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噴出物含水量からみた三宅島2000年7月14日および8月18日の噴火様式
宮城磯治・森下祐一
於:2001年地球惑星関連学会合同大会(6月8日 9時30分〜45分)


★何が問題か★
 2000年7月以降の山頂噴火では変質した岩片を含む細粒の火山灰が放出されました。 今回の三宅島の活動は、最近数100年の活動と大きく異なりました。 2000年山頂噴火のマグマ物質はことごとく粉砕された火山灰の中にあり、 溶岩やスコリアなどの形態をとりませんでした。 その例外は8月18日に放出された「カリフラワー状火山弾」です。 この火山弾によって、少なくとも8月18日の山頂噴火に マグマが直接関与したことが証明されました (これに関連する講演はこちら)。
 ここで生ずる疑問は、何故火山灰ばかり放出されたのか?、 ということです。 火山灰は細粒の、マグマ物質や既存の岩石の混合物ですが、 このようなものを作るにはそれらを破砕する必要があります。 今回の噴火では破砕されずに地上に出てこれたマグマ物質はほんの僅かですから、 噴火爆発力はきわめて強いものだったといえます。 つまりこの疑問は、別の言いかたをすると、 「マグマの効率的な破砕がどのようになされたのか?」 ということになります。

★したこと★
 そこで「揮発成分(マグマ水)」の観点から、 これらの問題にアプローチしました。 ここで用いる手法は、有珠山における2000年3月31日の噴出物(火山灰)のマグマ破砕深度を推定するのに用いたものと、基本的に同じで、 急速な減圧中はマグマからの脱水(ケイ酸塩溶融体中の水の拡散)が 非平衡になることを利用したものです。 この手法を用いることにより、破砕のおきた深さ(圧力)が推定できます。 この情報は、破砕のメカニズムを考察するうえでの糸口になると思います。

以下は、本講演で使用したOHPと、簡単な解説です。 OHPはクリックすると大きくなります。



三宅島の2000年山頂噴火の噴火様式に関する疑問点:
・何故
  火山灰ばかりなのか?
  今回の噴火は爆発力(マグマ物質以外も破砕)が強いのか?
・どのように、どのような、
  効率的な破砕がなされたのか?
  深さで破砕がおきたのか?
  メカニズムで破砕がおきたのか?
等々です。

この問題に、「揮発成分」からアプローチしてみたい。

マグマ(ケイ酸塩溶融体+結晶等の混合物)には数(重量%)もの水が溶解しています。 水の溶解度には大きな圧力依存性があって、 マグマの上昇(減圧)によって水は過飽和になるので、 気泡として析出します。

もしマグマがゆっくり上昇するならば、 ケイ酸塩溶融体(以下メルト)の含水量は、 飽和溶解度曲線にそって変化します。
※溶解度曲線にそった黒矢印

ところがマグマの上昇速度が速いと、 メルト中の水の化学拡散が追い着かないので、 溶解度よりも高い含水量をもつことがあります。
※溶解度曲線より下方に曲った黒矢印

本研究の分析対象は、そのような含水量をもつマグマ片です。

なお、 矢印のどちらかになるか(破砕するか、一体のまま脱ガスするか)のメカニズムは、 近代火山学の重要な研究課題のひとつでもあります。

話の流れをもういちど整理します。

何を分析対象にするか↓。

この手法は、分析対象を選びます。 条件は、「噴火中に変形しないこと」、「噴火直後に急冷されること」です。 前者が必要な理由は、メルト中の水の拡散を利用しているからです。 もしも噴火中にメルトが変形してしまうと、 拡散に要する距離(メルトの厚み)が変化してしまうからです。 このような系の拡散の計算はえらくややこしいので避けたいのです。 そこで、左OHPのように、結晶によって形状を束縛された部分や、 脆性破砕をした火山灰を、測定対象にします。 後者が必要な理由は、 もしも急冷されないと噴火後の脱水が無視できなくなるからです。

この条件を満足する分析対象は、 軽石等にみられる斑晶メルトチャンネル(OHP左がわ)と、 火山灰の急冷ガラス(右がわ)です。 逆にいうと火山岩の大半は「水のぬけたカス」であって、 単にそれらの含水量を測定しても、本研究の目的は達成できません。

