高温超伝導の研究
 
 
 高温超伝導について考えてみましょう。高温超伝導体が発見されてから20年ほどになりますが高温超伝導はまだ解決していません。 解決していないと言うのは、高温超伝導体を説明するような描像がかけていないということであり、それらしい描像があってもそれが本当に正しいかどうかがわからないということです。なかなか描像がかけないのは、これまでの物理学の知識では説明しにくいことが起こっているからです。超伝導臨界温度Tcが高いことからそうですが、 超伝導ペアーの対称性が異方的であること、擬ギャップ相とよばれる異常金属領域があること、などいろいろあります。 高温超伝導の研究において解決すべきこととして

・超伝導のメカニズムは何か、
・異常金属相とはどういうものか、
・低ドープ域での相図はどうなっているか、
・電子ドープ高温超伝導体の相図はどうなっているか、
・およびそれがホールドープ 系と異なるのはなぜか、

などがあげられます。

 超伝導のメカニズムに関して、Copper pairの対称性がd波である、と確立しているこ とは重要です。d波の超伝導を与えるようなクーパーペアーに対する引力のメカニズム を考える必要があります。高温超伝導に対する引力の起源として最有力であるのが、 短距離のクーロン相互作用です。クーロン相互作用は斥力であるにもかかわらず電子間に引力が働くのはどうしてかという疑問が生じますが、d波の対称性をもつクーパー ペアーに対してはオーダーパラメーターの符号が変わることにより、クーロン相互作 用が引力として働きます。この考えにより、ハバードモデルや三バンドのハバードモデル(d-pモデルとも呼ばれます)に対して、実際にd波のペアーに対して引力的であることを示すと良いのですが、これは実はなかなか難しいことです。多くの研究があるにもかかわらず、例えば「(三バンド)ハバードモデルではクーロン相互作用Uによりd波の超伝導相が存在する」と認知されるような状況にはなっていないようです。例え ば、量子ホール効果で有名なLaughlinなどは「ハバードモデルではまだ超伝導になる ということがestablishしていない。だから、私は有効Hamiltonianを考えてその物理的性質を議論しているのだ。」と言っていました。

 それでは二次元d-pモデルで超伝導は可能でしょうか。これは、現在まだ未解決の問題です。二次元ハバードモデルに対する量子モンテカルロ法によると、超伝導相関関数はクーロン相互作用が働いても増大しないようであり、むしろ抑えられているという計算結果もあります。一方、相互作用Uが小さいとして摂動計算を行うとd波の超伝導状態が解として求まります。これは超伝導の可能性のあることを示しています。Uがある程度有限の値になっても正しいかどうかは問題ですが、実際に超伝導になるかどうかはほかの秩序状態との競争で決まることになります。また、d-pモデルのもう一つの近似モデルである二次元t-Jモデルに関しても、超伝導相が存在するかとうかは厳密にはわかっていません。

 ハバードモデルやt-Jモデルにおいてどのようにして引力が生じるかは、次のように考えることができます。ハバードモデルについては、クーロン相互作用Uについて摂動計算を行うと2次の項から有効的にd波などの異方的ペアーに対して引力相互作用が出てきます([1,2])。この項は、スピン帯磁率&chi(q)に比例し運動量依存性があります。この有効的引力のことをしばしばスピンゆらぎによる引力と言うことがあります。しかしながら、&chi(q)は自由電子系でも有限に存在する量であり、スピンのゆらぎが本質的というわけではなく、「ゆらぎ」というのは大げさに感じます。&chi(q)は波数空間におけるスピン相関を表わしており、「スピン相関による引力」と見るのが適切だと思います。実際、Uの2次までの項に、3次の補正項を加えますと、3次のゆらぎの効果によりTcは下がります([3])。t-Jモデルに関しては、スピンの交換相互作用JSi&sdot Sjから引力が生じます。例えば、平均場の取り扱いをすると電子対の項が出て、ギャップ方程式を導くことができます。このように、ハバードモデルではU²&chi(q)から引力が、t-Jモデルでは JSi&sdot Sjから引力がでます。どちらもスピン相関が電子対の起源となることは同じです。Jはt²/Uに比例しますので、臨界温度Tcを求めますと、ハバードモデルとt-JモデルではちょうどtとUを入れ替えた形になっています。Uが小さい時と大きい時とで、一種の双対性があることになります。Tcが一番高くなるのは、この中間の領域であろうと予想されます。

 超伝導相が存在するかどうか確かめる一つの方法は、可能な秩序状態との比較をモンテカルロ法で行なうことです。我々はd-pモデル、ハバードモデルに対する変分モンテカルロ計算により、実験値とほぼ一致する超伝導凝縮エネルギーが得られることを示しました。

 変分モンテカルロ法は波動関数に近似を含んでいますので、量子モンテカルロ法などより正しい計算手法により電子状態を調べる必要があります。
 

参考文献

[1] U²&chi(q)を基本とする、ハバードモデルに対する超伝導の理論は非常に多くあり、初期のものとして

D.J. Scalapino, E. Loh, J.E. Hirsch: Phys. Rev. B34, 8190 (1986).
N.E. Bickers, D. J. Scalapino, S.R. White: Phys. Rev. Lett. 62, 961 (1989).

これらでは、乱雑位相近似(RPA)やゆらぎ交換近似(FLEX)が使われています。

[2]単純な摂動論による計算として

R. Hlubina: Phys. Rev. B59, 9600 (1999).
J. Kondo: J. Phys. Soc. Jpn. 70 (2002) 808.

[3] この計算をそのまま3次までやると、Tcは3次項の効果で下がることがわかります:
T. Yanagisawa: New J. Phys. 10 (2008) 023014.

[4] 摂動論の枠内でも、摂動としては大きいU(U/t=3等)に対する強結合理論の計算もあります。
T. Nomura, K. Yamada: J. Phys. Soc. Jpn. 69 (2000) 3678.
 
 
  Condensed Matter Physics: Electronics Research Institute