概要

広範囲聴覚空間認知訓練システムは、視覚障害者の歩行訓練における聴覚空間認知訓練を、安全な仮想環境で行うために開発されたシステムであり、以下の特徴を持ちます。

  • 3次元音響(音のバーチャルリアリティ)技術を用いて、ヘッドホンを通して歩行訓練環境の音を再現します。
  • 音の反射や遮音を再現することにより、音源定位・障害物知覚の両方の要因を再現します。
  • 特殊な信号処理チップを用いず、汎用パーソナルコンピュータに実装可能です。信号処理のほとんどをソフトウェアで実現するため無償化が実現しました。
  • 指導員が訓練環境を自由に編集可能です。音源(自動車など)などの音響要素を配置可能です。仮想訓練環境はXMLで記述されています。
  • 広範囲測位技術を用いて、訓練生の行動範囲や音場の再現範囲を制限せずに訓練可能です。訓練生は自由に頭を動かしたり、歩き回われます。
この図は、広範囲聴覚空間認知訓練システムの概念図です。訓練士は自由に訓練環境を設計し、訓練生はこのシステムを通して安全で分かりやすい訓練を受けることができます。WR-AOTS(TM)の中には、訓練環境の編集、訓練環境の再現、頭部位置計測、および3次元音響処理SifASo(TM)が含まれています。

WR-AOTS™は、東北大学と東北福祉大学による SifASo™ 技術を含みます。

研究の経緯

聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0(2003〜2005)

そもそも聴覚空間認知訓練システムとは何かについて、聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0のページを最初にお読み下さい。

広範囲聴覚空間認知訓練システム(2006〜)

2005年に最初に開発した聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0は、以下に掲げる3つの問題を抱えていました。このままでは訓練現場に導入できません。

  • 高価格であること(約500万円)
  • 訓練生の行動範囲と音場の再現範囲に制限があること
  • 大き過ぎて持ち運びできないこと

そこで、これらの問題を解決するために、WR-AOTS™プロジェクトメンバ一が共同で、以下の2つの改良を行いました。

  • 高価な専用装置を使わず、低コストで可搬なモバイルPCにソフトウェアとして実装する
  • 狭範囲・高価格・高精度の測位センサではなく、広範囲・低価格・低精度のGPSMEMS加速度・ジャイロセンサなどの広範囲測位センサを使用する

その結果、問題を解決することができ、2010年9月よりβ版、2013年3月より正式版を視覚障害関係者に提供できるようになりました。

図1は開発中の訓練システムの外観図です。図の中では、訓練生がノートパソコンを持ち、広範囲測位センサ付きヘッドホンを装着しています。
図1 開発中の訓練システムの外観図

完成したことにより、広範囲な仮想訓練環境を再現するシステムが低コストで実現できるようになりました。これにより、たとえば学校のグラウンドを、実際に歩くことのできる広い仮想空間にすることができます。

図2は学校のグラウンドが実際に歩くことのできる広い仮想空間に変わる様子を表しています。
図2 学校のグラウンドが実際に歩くことのできる広い仮想空間に変身

正式版配布開始については以下のプレス発表をご覧下さい。