それでは火山岩をどのように分析すればよいのでしょうか? また、「脱水が追いつかない」とは、どういうことでしょうか?。

というわけで、上のOHPの緑の矢印の部分について、 メルト中の水の拡散プロファイルを計算結果をお見せすることにより、 本手法の原理を説明します。

左のグラフは、計算に用いたマグマの圧力 (ここでは水分圧のことですが、全圧とほぼ同じです) の時間変化を示しています。 ここでは10気圧/秒、1気圧/秒、0.1気圧/秒の一定減圧速度での例をおみせします。

右のグラフは、0.1気圧/秒で減圧した際の計算結果です。 グラフ中の多数の青い線は、 それぞれの圧力時のメルト中の含水量プロファイルです。 含水量プロファイルはほぼフラットで、 この減圧速度ではメルト中の含水量はほぼ均質であることが分ります。

次に、もっと速い減圧時の含水量プロファイルをお見せします。

左は1気圧/秒のもの、右は10気圧/秒の結果です。 圧力の降下とともに、 グラフの左側(メルトの表面付近)は含水量が低下していますが、 右側(メルトの奥)は計算結果の線が混み合っていることがわかります。

このように減圧が速いと、 メルトの奥の部分は脱水できないことがわかります。

上は減圧速度一定の例でした。

では次に、減圧速度が変化する場合の計算例をお見せします。 左のグラフは先程同様に、マグマの圧力の時間変化を示しています。 途中で線が折れまがっているのがわかります。

実はこの「二段階減圧の折れ曲がり」が実際の噴火のどの時点に対応するかどうかは、 よく分りません。逆にいうと、本研究を マグマ上昇の物理モデルの構築や検証に取り入れてもらうべく、 天然の測定例を増やしている最中なのです。 ではありますがここでは、 折れ曲がりが火山灰や軽石の生成(マグマ破砕)時に対応すると考えます。 つまり、破砕前のマグマは粘性が高いためにゆっくり上昇(減圧)し、 破砕後はガス中に懸濁された状態で急激に減圧する、という考えです。

ここでは、前半0.1気圧/秒で後半10気圧/秒に加速した例と、 前半1気圧/秒で後半10気圧/秒に加速した二例をお見せします。

左は、前半1気圧/秒で後半10気圧/秒に加速した例、 右は、前半0.1気圧/秒で後半10気圧/秒に加速した例です。

どちらの場合もメルトの奥の部分の含水量は、 減圧速度が加速されて以降はほとんど脱水ができず、 この部分は飽和含水量を持っていることがわかります。

したがって、 この部分(メルトの表面から数十μm内側)の含水量を分析することができたなら、 マグマが破砕した時点の圧力(深さ)を推定することができるはずです。

実際の火山岩をみるとガラス(もとメルト)部分は細かい気泡があって、 「メルトの数十μm内側」のような場所を分析するには、 10μm程度の空間分解能を持つ分析装置が必要です。

この用途に使える装置が、二次イオン質量分析計(SIMS;シムス)です。

SIMSでは研磨した試料表面に酸素やセシウムなどの「一次イオン」を照射し、 このとき試料から放出される「二次イオン」を質量分析計で分析します。 空間分解能は10μm四方(深さ方向には100ナノメートル位)ですが、 もっと狭くすることも可能です。
※SIMSの詳細についてはこちら をご覧ください。

これは、SIMSを用いた「深さ方向分析」の典型例です。

水素イオンの量をシリコン(30の同位体)イオン等で割り、 その大きさを「標準物質(含水量や化学組成が既知)」と 「未知試料」との間で比較することによって、 未知試料の含水量を得ることができます。

実際の測定対象は、 三宅島7月14日の山頂噴火で放出された火山灰に含まれる、 マグマ物質です。 このOHPで「g2(Myk2000g-2の略)」と印をつけたものが、それです。

先のOHPの、左下のg2粒子をクローズアップしました。

このように、g2粒子は微小な針状結晶が多数晶出しています。 そのような部分をSIMSで分析しても意味のあるデータは得られません。

しかし、ありがたいことに、ガラス部分が存在することがわかりました。

これが含水量分析結果(ヒストグラム)です。 だいだい色で示した7月14日のg2ガラスの含水量は、 1.5wt%付近に集中しました。 この値は、斑晶ガラス包有物 (斑晶に覆われているので噴火中の脱水がないとされている) とほとんど同じです。 つまり、先の拡散計算が示していたとおり、 激しい噴火では飽和溶解度に追従できない部分があるのです。

おどろいたことに、包有物よりも高い含水量をもつ石基ガラスを発見しました。 水色白抜きで示した8月18日のg2(特にガラス部分が多い物)の含水量は、 一点だけですが、 2.7wt%H2Oもの含水量です。 また、8月18日のg2粒子のバルク(粒子全体の)含水量は、 石基や包有物の分析値よりもはるかに少なく、 0.3wt%H2Oしかありません。 これは発泡によって薄くなったメルトから効率的に脱水が起きたためで、 リーズナブルなことです。

