000gは「いかにも本質物っぽい」という印象をもっ
ています。仮にもしこれが本質物であれば、ガラス部分の含水量を局所分析する
ことにより破砕時の圧力(マグマ水蒸気爆発のおきた深さ)が推定できる可能性が
あります(#1; #2)。
マグマ水蒸気爆発の深さに関する情報は、三宅で現在起きている現象を理解する
うえで、きっと役に立つと思います。


以下に、Myk2000gの特徴をのべます。

Myk2000gはよく発泡している。興味深いことに、7月14日のものは気泡は非常に
細かく(径10μm以下もある)数が多い。一方、8日のものはそれに比べて粗粒(径
100μm位。10μm以下は希)で数が少ない。

[このことは、8日のMyk2000gマグマの上昇(爆発的な噴火に伴う急減圧)や冷却速
度が、14日に比べて遅かったことを示唆します]


7月14日のものは石基ガラス部分に10μm程度の斜長石および輝石が多数晶出し
ている。8日のMyk2000gの石基ガラスは14日に比べて変化に富んでおり、数μm
程度の微細な磁鉄鉱や赤鉄鉱が晶出しているものもある一方、結晶の少ないガラ
ス質なものもある。また、8日のMyk2000gには樹枝状の外形を呈する輝石は見ら
れませんでした。

[微斑晶と石基微結晶の存在は、少なくとも2度の結晶晶出イベントがあること
を意味します。微結晶の晶出形態にバリエーションが見られることは、このイベ
ント(噴火直前の冷却等)様式が様々だったことを意味します]
また、玄武岩質ガラスの存在は、マグマが最終的に急冷されたことを意味します]


Myk2000gには組成がほぼ一定の微斑晶斜長石(An=65)および輝石(Mg#=0.7)が含まれる。
ただし8日のMyk2000gの微斑晶斜長石の組成、Anが若干低め(60)である。

[8日の物の斜長石An組成が少し低いので、8日と14日のMyk2000gは、
「同じマグマからより低温あるいはより低水分圧下で晶出した」可能性と、
「異なるマグマである」可能性があるでしょう。
しかし微斑晶の形態はにていますし、冷たい山体に初めて注入した
8日のMyk2000gのほうが14日のMyk2000gより温度が低そうだと考えるのは自然
に思えますから、一連のマグマだったと考えても良さそうです。つまり、
8日のMyk2000gは発泡や石基の見掛けこそ異なりますが、微斑晶によって、
14日のものと一連のマグマ(溜り?)等に由来することが示唆されます]



8日のMyk2000gには肉眼で赤く見えるものがあり、腐っているように見えます。
ところが走査電子顕微鏡でみると、単に磁鉄鉱(石基全体に)や赤鉄鉱(表面数十
μmに)が多く晶出しているだけです。
つまり、8日のMyk2000gも、腐っていません
[風化変質が無いことは、Myk2000gが比較的最近の噴出物であることを意味しま
す。しかし、新鮮だから今回のマグマだとは言い切れません。最近の堆積物が破
砕された可能性があるからです]
[内部まで赤鉄鉱が出来ていない事は、8日のMyk2000gは噴火直前に短時間酸化を
受けたことを示唆します。
※宮城は、この程度の酸化に要した時間は、高々数時間と考えます。
Miyagi et al. (1998)によれば、角閃石(玄武岩と組成のよく似た含水鉱物)を
空気中で1000℃に加熱した場合、少なくとも16時間で表面から1000μm内部まで
酸化が進行することがわかっています。また、酸化には酸素を必要としない
(水素ガスを抜けば酸化されたことになる)ので、8日のMyk2000gの酸化が地下で
起ったとしても不思議ではありません。]



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走査電子顕微鏡を用いた反射電子像(BEI)。画面の一辺は1000μm(つまり1mm)。
 - 続く
 - 続く
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※BEIでは、その部分の平均原子番号が高い部分ほど輝度が高く表現されます。



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