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※これは
2001年1月1日発行の地質ニュース1月号の原稿をもとに製作された読みものです.
| 地質ニュース2001年1月号「三宅島2000年噴火 −噴出物編−」の著者は, 宮城磯治 ・ 東宮昭彦 ・ 星住英夫 ・ 伊藤順一 ・ 川辺禎久 ・ 佐藤久夫 ・ 斉藤元治 ・ 濱崎聡志 ・ 中野俊 ・ 高田亮 ・ 山元孝広 ・ 宇都浩三 ・ 森下祐一 ・ 木多紀子 です. (いずれも地質調査所職員) | 地質ニュースの入手について: 東京都の霞ヶ関政府刊行物サービスセンター および つくば市の友朋堂(ゆうほうどう)書店本店に常備してあります。 また、最寄りの書店でも注文できます。 発行所: (株)実業広報社 電話03-3265-0951; Fax03-3265-0952 定価: 785円(本体価格748円); 送料実費 ISSN 0009-4854 |
伊豆七島の三宅島は2000年6月に,17年振りに活動を再開しました. 1983年10月3日に起きた前回の活動では, 溶岩の前進は数日間継続したものの, 噴火自体はおよそ半日で終りました. それに対し2000年には長期にわたり様々な活動が継続しました(表1). 今回の活動には,多量の火山灰放出,多量の火山ガス放出, そしてリアルタイムでの大規模山頂陥没事件が含まれています.
なかでも火山ガスの放出量は世界でも最大級です.このため, 本稿執筆時も島民がいまだ帰島できない状態が続いています. 火山学者が島民の帰島時期等を含む長期的な予測に寄する (予測すること自体が可能かどうか,という検討も含みます) ためには, 多量の火山ガスがどのようなメカニズムで放出されているのかを, 理解(モデルの作成)しなければなりません.
しかしながら, 今回の三宅島の活動は火山学者にとって初めてあるいは非常に稀な経験であるため, いま三宅島の地下で何が起きているのかを経験則によって理解することは, 困難です. 状況を正しく把握するためには, 基礎データの地道な積み上げと, 既成概念にとらわれない柔軟な発想によるモデルの構築が必要になるでしょう.
ここでは地質調査所の「三宅島火山噴火対応チーム」の 多岐にわたる研究のうち, 噴出物の岩石学的なとりくみを中心に,紹介させていただきます. 噴火の推移の詳細等については, 稿を改めて紹介させていただく予定です. なお,チームによる最新の成果内容についてはWWWページ (地質調査所の三宅島ホームページ) を御覧下さい.
表1:三宅島2000年火山活動の主なイベント
| 6月26日 | 群発地震が発生. |
| 6月27日 | 島の西方沖約1kmで海水の変色.阿古から伊ヶ谷にかけて地割れ. |
| 7月8日 | 山頂部で噴火.赤色の火山灰が島の東部に堆積.山頂部が陥没. |
| 7月14〜15日 | 山頂部で噴火.灰色の火山灰が島内に多量に堆積. |
| その後 | 山頂の陥没が徐々に進行. |
| 8月7日 | 山頂から白煙があがる. |
| 8月10日 | 山頂部で再び噴火. 黒灰色の噴煙をあげ,火山灰を堆積. |
| 8月13日 | 山頂部で噴火.阿古方面に降灰. |
| 8月14日 | 山頂部から白煙をあげる噴火.坪田方面で少量の降灰. |
| この頃から | 山頂部の噴煙が連続的になる |
| 8月14日には | 火山ガスに二酸化硫黄臭を確認. |
| 8月18日 | 2000年の一連の噴火のなかで最大級の山頂噴火. 広い範囲(八丈島でも)で降灰. 火山灰のほか,火山礫や火山弾も島内の広い範囲に落下. |
| 8月29日 | それに次ぐ規模の噴火.低温の火砕流が北部海岸に到達 |
| 9月1日には | 全島避難が決定 |
| 9月中旬以降 | 降灰は殆どなくなったが火山活動は衰えず,盛んに噴煙をあげる. 特に,二酸化硫黄ガスの放出量は世界的にも最大級. |
| 12月末 | 赤外線放射温度計で400℃以上の火口内温度が測定される。 火映現象が確認される。 |
三宅島2000年の活動は6月に開始しましたが, 同年11月1日の火山噴火予知連絡会まで, 三宅島の地下で何が起きているのかに関する意見はまとまらず, 大きく分けて二つの見かた(モデル)がありました.
1つめは,三宅島の地下にマグマはなく, 噴火は熱水の沸騰によって起きたとするものです.
2つめは,一連の噴火にはマグマが直接関与している,という考えです. この場合,三宅島の地下にマグマが供給されていることになります.
