金属スクラップ火災の消火方法は? of 金属スクラップの安全管理情報提供システム


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金属スクラップ火災の消火方法は?

堆積物火災の消火方法

 機械油やプラスチック,ゴム類など,発熱量が大きい可燃物を多く含む金属スクラップの堆積物から火災が発生しますと,消火が困難となる場合が少なくありません。消火活動に長時間を要しますと,出港の遅れによる港湾施設関係者や荷主の損害の増大,消防機関の負担増大による管轄内他所火災への対応の制約,燃焼排出物の環境中への拡散等の問題が深刻化します。このため,火災時に速やかに消火できる方法の確立が望まれています。

 消火方法の検討にあたっては,アルカリ金属,マグネシウム,アルミニウム,亜鉛等のように水と激しく反応する金属を多く含む金属スクラップの火災と,金属スクラップに混在している一般可燃物の燃焼が主である火災を,区別して考える必要があります。

 水と激しく反応する金属の火災に注水しますと,水素を発生して爆発することがあるため,大変危険です。そこで,金属火災用の粉末消火剤か,乾燥砂などを用います。
 一方,一般可燃物の燃焼が主である金属スクラップ火災に対する消火戦術は,全国各地で発生している堆積廃棄物火災など(尾川,2003)と同様の,堆積可燃物火災に対する消火戦術として検討するのが適当です。

 堆積可燃物火災の消火困難性は,堆積物層の深部にある火源を有効に冷却する手段がないことによります。消火剤は一般に,水や泡などの水系消火剤と,不活性ガスやハロゲン化物などのガス系消火剤に大別されます。水は,古代から現在に至るまで,最も有効で容易に入手できる安価な消火剤であることに変わりはありません。水は不燃性の液体で,比熱と蒸発潜熱(気化熱)が大きいので,燃焼している物体から熱を奪う効果が非常に大きいのです。しかし,堆積可燃物を開削しないで,ただ堆積物の表面に放水しても,水がほとんど内部の火源に浸透しないので,消火活動が長期に及ぶことになります。

 水系の消火剤は,主に,可燃物表面を冷却したり覆うことにより,可燃物表面における可燃性ガスや可燃性蒸気の発生を抑え,火災を消火します。したがって,消火剤が可燃物の表面に直接届かないと有効に消火できません。
 また,サイロやコンテナ等の閉鎖空間内の火災に注水しますと,冷却により内部の圧力が一時的に低下し外部から新鮮な空気が流入し,内部の可燃性気体と混合して爆発することがありますので大変危険です。

 サイロや積層固体可燃物火災のような深部火災では,完全消火の唯一の現実的な方法は,火災領域から未燃の燃料を除去することです。堆積廃棄物火災についても同様で,完全消火のための基本戦術は,未燃の堆積物を除去して防火線を形成するとともに,燃焼中の堆積物を掘り起こしながら放水して燃焼を停止させ,残渣を撤去することです。可燃物を除去することによって,蓄熱による再燃の危険性も排除されます。

 燃焼中の堆積物を掘り起こすと空気供給が促進され,火勢が拡大する場合があります。このため,開削作業は通常,放水しながら行われます。開削領域に,合成界面活性剤泡を高発泡倍率で放射しますと,付着性が高く流動性の低い泡が堆積物表面を覆うことによって,燃焼部位への急激な空気供給を抑制することができます。ただし,泡消火剤は有機物を多量に含んでいるので,水質汚濁の原因となることに留意する必要があります。多量の放水も,有害な燃焼生成物や廃棄物中の有害物質を環境中に拡散させる可能性があることに留意すべきです。

 一方,ガス系の消火剤は,主に,気相の燃焼反応速度を低下させることにより火災を消火します。ガスは堆積物層内への浸透性に優れているため,サイロやコンテナ等の閉鎖空間内では,有効に有炎燃焼を停止させることができます。
 たとえ完全消火させるのに十分な量のガス系消火剤を確保できない場合であっても,内部の可燃性ガスや蒸気を希釈し爆発危険を軽減する働きがあります。

 しかし,野積みされた廃棄物のような開放空間における火災の場合,ガスは散逸しやすいため消火効果を発揮するのが難しくなります。
 ただし,開放空間であっても,ごみピットのように上面だけが開放された区画内であれば,空気より重いガスを利用することにより,堆積物層内にガス系消火剤を浸透させることが可能です(佐宗,2008)。
 金属スクラップ積載船の船倉にこの技術を適用できる可能性があります。

 このように,堆積可燃物火災に対する有効な消火戦術の選択は,火災環境の開放度に依存します。

 ガス系消火剤による有炎燃焼停止後に注意しなければならない点として,無炎燃焼の継続が挙げられます。無炎燃焼が継続しますと,閉鎖空間内に可燃性ガスが蓄積し,開放時に新鮮な空気が流入して再出火する場合がありますので,別途手段により可燃物を十分に冷却する必要があります。有炎燃焼停止後の可燃物の冷却に莫大な時間と費用を費やした事例があることに,留意すべきです。

 以上をまとめますと,火災環境の開放度によって,閉鎖性を高めることが可能であればガス系消火剤を適用して有炎燃焼を抑制しながら,水系消火剤によって可燃物の冷却を図ること,閉鎖性を高めることが難しい場合はクレーンやバックホウによって未燃の堆積物を除去して防火線を形成しますとともに,燃焼中の堆積物をバックホウなどで掘り起こしながら放水して可燃物表面の隅々まで水系消火剤を到達させることが,消火戦術の基本となります。

(消防研究センター 佐宗祐子)

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