金属スクラップ火災の着火源は? of 金属スクラップの安全管理情報提供システム


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金属スクラップ火災の着火源は?

火災原因の推定

 2006年-2008年の3年間に発生した火災の状況および2008年に行った現地調査の結果から,いずれの火災事案も黒煙と異臭を発しながらの燃焼であること,また,消火後の残渣には有機物が溶融したような 状況や油のような付着物を認めたことから,金属スクラップ火災は,金属自体が燃焼しているのではなく,金属スクラップに混在している可燃物の燃焼が主体の火災であると考えられました。

 これを踏まえ,火災原因について以下の考察を行いました。

(1)出火の態様
 出火の態様としては,以下の3点が考えられます。
1.何らかの要因で火源が生じ,可燃物に着火,直ちに延焼。
2.何らかの要因で火源が生じ,これが可燃物に着火後,周囲の状況等により無炎燃焼状態となり,時間経過後に有炎燃焼に移行。
3.何らかの要因で発熱箇所が生じ,時間経過とともに蓄熱により発火または可燃物に着火。

 過去の事例において最も多い「荷役中」の出火は,2,3の態様によるとは考えにくく,1の態様であると推測されます。
 「集積場に保管中」の火災事例については,2または3の態様である可能性が高いと考えられます。
 「船舶の航行中」については,集積場の保管と類似した状況ではありますが, 船体の揺れや振動によって積荷が移動する可能性がある点が異なっており,これを考慮しますと,1,2,3のいずれの態様も可能性があると思われます。

(2)火源について
 金属スクラップの積込み作業の状況,確認された混在物から考察しますと,火源としては以下の可能性が考えられます。
 なお,放火の可能性については考慮する必要はないと考えました。

1.金属どうしの接触
 金属スクラップの船倉への積込みや保管場所の移動時には,金属製品のスクラップをクレーンなどで掴み,高所から落下させたり,積み重なったスクラップをパワーショベルで圧したりします。このため,落下や圧縮時に金属どうしが強く接触して,その衝撃で火花が発生する可能性があり,現地調査においても,荷役などの作業時には日常的に火花が発生しているということを関係者から聞いています。
 ただし,通常の金属接触による火花では常温の高分子物質が着火するほどの着火エネルギーを有していないと推測されますので,周囲に可燃性ガスが存在するなどの一定の要件を満たした場合に火源となり得ると考えられます。

2.バッテリー,電池類による電気的要因
 複数の事例で,金属スクラップ中にバッテリーや電池類が確認されており,現地調査時にこれらの残電圧を測定したところ,電圧が残っているものが見受けられました。
 このことから,バッテリー類の電極端子への金属の接触や塩水などの付着によって,短絡やトラッキングがおこり,スパー クの発生や発熱の可能性が考えられます。
 また,コンデンサーについても,電圧を保った状態で混在していれば,接触などで同様の作用を起こす可能性が考えられます。
 なお,スパークについては,金属どうしの接触による火花と同様に,一定の要件を満たした場合に火源となり得ると考えられます。

3.金属と酸の反応
 現地調査で確認したバッテリー類の中には,破損した鉛蓄電池も見受けられました。
 鉛蓄電池には,電解液として希硫酸が入れられており,破損によって希硫酸が外部に漏出する可能性が考えられます。この際に,金属スクラップ中の金属類と接触することで,反応熱が発生し,これが蓄熱されて火源となる可能性が考えられます。
 また,金属スクラップの保管場所は屋外(無蓋)の場合がほとんどですから,雨水と金属類との反応も可能性として否定できません。

4.その他
 スクラップ中に不飽和油が混在していた場合,酸化熱が発生し,これが蓄熱されて高温となり,火源となる可能性も考えられます。

(3)燃焼物について
 組成調査において,多種類の可燃性物質の混在が確認されました。
 火源が一定のエネルギーを有した時に着火の可能性がある物,および,延焼の過程で引火する可能性のある物として,以下のものが考えられます。

1.可燃性液体
 スクラップ中には,灯油ストーブや小型発電機が認められたことから,これらに残留していたガソリンなどの可燃性液体が蒸発して狭い範囲に充満すれば,着火の可能性が考えられます。また,延焼時には引火する可能性が考えられます。

2.可燃性ガス
 スクラップ中には圧縮済みの可燃性ガスのボンベが認められましたが,仮にガスが入ったままのボンベが存在し,荷役作業などの衝撃によってガスが噴出すれば,着火,引火の可能性が考えられます。
 また,鉛蓄電池から漏出した希硫酸と金属類が接触した場合,水素ガスが発生する可能性があり,これが狭い範囲に充満すれば着火の可能性が考えられます。この反応は,水と金属類との接触でも同様の可能性が考えられ,過去の事例のうち,コンテナの爆発事案(2006.5)では,コンテナ内で金属屑と結露した水分が反応して水素を発生した可能性が指摘されています。

3.プラスチック片,紙片,布片,タイヤ,電線
 スクラップ中に混在するプラスチック片や紙片,布片,タイヤ,電線の被覆などの高分子物質は,火災が発生すれば,引火して延焼の要因となる可能性が考えられます。

(4)まとめ
 以上のことから,金属スクラップ火災は様々な要因が複合して発生しており,すべての火災事例がひとつの原因によるものではないことが推測されます。
 しかしながら,火災が発生するためには燃焼物の存在が不可欠であり,金属スクラップ中に多種の可燃性物質が混在することが火災発生に共通する要因であるのは明らかです。
 また,鉛蓄電池は電気的要因として火源となる可能性があるとともに,化学的要因として着火物となり得る水素ガスの発生に関与する可能性もありますことから,鉛蓄電池の混在と火災発生との関連をさらに検討する必要があります。

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