2000年3月31日 降下火山灰の磁鉄鉱の化学組成

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

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観察&分析&文責=宮城@地調
データ処理=宮城&金子(克)@地調
試料採取=川辺@地調
作成日2000年4月ごろ
デザイン変更:2008年5月2日金曜日


何故火山灰の磁鉄鉱を分析する必要が生じたのか

東宮@地調氏による文書にあるように,3月31日に噴出した降下軽石Us-2000pmが今回のマグマであるか否かに関しては議論がありました.この軽石のガラス化学組成はUs-1977軽石とよく似ているため,この軽石が新しいマグマ由来なのかそれとも1977年に噴出したものが再移動したものなのか区別がつかなかったのです.この議論の決着は東宮氏によってつけられました.同氏が軽石Us-2000pmの磁鉄鉱の化学組成を分析したところ,その組成が過去の軽石とは異なることが明らかになり,よってUs-2000pmが新しいマグマに由来することが決定的になりました.しかしながらこの軽石Us-2000pmは当日の噴出量が明らかでなく,今回の噴火で放出されたマグマの量を推定することができません.一方,同日放出された火山灰については,地質学的手法によって総噴出量がすでに見積もられているので,もし火山灰に含まれるマグマの量がわかれば,今回噴出したマグマの量を推定することが可能になります(軽石の分は差し引かれますが).火山灰の構成物質についても軽石と同様の議論があり,灰の約半分を構成するガラスUs-2000gが果たして新しいマグマに由来するのか否かの決着がついていません.そこで,東宮氏と同様の手法による問題解決を期待して,3月31日に放出された降下火山灰の中の磁鉄鉱化学組成を測定しました.

結論:

2000年3月31日に洞爺湖東岸に降下した火山灰について,磁鉄鉱の化学組成分析を行った結果,本火山灰中に約半分含まれるガラス(Us-2000g)中の磁鉄鉱組成は,同日放出された軽石(Us-2000pm)のものと一致し,両者は同じ物であると結論された.

作業内容:

火山灰試料は超音波洗浄器で細粒成分を除去し,0.1-0.25mmのものを篩分けした.この中から分析対象の磁鉄鉱を濃集するため,一般的なフェライト磁石に付着する部分だけを抽出した.これをエポキシ樹脂でガラス円板上にマウントし,片面研摩片を作成した.※ 研磨片の作成風景

次に,この研磨片について,EPMAの走査電子顕微鏡を用いたデジタル反射電子像を撮影(38枚; 写真1)した.

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写真1:

2000年3月31日に洞爺湖東岸に降下した火山灰の,フェライト磁石に付着する成分のデジタル反射電子像.写真の一辺は2mm,1ピクセルは2μm.明るい部分は磁鉄鉱と輝石からなる.


次に,写真1中の磁鉄鉱について,それを包有する物質毎に種類分けした.

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  • Us-2000gが包有(付着)しているもの = Us-2000g Mt-----

solo.gif

  • 結晶周囲に何も付着していない磁鉄鉱 = Solo Mt-----

ipl.gif

  • 斜長石が包有(付着)しているもの = IPL Mt-----

ibw.gif

  • BEIで白黒コントラストの強い岩片が包有(付着)しているもの = IBW Mt

これらについて,EPMAを用いた磁鉄鉱鉱物の分析(総分析数630点)を行った.少なくともこの研磨片では,Us-2000 Mtの存在数が圧倒的に多く,分析点数の七割以上を占める.ついでSolo Mtが二割を占め,残りはIPL MtとIBW Mtであった.

観測事実:

EPMAを用いた,Us-2000g MtおよびSolo Mtの化学分析結果を図1に示す.

ash-mt-wide-plot.gif

図1:

Us-2000g MtおよびSolo Mtの測定結果.縦軸にMg/Mn,横軸にAl2O3wt%をとった.図1により,Us-2000g Mtの組成は一カ所に集中するがSolo Mtの一部は,ある傾向をもって広い範囲に分布することがわかる.

※注:Solo Mtの約半分はUs-2000g Mtと同じ組成を持つが,このグラフではUs-2000 Mtに上塗りされているので,見えない.Solo Mtのうち図中の緑の塊の左下方に分布するものは,数が少ないので今回の議論では無視する.Solo Mtのうち図中の緑の塊の右上方に分布するものは,1663年のUs-b噴火において僅かに噴出した苦鉄質マグマ由来の磁鉄鉱の組成によく似る(図2)が,これらが今回の噴火に苦鉄質マグマが関与したことを意味するとは考えにくい.Solo Mtは結晶周囲に付着物がないので,もし既存の岩石に由来する破片が混入しても,区別がつかない.このような化学組成の磁鉄鉱がSolo Mtの場合にのみみられたという事実は重要なポイントであり,それらが噴火の最中に混入したことを示している.既存岩石の候補としては,有珠外輪山を形成する火山岩類(苦鉄質)があげられる.図2 Us-b(1663年)中の苦鉄質な磁鉄鉱の組成 (東宮氏によるグラフ)

一方,Us-2000g Mtの場合は,火山ガラスUs-2000gが包有(付着)しているので,Us-2000に由来すると期待できる.実際に,Us-2000g Mtの組成が一カ所に集中するという事実は,Us-2000g Mtがある一つのマグマ(Us-2000)に由来していることを支持する.果たして,Us-2000g Mtの組成を2000年3月31日に放出された軽石Us-2000pm中の磁鉄鉱のそれと比較すると,両者はよく一致した(図3).したがって,Us-2000gとUs-2000pmは同じものである,と結論できた.


mt_ash.gif

図3:

2000年3月31日に洞爺湖東岸に降下した火山灰中の磁鉄鉱(Us-2000g MtおよびSolo Mt)と,軽石(Us-2000pm)中の磁鉄鉱化学組成の比較.

※過去の噴出物の組成(色塗り部分)が,東宮@地調氏のデータです.

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