研究概要

緒言

視覚障害者が歩行するためには、聴覚による障害物知覚や音源定位を活用して、空間を認知しなければなりません。視覚障害者の歩行訓練では、この聴覚空間認知が重要な位置付けとなっています。しかし、聴覚空間認知が不馴れな初心者が屋外で歩行訓練を行うと、危険を伴う場合があります。危険性を軽減するためには、実地訓練の前に、仮想環境シミュレーションによる聴覚空間認知訓練が必要です。そこで私達は、頭部伝達関数(人間の頭部の形状によって決定される音の伝達特性)を利用した立体音響技術(3Dサウンド)を駆使し、仮想環境で聴覚空間認知の総合的な訓練が行えるシステム(図1)の開発を目指しています。

図1は、頭部伝達関数を利用した立体音響技術(3Dサウンド)によって、自動車が往来する仮想環境を訓練生にヘッドホンで提示している様子を表わしています。次の行は図のタイトルです。
図1 聴覚空間認知訓練システム。頭部伝達関数を利用した立体音響技術(3Dサウンド)によって、仮想的な訓練環境を生成する。

訓練システム Ver. 1.0

2005年6月に聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0が完成しました。

図2は、聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0の動作画面です。課総訓練環境が画面に表示されています。次の行は図のタイトルです。
図2 聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0の動作画面。
図3は、聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0の装置の構成を表わしています。3次元音響処理装置、位置センサ、コンピュータ、アンプ、音源、および頭部センサ・膝センサ・ヘッドホンを装着した訓練生によって構成されています。次の行は図のタイトルです。
図3 聴覚空間認知訓練システム Ver. 1.0の構成。

特徴

  • 3Dサウンド技術により仮想音響環境を3次元的に作り出す。被訓練者は、自動車や建造物が存在する仮想環境をヘッドホン聴取で安全に体験可能。
  • 頭部位置センサからの情報を基に、被訓練者の頭部が動いた場合、仮想環境の音像の相対位置をその逆方向に移動する制御方式を採用。あたかも絶対位置が固定された環境の中にいるかのような没入感を作り出すことができ、被訓練者が自分の頭部の動きによる周囲の音の聞こえ方の変化を学習可能。
  • 膝位置センサからの情報を基に、被訓練者の”足踏み”動作を検出。被訓練者はその場で足踏み動作をすることにより仮想空間内で歩行可能。
  • 反射や遮音を再現することにより、音源定位だけではなく、障害物知覚の訓練も可能。
  • 訓練環境を独自のXML聴覚空間認知訓練システムのXMLDTDファイル)で記述。

共同研究者

研究資金

本研究の一部は、厚生労働省の平成15年度厚生労働科学研究費補助金感覚器障害研究事業
3Dサウンドを利用した視覚障害者のための聴覚空間認知訓練システム」(課題番号:H15-感覚器-006)
の助成を受けました。

参考文献

  • Yoshikazu SEKI, Tetsuji SATO, A Training System of Orientation and Mobility for Blind People using Acoustic Virtual Reality, IEEE Transactions on Neural Systems and Rehabilitation Engineering, Vol. 19 Issue 1, 95-104 (2011).
  • 関喜一、佐藤哲司、3次元サウンドを用いた視覚障害者用聴覚空間認知訓練システム、国立身体障害者リハビリテーションセンター研究紀要第26号、9-13 (2007).
  • 関喜一、佐藤哲司、3Dサウンドを利用した聴覚空間認知訓練システムの開発、第14回視覚障害リハビリテーション研究発表大会 (2005).

特許

  • 関喜一、佐藤哲司、視覚障害者のための歩行訓練環境生成システム、日本国特許、出願2004-12-09、登録2010-6-25、登録番号4534014.