マグマは火山噴火の主役であり,この有無を判断することは, その活動を理解するための基礎中の基礎といえるでしょう. それなのにどうして,判断が困難になったのでしょうか? 2000年の三宅島の活動がどう奇異なのかを理解するために, 過去の三宅島の噴火をふりかえってみましょう.
1469年からの山腹噴火は21-69年の短い休止期をはさんで起こり, それらはほとんど割れ目噴火でした(一色 1960). 特に前回の1983年噴火では空撮などにより, 生々しい噴火の様子が記録されています. 溶岩が噴泉のように放出され,斜面に沿って流下し,山火事も発生しました (例えば 曽屋ほか 1983). このような噴火では,マグマが噴火に直接関与し地表に出てきたことが, 誰の目にも明らかです. 海岸に向うほど火口の径は大きくなり, これはいかにも,海岸付近で地下水や海水がマグマと接触し, マグマ水蒸気爆発が生じていることに違いありませんでした.
これに対して2000年に開始した三宅島の活動はどうでしょうか? 特に7月の噴火では,マグマが我々の前に はっきりとした形(溶岩噴泉等)で姿を現すことはありませんでした. 火山灰には変質した岩片が多く含まれ, 灼熱の溶岩は姿を見せず, 火口での噴気活動が殆どなく, 火山灰の付着成分には高温マグマ的ガス成分が少なく, 山体が収縮沈降しました.
これら一連の事実は, マグマの関与(地下からの上昇と噴出)を否定するものとして受け取られました. すなわち1つめの説が支持されていたのです.
ところが,筆者(星住および宮城)は, 火山灰を実体顕微鏡と走査電子顕微鏡で観察した結果, 火山灰の中に本質物の疑いの濃厚な粒子(Myk2000g-2.以下g2と呼ぶ)が 含まれていることに気づいたのです.
この発見は一連の噴火にマグマが直接関与したという 2つめの説を裏付けるものでした.7月下旬のことでした.
火山灰は,雑多な混合物です. 山体を構成する過去の溶岩,過去のスコリア, それらの変質した物,等々多種多様な物質が混入しているはずです. もしかするとその中に今回のマグマ物質が含まれるかもしれないし, 含まれないかもしれない. そこでまず,火山灰構成粒子の分類に取りかかりました. 分類作業はいたって原始的なもので, 走査電子顕微鏡で火山灰粒子を片っ端から撮影し, 写った粒子を一つ一つハサミで切り抜き, 机の上にならべて見比べながら, 微細組織の特徴に基づいて, 人間(宮城)のパターン認識でグループ分けをしただけです. 本稿執筆時点で火山灰は 11分類(Alt, Clot, Xtal, Myk2000g-1〜-8)されています. 分類の詳細については,WWWページ(宮城の三宅島ページ)を参照ください.
このような作業に岩石学的な検討を加えることによって, それまで「路傍の石(の粉)」だったg2粒子は, 一躍「本質物質の候補」として一躍注目をあびるようになったのです. g2粒子の持つ様々な岩石学的特徴は, この粒子が「そこで活動したマグマ」に由来することを示唆していました.
一連の火山灰中には, 変質して緑色を帯びたり白色に脱色した粒子が比較的多く含まれていました. これらは三宅島の山体を構成している過去の噴出物等が, 今回の噴火の衝撃で粉砕されたものと考えられます. 一方,g2と名付けられたグループの粒子には,風化変質の形跡がなく, これがごく最近できたことを意味しています. この火山灰にはg2の他にも風化の少ない粒子が含まれていましたが, それらに占めるg2の割合いは圧倒的(8割程度)でした.
g2粒子の特徴は比較的明瞭です. まず,風化変質が認められない,つまり新しいということです. 次に,非常に細かい気泡が多量に含まれることです(写真1). 一般に,スコリア等にみられる気泡は, マグマに溶解していた揮発性成分が, 圧力の減少によって飽和しガスとなったものですが, g2粒子の特徴は, 減圧が短時間(気泡が多数:核生成率が大きい)の間に起こり, 急速に冷却(気泡が細粒:気泡発生後十分成長する前に固化)されたことを意味します. このような過程はいかにも, マグマと地下水が接触(急冷)して爆発的に上昇(急減圧)する, マグマ水蒸気噴火で起こりそうです. 実際,この特徴は,津久井・鈴木(1995)による, 三宅島1983年の新澪池P・Q火口のマグマ水蒸気噴火で放出された 発泡の悪いスコリアの顕微鏡観察結果と一致します.
火山灰粒子に対して行なったいくつかの化学分析のうち, 特に磁鉄鉱の化学組成分析結果は,示唆に富んだものでした. まず, 微細組織のパターン認識に基いた分類と磁鉄鉱の組成はよく対応しました. これには筆者ら(東宮および宮城)も驚きました. g2粒子の組成は均一でした. しかも,g2粒子の組成は類質岩や変質岩, そして我々が得た比較的最近の噴出物(1940年山頂スコリア)のどれとも 一致しないことが明らかになりました(図1).