なお、 下の二枚の写真は、SIMS分析を行なう前(右;走査電子顕微鏡)と、 後(左;反射光学顕微鏡)を比較のため並べたものです。 SIMSのイオンビームによって、分析個所には黒い穴があいています。

これは同様の手法で行なった(こっちが先) 有珠2000年3月31日噴出物の含水量分析結果です。

この場合は、火山灰の石基ガラス含水量は2.5±0.5wt%H2Oに集中しました。 この含水量に相当する水分圧は300-700気圧で、 リソスタティックな圧力勾配を仮定すると、 3月31日の噴火においてマグマ(Us-2000g)が粉砕された深度は、 地下1.5-3.5kmと見積もられています。
参考はこちら

注: 先の「二段階減圧の折れまがり」の問題同様、 上昇中のマグマが受ける圧力の深さ変化はよくわかっていません。 ここでは単純に、リソスタティック (海中での水圧と同じように上方にある物質の重みによってかかる圧力で、 岩石の比重と深さから算出できる) を仮定していますが、実際には岩石は流動せずにふんばるために、 マグマにかかる圧力がもっと低くなる可能性があるでしょう。 その場合、実際の破砕深度は本手法の見積りよりも深くなるでしょう。

これは三本岳から見た三宅島で、 赤白のポールが三宅島の地下深くに突き刺さっていて、 地面の下も見えているとします。

SIMSを用いた三宅島2000年噴出物の分析結果にもとづくと、 7月14日の噴火では、 マグマは海水準付近までゆっくりと上昇し、 その付近で地下水と接触することによって破砕し、 急激に減圧しながら多量の水蒸気とともに山頂から噴出した、 と考えられます。 8月18日の噴火ではもっと深い個所で破砕がおきていたかもしれませんが、 分析値が1つしかないので、今後さらに調べる必要があります。

では、この破砕はどのように起きたのでしょうか? 激しい破砕をするためにはマグマの熱を急速に地下水に伝え、 運動への変換する必要があります。 単に高温のマグマが地下水と接触するだけでは、 マグマの熱を効率的に伝達(その膨張により爆発)することは困難でしょう。 冷えた表面が本体を膜のように包んでしまい、表面積も増えないので、 効率的な伝熱ができないだろうからです。 効率的に伝熱するためには、 地下水に触れる前にマグマ自らを程度細切れにする必要があるでしょう。 例えば、マグマが気泡を多く(5〜7割)含んでいたならば、 これらの気泡がはじける際に、マグマは効率的に細切れになるでしょう。

ガラス包有物の分析値(1.5wt%)がマグマの含水量を代表していると仮定すると、 マグマ中には少なくとも水蒸気の気泡はほとんど無かったことになります。 何故ならば、この値は破砕時の含水量(1.5wt%)と等しいからです。 また、 火山ガス観測(CO2, SO2)結果から破砕時のCO2気泡量は10vol%弱と見積られます。

したがって、気泡による自破砕は困難に思われます。しかし↓

ところが別の仮定をすると、気泡によるマグマの破砕は、容易になります。 つまり、マグマの含水量としてガラス包有物(1.5%)の代わりに、 8月18日の石基分析値(2.7wt%H2O)を、仮定するのです。

この仮定が正しいかどうかさらに研究を行なう余地がありますが、 仮にそうだとすると、 破砕が起きるまでにマグマは1.7wt%もの水を気泡として析出することになります。 この体積はかなりのもので、73vol%(1.5%析出、T=1000℃)にもなります。

この説をOHPに図示しました。下から順に説明すると:
・地下4-5kmでCO2気泡を1.2vol%程度含むマグマが、上昇した
・上昇するにつれて水も析出し、気泡量が増加した
  ※地下水と接触する直前のマグマは、体積で7割程度が気泡
・多量の気泡によりマグマは自ら破砕し
  ※表面積の増大により、熱を効率的に地下水に伝えた
  ※多量の高圧水蒸気が発生し、周囲の岩石が粉砕された
  ※加えて、冷却による熱ひずみでマグマ自身も粉砕された
・噴火中の急激な減圧により、火山灰粒子内で微細な気泡が生成した
  ※それらの気泡にりマグマはさらに微粉化されたので、
    大きなスコリアが生産されず、みな火山灰サイズになった


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