海に面する比較的平坦な土地のことを堆積平野と呼びます。関東平野、濃尾平野、大阪平野などの大きな堆積平野の地下には、一回の海進・海退によって河川と沿岸浅海域の堆積作用によって形成された淡水成層と浅海成層が、複数回繰り返し累重しています。このことは、大きな堆積平野は過去数十万年〜百万年以上の期間にわたって沈降し続けていたことを意味しており、長期間沈降し続けている場所に大きな堆積平野が形成されたと言うこともできます。
このような堆積平野はいつ誕生して、その後どのような履歴を経て現在の姿になったのでしょうか。それを明らかにする鍵は、平野の地下や陸上に分布する地層にあります。河川や沿岸浅海域の堆積作用によって形成された地層の分布と年代を明らかにすることによって、過去に堆積平野の環境が存在していた場所と時期が分かります。地層が積み重なる順番のことを層序と言いますが、平野の成り立ちを知るためには平野を構成する地層の層序と年代を明らかにする必要があるのです。
私は、野外地質調査とボーリング調査によって堆積平野やその周辺の丘陵の陸上と地下に分布するの地層の層序を詳細に構築し、年代を明らかにすることによって平野の成り立ちを研究をしています。主に第四紀(約250万年以降の地質時代)を対象としています。
平野を構成する地層の層序を構築するためには、その地層がどのような環境で堆積したかを明らかにすることが重要です。ここでいう環境とは、湖沼や河川などの淡水域、干潟などの潮間帯や汽水域、内湾あるいは外洋などの海域といった堆積環境を指し、層序の構築にはとりわけ海水の影響下で堆積した地層を正確に識別することが重要です。堆積環境は主に層相観察と産出する化石から推定されますが、特に私は高密度に実施する珪藻化石分析を武器に、詳細で高解像度な堆積環境の解析を行っています。
地層の年代はテフラの対比、古地磁気層序、花粉化石層序などに基づき明らかにします。加えて、浅海成層から産出する浅海生の珪藻化石にも年代の指標となる化石が含まれることが分かってきました。これらの層序・年代指標を総合的に組み合わせることによって、詳細な年代軸を組み立てることを目指しています。
これまで関東平野を中心に研究を行ってきましたが、関東平野では少なくとも過去250万年間にわたって沿岸の堆積平野が存在していたことが分かってきました。また、このような方法で明らかになった層序学的な知見は、地質図を作成する上での基礎情報となります。私は、産業技術総合研究所地質調査総合センター(旧地質調査所)の地質図作成のための調査にも携わっており、これまでに手掛けてきた、5万分の1地質図幅「鴻巣」、都市域の地質地盤図「千葉県北部地域」「東京都区部」が公開されています。そして5万分の1地質図幅「川越」の調査を終え、現在出版のための準備をしています。
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