その後の研究により,g2粒子の磁鉄鉱の組成と微細組織は, 今回の活動に似ているといわれる約3000年前の八丁平火山灰とも異なることが, 明らかになりました. また,8月中旬以降g2粒子の磁鉄鉱は急速に変化消失したことも, 明らかになりました. 磁鉄鉱の詳細についてはWWWページ(東宮の三宅島ページ)を御覧下さい. このことは, g2粒子が既存の噴出物の単純なリサイクルではなく, 「そこで活動している新しいマグマ」に由来することを, 強く示唆しています.
一旦落ち着いたかにみえた三宅島は,8月10日に再び噴火しました. 筆者(宮城)は篩や超音波洗浄器などを携えてただちに現地に赴き, 翌朝からの地質調査で採取した噴出物を観察しました. するとやはり,細かく発泡した新鮮な火山ガラス片 (g2粒子)が含まれていたので,大変おどろくとともに, これがマグマ物質であることを確信しました. このとき本土行きの船が台風ため欠行し, 数日滞在する間に著者(宮城)には口内炎ができてしまいました. もしかすると,無意識のうちに恐怖を感じていたのかもしれません. その後もこのg2粒子は, 比較的勢いの強い噴火(黒っぽい噴煙)の噴出物中に必ずみられました(表2).
表2:三宅島2000年噴火と噴出物
写真の一辺は基本的に1ミリ(一部2倍拡大写真あり)。
| 日付 | 噴出物 | 噴煙の色 | 顕微鏡写真 |
| 2000.06.27 | 変色水と,噴石(地震研) | 無し | |
| 2000.07.08 | 火山灰 | 白〜灰色 | これです |
| 2000.07.14-15 | 火山灰(g2) | 暗灰色 | 14AM; 14PM |
| 2000.08.10 | 火山灰(g2) | 暗灰色 | これです |
| 2000.08.13 | 火山灰(g2) | ? | これです |
| 2000.08.14 | 火山灰 | 白色 | これです |
| 2000.08.18 | 火山灰(g2)と,高温の火山弾(g2) | 暗灰色 | これです |
| 2000.08.29 | 火山灰(g2) | 暗灰色 | これです |
| 2000.09.09 | 火山灰(g2) | 灰〜暗灰色 | これです |
| 2000.09.11-12 | 火山灰 | 白〜暗灰色 | 11日; 12日 |
| 2000.09.21-22 | 火山灰 | 白〜灰色 | 21AM; 21-22 |
| 以後(12.06現在) | 基本的に火山ガスが主体 | 白色 |

写真1:
2000年7月14日午前中の噴火で放出された火山灰の反射電子像.
写真の一辺は500μm.
画面中央の粒子がMyk2000g-2(略称g2)である.
画面右上,右下,左下,に一部写っているものもg2粒子.
非常に細かい気泡と結晶を多量に含む.
粒子の中央の明るいものは磁鉄鉱の微斑晶.
(クリックすると解像度の高い画像が得られます)

図:
三宅島の火山灰に含まれる磁鉄鉱微斑晶の化学組成.
写真1に示した粒子グループ「Myk2000g-2」中の磁鉄鉱の組成は,
狭い範囲に集中することがわかる.この図により,Myk2000g-2(●)は,
変質岩(×と+),結晶質岩(田),1940年の山頂スコリア(▽),
その他のガラス質岩片(○)と区別することができる.
(クリックすると解像度の高い画像が得られます)
しかしながらその当時,大方の意見は,三宅島の地下にマグマはなく, 噴火は地熱水の沸騰によって起きたとするものであり, このような状況の中で, 火山灰中に本質物(マグマ)が存在し一連の噴火にはマグマが直接関与している, という考えが受けいれられることはありませんでした. 一般に地学現象は我々の直接見ることが不可能な時と場所でおきるため, あるアイディアを証明しようとするとすぐ証拠不足に陥りますが, 今回もそれに漏れず,g2粒子が今回のマグマだと証明することは困難でした.
なぜならば, g2粒子がどんなに新鮮でどんなに単一微細組織や化学組成を持っていたとしても, これが我々地質学者に知られることなく最近山頂部に堆積した噴出物であり, それが今回の噴火の衝撃で粉砕されて火山灰に取り込まれた可能性は, 否定できないからです.
