第1回 真・物理選別学とは(前編)
このコラムは、社会や科学に興味を持ち始めた中学生や、特に専門家でない一般の社会人に向けて書かれたものです。人が今後も、人らしい文化的生活と文明を維持していくためには、多くの資源を必要とします。資源には、金属などの「材料資源」や電気などの「エネルギー資源」、あるいは食生活を支える「食料資源」や「水資源」などさまざまなものがありますが、「リサイクルによって資源を循環する」という視点から、ここで主に取り上げるのは、金属に代表される固体の「材料資源」です。
例えば、「家に塩が1kgある」とします。この言葉からイメージするのは、台所の衛生的な容器などに入って、いつでも料理に使える塩が1kgあるということです。しかし、間違って、その容器を落としてしまい、塩がすべて床にばらまかれてしまったらどうでしょう。普通は、もう、「家に塩が1kgある」とは言いませんが、科学的に見れば、塩が消えた訳でも、別の物に変わってしまった訳でもないので、まだ、「家に塩が1kgある」ということになります。塩自体は、まだ食べることができますが、床に落ちていたホコリや髪の毛などが、たくさん混ざっていることが問題です。これを完全に取り除くことは非常に難しいので、普通は、あきらめて捨てることになるでしょう。ただ、もし、床にばらまかれたものが、ぶどう、いちご、りんごならどうでしょうか?いちごなどは意見が分かれるかもしれませんが、多数のりんごが床に落ちたからといって、直ちに捨てる人は少ないと思います。水で良く洗えば、ホコリなどがほぼ完ぺきに取り除くことができるからです。固体の食品が同じように床にばらまかれたのに、この「塩」と「りんご」の違いは何でしょうか?
値段ということはあるかもしれません。例えば、落としてしまったものが、1粒1000円の高級いちごであれば、良く洗って食べようとする人は多いと思います。これも社会的には重要な価値観です。一方、科学的に見れば、両者の違いはホコリの取れやすさにあります。りんごなどであれば、水洗いすればホコリは簡単に、かつ、ほぼ完ぺきに取り除くことができます。しかし、塩はどうでしょう。ピンセットで1粒ずつ回収するのは根気がいる作業です。回収したものも良く見ると、表面にまだホコリが付いています。それを洗うと肝心の塩が溶けてしまう。やるとすれば、一度、すべて水に溶かした後、ホコリなどの固形物をろ過して、回収された塩水を煮沸消毒したあと、天日干しにして水を蒸発させ、再び結晶化した塩を回収することになりますが、こんな大変なことをしてまで回収したくないので、塩は捨てられてしまいます。固体の粒(粒子)をより分けることを「選別」と言いますが、この「選別のしやすさ」が重要です。簡単な選別で、不要なものを取り除き、必要なものを高い純度で回収することができれば、捨てられずに利用されることになります。