- 臨海平野の堆積環境変遷・地形発達過程の解明
臨海部には第四紀に形成された堆積平野が数多く分布し,河成・海成段丘や沖積平野などの地形がみられます。私は臨海平野の地形の成り立ち(地形発達史)に関心があり,臨海平野の地形やそれらを構成する堆積物を調べて,堆積環境(どのような場所で堆積したのか)や地形発達過程を復元する研究に取り組んでいます。臨海平野の地形は,第四紀に繰り返し発生した海水準変動や地殻変動などの影響を受けながら形成されており,地形発達史を詳しく明らかにすることで平野を取り巻くローカル~グローバルの様々な環境変化に迫ることができます。
また,第四紀は人類が活動を拡大した時代であり,臨海平野は人類の活動の舞台とも位置付けられます。過去の堆積環境を復元することで,過去の人々がみた景観や水文環境を知ることができます。考古遺跡と自然地理学・地質学を融合させた環境考古学(ジオアーケオロジー)にも関心を持ち,研究を行っています。特に,沖積低地の「微地形」に着目した研究に取り組んでいます。
珪藻とは数~数10 µmの微細な珪酸質の殻を持つ単細胞藻類で,海陸を問わず様々な環境に生息しています。塩分濃度やpHといった水質の違いによって住み分けていることを利用して,堆積物中に含まれる珪藻化石の種組成から,当時の堆積環境を復元することができます。
これまでに記載された珪藻は2万種を超えるとも言われていますが,堆積物中からは同定困難な珪藻化石がたびたび見つかります。そうした化石試料については,新種記載など,分類学的な研究を行っています。また,堆積環境や海水準の指標とすることを目的として,現在の干潟や潟湖に生息する珪藻の分類学的・生態学的研究にも取り組んでいます。
プロジェクト研究
- 沿岸域の地質・活断層調査(2014年度~)LINK
臨海平野には産業インフラや人口が集積してる一方で,主に未固結で軟弱な堆積物から成るため地震災害に対して脆弱で,軟弱地盤の層厚分布などの情報が防災施策を講じる上で重要です。しかしながら,これまで臨海平野の沿岸部は地質情報の空白域になっていました。このプロジェクトでは海陸の研究者が共同で研究を実施し,空白域を埋めた『海陸シームレス地質情報』の整備を行っています。これまで下記の地域において,陸域の第四系を対象として地形・地質調査を実施しています。
- 2014~2016年:相模湾沿岸域(足柄平野,相模平野)
>>海陸シームレス地質情報集「相模湾沿岸域」 - 2017~2019年:伊勢湾沿岸域(伊勢平野)
- 2020年~:紀伊水道沿岸域(徳島平野)
地質図とは,表土の下にどのような「地質」が分布しているのかを示した地図のことです。地質調査総合センターの陸域地質図プロジェクトの一部として実施中の「5万分の1地質図『前原および玄界島地域の地質』」の調査に参加しています。調査では主に第四系(特に段丘堆積物)を担当しています。
平成28年(2016年)4月に発生した熊本地震で甚大な被害が発生した熊本県益城町~熊本市西部を対象として,災害発生直後の被害分布調査,被害甚大地域での地下地質の特性に関する調査を行いました。
外部予算
- 地形発達過程を考慮した自然災害発生リスクの評価LINK
科研費,基盤研究(B),2018~2021年度,研究分担者.
- 外的条件の変化による活断層の活動性への影響LINK
科研費,挑戦的研究(萌芽),2019~2021年度,研究分担者.
- 南海トラフ東部におけるレベル1.5地震・津波の実態解明LINK
科研費,基盤研究(B),2017~2019年度,研究分担者.
- 過去1,000年間における洪水履歴とそれに応じた微高地の地形発達過程LINK
科研費,若手研究(B), 2016~2018年度,研究代表者.
平成27年関東・東北豪雨で鬼怒川が破堤した際には,破堤箇所の下流側に「クレバススプレー」と呼ばれる砂質堆積物から成る微地形が形成されました。その堆積物を調べた結果,氾濫状況の変化に対応した3ユニットに区分されることが明らかになりました。破堤箇所の周辺には,過去に形成された複数のクレバススプレーが分布しています。そのうちのひとつで地下の堆積物を調べたところ,少なくとも3層の洪水氾濫堆積物から構成され,およそ800年前以降に形成され始めたことが明らかになりました。