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双対座標

互いに符号が反対の接続, $\alpha $-接続と$-\alpha$-接続はいろいろな意味でペアになっている. そのうちでも最も基本的な性質は,ある空間が$\alpha $-平坦なら,同時に $-\alpha$-平坦でもあるということである(双対平坦). ただし,それぞれアファイン座標系は別のものになる.

双対平坦な空間$S$$\alpha $-座標系を $\boldsymbol{\theta}=(\theta^1,\ldots,\theta^n)$$-\alpha$-座標系を $\boldsymbol{\eta}=(\eta_1,\ldots,\eta_n)$ で表すことにしよう9. これらは以下のルジャンドル変換と呼ばれる 関係によって相互に変換される. ルジャンドル変換とは,ポテンシャル関数 $\psi(\boldsymbol{\theta})$, $\varphi(\boldsymbol{\eta})$が存在し,

$\displaystyle \psi(\boldsymbol{\theta}) + \varphi(\boldsymbol{\eta}) - \sum_{i=1}^n \theta^i \eta_i= 0,$ (11)

$\displaystyle \frac{\partial \psi(\boldsymbol{\theta})}{\partial\boldsymbol{\th...
...al \varphi(\boldsymbol{\eta})}{\partial\boldsymbol{\eta}} = \boldsymbol{\theta}$ (12)

という関係が成り立つことをいう. ちなみに, $\boldsymbol{\theta}$座標に 対する計量を$g_{ij}$ $\boldsymbol{\eta}$座標に対する計量を$g^{ij}$と書くと,

$\displaystyle \frac{\partial\eta_i}{\partial\theta^j} = g_{ij},\quad \frac{\partial\theta^i}{\partial\eta_j} = g^{ij},$ (13)

という関係があるので,$g_{ij}$および$g^{ij}$は計量であると同時に,局所的な 座標変換のヤコビ行列となっている10. また, 接空間$T_p$$\alpha $座標での基底 $\boldsymbol{e}_i$$-\alpha$座標での 基底 $\boldsymbol{e}^j$の間に

$\displaystyle \langle{\boldsymbol{e}_i},{\boldsymbol{e}^j}\rangle = \delta_i^j$ (14)

という双直交の関係が成立する. 最後の関係は,後で出てくる直交射影と 深く関係している. 直交性を見るには一つの座標系だけで見るよりも 双対座標とペアにして見た方がわかりやすい.

例 7   双対平坦という関係から,指数分布族は$1$-平坦($e$-平坦)であると同時に $-1$-平坦($m$-平坦)でもある. これに対応する$m$-座標系は $\eta_i = \mathrm{E}_{\boldsymbol{\theta}}[F_i(x)]$となり,これは十分統計量 の空間である(3.1参照). 従って観測されたデータから十分統計量を計算すれば, それを$e$-座標を用いて$S$の点として扱うことができる.

例えば,正規分布(例4)の場合は, $\eta_1=\mathrm{E}[x]=\mu$, $\eta_2=\mathrm{E}[x^2]=\mu^2+\sigma^2$となり,観測データはそのサンプル 平均$\hat{\mu}$とサンプル分散 $\hat{\sigma}^2$を用いて空間の点 $\boldsymbol{\eta}=(\hat{\mu},\hat{\mu}^2+\hat{\sigma}^2)$ として表せる. また,ポテンシャル関数 $\psi(\boldsymbol{\theta})$は (8)式の $\psi(\boldsymbol{\theta})$ そのものであり, $\varphi(\boldsymbol{\eta})$は(11)式から求まる.

一方,混合分布族は$1$-平坦($e$-平坦)でもある. これに対応する$e$-座標系は,指数分布族のように単純な形をしていない. 従って,双対平坦ではあるが混合分布族よりも指数分布族の方が統計的推定 との関連がつけやすい.



Shotaro Akaho 平成19年6月13日