構造用接着接合材の機械的特性評価の研究
地球環境保護,省エネルギーの社会的必要性の高まりから輸送機器の軽量化が強く求められている.最も有効な手段は軽金属や樹脂を構造内に取り込む異種材料接合である.車にこれを使用する場合,さまざまな耐環境評価を行わなければならない.特に繰り返しひずみ(疲労)と熱・水分による劣化との組み合わせは重要である. これまでの研究で,接着継手および接着硬化材に対する応力比の影響,ひずみ速度の影響,環境温度の影響および高温エージングの影響などを,系統的に研究を進めてきた.たとえば右上のグラフはアルミニウムとエポキシ接着剤を組み合わせたラップジョイント試験片で,応力比をかえて疲労試験を実施し耐久限度曲線を作成した図である.これにより接着継手に入力するすべての応力比に対して破壊のクライテリアを設計することができるようになった. また接着剤にとって重要な水分の影響について使用環境を考慮して吸水と乾燥とを繰り返し加えて強度低下,接着剤の重量(吸水量)変化,さらに化学構造変化を詳細に調査し接着構造物の耐候信頼性の向上を検討している.また現在は接着硬化材(バルク)に人工き裂を導入して、繰り返し負荷による疲労とクリープの関係を研究している.疲労き裂進展速度とクリープき裂進展速度を解析することにより,多くの知見が得られると考えている. |
セラミックスの「自己き裂治癒」に関する研究
セラミックスの最大の弱点は靱性値(KTC)の低さである.目に見えないキズ,き裂からでも容易に破壊に至ることがある.しかし材料自らがき裂を発見し治癒できる能力を与えられるならば,破壊力学上きわめてユニークな挙動を示しこの問題を克服できる可能性がある.研究の結果次のことを明らかにした.(1)構造用材料または製品としての信頼性の向上をはかることが可能である.(2)キズ検査や加工コストを大幅に削減できる.これらのことを証明するために,(a)き裂治癒能力の評価方法,(b)セラミックスの成分系がき裂治癒能力に与える影響,(c)治癒条件が治癒部の強度に与える影響,最適な治癒条件,(d)治癒可能な最大のき裂寸法,(e)治癒部の高温強度,き裂治癒のメカニズム,(f)治癒部の信頼性保証方法などを研究してきた.これらの研究成果をもとにセラミックばねへの技術移転に成功している. 近年開発したジルコニア/炭化ケイ素複合セラミックスは世界一低温度でき裂を治癒することが確認された(上の写真).それは従来の酸化物を利用してき裂を接着する方式だけではなく,加えて結晶構造のマルテンサイト(膨張)変態を応用してき裂を閉じる新しいき裂治癒である.低温処理が可能になったことにより熱処理後の品質の安定化がはかれ,成形困難な生体材料(歯のプラント,クラウンなど)への応用に可能性を見出した |
「き裂の無害化(金属材料の疲労限度向上)」に関する研究
構造用材料は高強度化・軽量化の要求が高まるが,同時にき裂感受性が高いため信頼性の向上が求められる.この矛盾した要求に対応するために「キズ・き裂の無害化」を研究してきた.その結果,微視的き裂に対してはショットピーニング(以下SPとする)により,また巨視的き裂に対しては過大荷重効果を用いた疲労限度を向上し,ついには使用上害の無いき裂にすることができることがわかった. 図1は半円型表面き裂長さaと疲労限度σwとの関係を模式的に示した.実線がショットピーニング(以下SPとする.)なしの場合であり,破線がSP加工有の場合である.SP加工の有無に係わらずある寸法以下のき裂では疲労限度は低下しない.このようなき裂を「無害なき裂」と呼び研究を進めてきた.その寸法aをSPなし,またはありの場合で,それぞれa0およびa0pとして示す.き裂を有する材料にSPを施工することにより,図1の破線のように疲労限度が向上するのみでなく,矢印で示したようにa0pがa0に比べてかなり増大する.このようにある寸法以下のき裂を無害化できることがわかれば,材料の検査基準の緩和が可能で高強度鋼を使用する機器用材料の検査コストの削減に大きく貢献できる. 「き裂の無害化」研究は破壊力学の分野で新しい概念を提案している.SPは構造用材料の疲労限度向上のみでなく,同時にき裂を無害化でき,機器の信頼性の向上,構造物などの保全費用の大幅削減などが可能であることがわかった.この分野で民間企業への技術移転で大きな成果をあげてきた. |