Browne&Gardner(2006)

by Isoji MIYAGI @ Geological Survey of Japan, AIST

The influence of magma ascent path on the texture, mineralogy, and formation of hornblende reaction rims. Earth and Planetary Science Letters. 246: 161-176. (my_id=1729)


目次

問題意識

噴火前のマグマ上昇速度を見積るためのツールを開発するため, マグマの減圧にともなう角閃石の分解反応を,高温高圧実験をつかって調べた.

したこと

試料は1989年12月のRedoubt volcanoのデイサイト軽石.等温(840℃)の水飽和条件での125および150MPaからの減圧実験(減圧前の温度圧力条件では角閃石が安定であることを別途確認済み).

最終的な圧力は2〜100MPa.減圧のさせかたは2通り.ひとつは一段階で圧力をさげるもの(シングルステップ).もうひとつは多段階で圧力をさげるもの(マルチステップ).

わかったこと

最終的な圧力と,減圧のさせかたによって,角閃石の分解様式が異なることが判明.


シングルステップ減圧の場合

  • 角閃石が安定な圧力で2日保持した場合 → 角閃石斑晶は分解せず(自形).
  • 角閃石が安定な圧力から10〜20MPa減圧後2日保持した場合 → 角閃石斑晶の周囲がまるく融けるだけで,分解反応生成物による反応縁ができない.
  • 角閃石が安定な圧力から30〜40MPa減圧後2日保持した場合 → 角閃石斑晶の周囲がまるく融けるだけで,分解反応生成物による反応縁ができない.
  • 角閃石が安定な圧力から30〜40MPa減圧後3〜5日保持した場合 → 角閃石斑晶の周囲がまるく融け,分解反応生成物(Mt, Opx, Pl)が散在する5〜18μmの反応縁ができた.
  • 角閃石が安定な圧力から50〜80MPa減圧後2〜10日保持した場合 → 角閃石斑晶の周囲に反応縁はできない.
  • 角閃石が安定な圧力から50〜80MPa減圧後12〜25日保持した場合 → 角閃石斑晶の周囲に,分解反応生成物(Opx, Pl, 微量Mt)からなる5〜35μmの反応縁ができた.
  • 角閃石が安定な圧力から95MPa減圧後26日保持した場合 → 角閃石斑晶は分解せず(自形).


…というわけで,反応縁ができやすい減圧量はある特定の範囲(30〜40MPa)に限られている.


マルチステップ減圧の場合

  • 角閃石が安定な圧力から0〜50MPa減圧(10, 7, 5 MPa/Day)した場合 → 角閃石斑晶の周囲には反応縁はできない.
  • 角閃石が安定な圧力から70〜90MPa減圧(10, 7, 5 MPa/Day)した場合 → 角閃石斑晶の周囲には反応縁はできた.
    • 10MPa/Dayで減圧した場合 → 20MPa(安定な領域から80MPa減圧)のときに角閃石斑晶の周囲の反応縁の厚みが最大となった(5μm).
    • 7MPa/Dayで減圧した場合 → 18MPaぐらい(安定な領域から82MPa減圧)のときに角閃石斑晶の周囲の反応縁の厚みが最大となった(8μm).
    • 5MPa/Dayで減圧した場合 → 10MPaぐらい(安定な領域から90MPa減圧)のときに角閃石斑晶の周囲の反応縁の厚みが最大となった(15μm).
  • 20〜30MPa/Dayで減圧した場合 → 角閃石斑晶は分解せず(自形).


…というわけで,反応縁ができやすい減圧量はある特定の範囲(70〜90MPa)に限られており,シングルステップとマルチステップでは,反応縁のできやすい圧力が異なる.


重要な結論

角閃石の分解速度は一定ではない.

角閃石の反応縁の厚みをそのまま,マグマ上昇速度計として用いるのは無理.

マグマの上昇プロセスを考えるには,角閃石の反応生成物の組織や,反応生成鉱物の種類や,それらの厚みを総合的に考慮する必要がある.

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