非駆動関節を有するマニピュレータの制御

スライドによる説明

研究の目的

普通の構造のロボットアームは,それぞれの関節にその関節を駆動するモータを一個ずつ備え,関節の数とモータの数は等しい.この構成は最も初期の産業用ロボット以来現在まで全く変わっていない.ロボットアームのコストダウンなどを目的として,モータの数よりも多くの関節を制御するいろいろな手法が提案されているが,特殊な機構を付け加える方法が中心で,機構上はかえって複雑で高価なものになってしまう場合が多い.

電車が加速するとその中で立っている人は慣性力の作用で後ろに倒れそうになる.これと同様に,ロボットアームの一つの関節を回すと慣性力によって他の関節を逆に回そうとする力が生ずる.この性質を動力学的干渉性と呼ぶ.この作用は誤差の原因となるため,従来のロボットの制御ではこの力を打ち消すような力をモータによって発生させていた.これはアームの力学系が本来もっている性質を抑えつける方法だといえる.ところがこのような力が発生するということは,他の関節の運動によってそれ自身は力の発生能力を持たない関節の運動を引き起こせることも意味する.

動力学的干渉の利用

当研究室では昭和63年より,従来は有害な作用として扱われてきた動力学的干渉性を積極的に利用して,モータのない関節(非駆動関節)をもつロボットアームを制御する方法についての研究を進めている.この研究では,モータをもつ能動関節と,モータをもたずその代わりに保持ブレーキを備えた非駆動関節の2種類の関節でロボットアームを構成する.非駆動関節はブレーキONでは一定角度で固定され,ブレーキOFFでは自由に回転する.ブレーキONの状態では,非駆動関節の角度に影響を与えることなく能動関節が自由に制御できる.一方ブレーキOFFでは,能動関節の運動によって発生する慣性力を巧妙に利用して非駆動関節を間接的に制御する.以上の2つの状態での制御を組合せて運動パターンを構成し,アーム全体の姿勢を制御する.

ブレーキON/OFFによる位置決め制御

 ある初期姿勢から目標の姿勢までアームを動かす場合を考える.はじめはブレーキONで非駆動関節を固定し,能動関節によってアームに運動のエネルギーを与える.次にブレーキをOFFとして非駆動関節が自由に回転できるようにし,能動関節を上手に使って非駆動関節を目標の角度まで動かす.最後にブレーキONとして能動関節を目標の角度まで動かす.以上の手順によってアームを任意の姿勢にもってゆくことができる.実際に図1のような水平2軸のロボットアームを試作し,この制御方法が有効にはたらくことを確かめた.第1軸はモータで駆動される能動関節,第2軸は電磁式ブレーキを備えた非駆動関節である.実験により,すべての関節にモータを備えた通常のロボットアームと遜色のない精度で姿勢を制御できることが明らかになった.また,姿勢の変更だけでなく,直線などの経路をアームの先端でなぞらせるなどの,さまざまな制御にも成功した.
(ビデオ1)

利点と応用

この方法でロボットアームのモータのいくつかをブレーキに置き換えることにより,アームの軽量化,省エネルギー化,コストダウンなどの効果を見込むことができる.通常のアームでモータが故障した際の代替手段としても役立つと思われる.また宇宙ロボットへの応用は,重力の影響がないため,より効果的である.さらに,非駆動関節に相当する力学的要素は,こういう特定の構造のロボットアームのみでなく,さまざまな場面に登場する.例えば宇宙ロボットにおいて,衛星に取り付けたロボットアームによる反動力が衛星の姿勢を乱すことが問題となっている.衛星は無重力空間に浮遊しており,自由に回転・移動することができるので一種の非駆動関節とみなすことができる.また歩行ロボットでは接地した足の真上に重心がこない不安定な瞬間があり,接地点を非駆動関節として扱うことができる.これらについても非駆動関節アームを同じ制御方法を適用することができる.

非ホロノミック性の利用

上に述べた制御方法では一時的に非駆動関節をブレーキで固定することが必要だった.ところが,こうしたロボットアームはブレーキを使わなくても姿勢の変更が原理的に可能である,ということが最近になって見出され,平成7年以降はそれを実現するための研究に取り組んでいる.自動車はアクセルによる前進速度とハンドルによる旋回角の2つの制御入力しか持たない.ところが,駐車場での切り返し等で日常経験するように,これら2つだけの入力をうまく使えば,平面内での位置と車体の向きの合計3つの座標成分を自在に操ることができる.これと類似の原理に基づいて,非駆動関節に切り返しのような動作を行わせることによりアーム全体の姿勢の変更を行わせている(ビデオ2).また,障害物回避運動の実現にも成功した(ビデオ3)

まとめ

 これら一連の研究の基本となっている思想は,ロボットおよび対象となる作業が本来持っている力学的特性を解明し,それを抑制するのではなくて積極的に活用するような制御方法を考える,ということである.これによって,この研究のように従来と同じ作業をより簡単な構成の装置で実現したり,逆に従来と同じ装置を用いてより多様な作業が実現できる.ロボットの作業能力をさらに拡大するためには,今後もこうした考え方に基づく研究がますます重要になると考えられる.

説明資料 「Underactuated manipulatorの非ホロノミック制御」  「2階の非ホロノミック系の制御」

論文等 (和文)  (英文)


現在では本研究について次のように考えている→「学術的ロボット研究の問題点について」
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