その転機となったのが,8月18日の噴火です. この噴火では火山灰のほか,「カリフラワー状火山弾」が放出されたのです. 筆者(高田および伊藤)は現地調査の際に, この火山弾の底部が平らに変形し, 底に敷かれた火山灰が赤く変色していることに気づきました. 本号口絵写真8のカリフラワー状火山弾の断面をみると, 底面がつぶれて変形し,平らになっている様子がわかります. このことは,この火山弾が着地した時,まだ冷え固まっておらず, 内部が高温だったことを示します. 高温であるということは,それが今回のマグマである決定的な証拠になります. (過去の噴出物が再加熱された(宇宙人によって?)云々等の可能性は否定しませんが, そこまで慎重になる必要はないでしょう) いわば現行犯逮捕のようなものです.
とはいえ,その火山弾は,発見された時には既に冷えていました. そこで筆者ら(宮城および東宮)は,独自の方法を用いて, 落下時点での具体的な温度の推定を試みました. 「カリフラワー状火山弾」の下に敷かれた火山灰が赤いのは, 灰色だった空気中で高温に加熱され,鉄分が酸化されたためですが, この手法ではそれを逆に利用して, 火山灰の赤みの度合いを測定することで加熱温度が得られたのです. その結果,火山灰は「約500℃」に加熱されたことが判ったのです. さらに,火山弾が冷えてゆく過程の熱伝導計算をした結果, 落下時の火山弾内部の温度は,「約1000℃」と推定されました. 詳しくはWWWページ(宮城および東宮)を御覧ください.
噴出物自体の観察以外にも, 8月18日の噴火が高温の噴火だったことを示す事柄がありました. 筆者(山元)は噴煙高度と噴出量の関係に着目しました. 噴煙が空高く上昇する主な理由はそれが周囲の大気よりも軽いからです. 熱は,熱膨張等により噴煙の密度を軽くする効果を持ちますが, 一方火山灰粒子は, 噴煙の密度を大きくするので, 噴煙の上昇を妨げる効果があります. 8月18日噴火で立ちのぼった黒灰色の噴煙には, 多量の火山灰粒子が含まれています. 熱量と浮力に関して行なった計算の結果, この噴火のように,多量の火山灰を含み,かつ高く上昇する噴煙をつくるには, 熱水だまりの沸騰では圧倒的にエネルギー不足であり, 高温のマグマが直接噴火の熱源になった可能性が高い, という結論が得られたのです.
これらの証拠によって, 少なくとも8月18日の噴火にマグマが直接関与したことは, 疑いの余地がほとんどなくなりました.
では,8月18日以外の噴火にもマグマが含まれているのでしょうか? g2粒子は果して本当にマグマだったのでしょうか?
この8月18日の高温火山弾をとりかかりにして, 芋蔓式に事実が明らかになっていきました. まず,8月18日の噴出物には火山灰粒子「g2」が多量に含まれることが, わかりました.そして, g2粒子からスコリア片,火山礫,そして「高温のカリフラワー状火山弾」まで, みな大きさによらず,石基組織,鉱物(斜長石,輝石)組成, 全岩化学組成が一致したのです. これらがみな同一のマグマに由来する,と考えるのが自然です. さらに,それらの特徴は, 7月14日〜8月13日にみられた火山灰粒子「g2」と同じだった (但し,噴火の時期を追ってg2粒子の磁鉄鉱の量は低下)のです. よって,同一の起源をもつことが示されたのです. 火山灰中のg2含有率が黒灰色で背の高い噴煙ほど多いという事実も, その熱源となったマグマが「g2」だと考えると, 先に述べた噴煙高度と噴出量の関係により,うまく理解することができます.
このように, 一連の噴出物の中にマグマが含まれていることが明らかになったことを受けて, 地質調査所は2000年8月31日の火山噴火予知連絡会に, 「一連の噴火は,マグマが直接に関与した噴火である可能性が高い」 という見解を提出しました.
では,いま三宅島で活動しているマグマは, いったいどのようなものなのでしょうか? どのような過程で噴火したのでしょうか? これらについては現在進行中の研究を含むため結論は流動的です. そうお断りした上で,いくつかご紹介させていただきます.
先に述べたとおり,g2粒子の特徴(細粒で多数の気泡)は, 急減圧と急冷を意味します. このことから,基本的には, g2が多く含まれる噴火(暗黒色噴煙をあげたもの)は, マグマ水蒸気噴火だと解釈しています. ただし, 以下にのべるように, g2粒子の冷却速度にはある程度の幅があり, 噴火の様式には幅があったことが示唆されます. ここでは冷却速度の幅を, 急冷された組織によって示されるマグマ水蒸気噴火的特徴と, やや徐冷された組織のマグマ噴火的特徴,として解釈します.
7月14日午前中の火山灰のg2粒子はよく発泡していますが, よく観察すると,一部未発泡のガラス部分が残っている粒子も存在します (例えば写真1の右上と右下の粒子). 未発泡ガラス(微結晶もない)の存在は, その粒子の冷却が非常に急速だったことを意味します. そのような未発泡ガラス部の含水量を SIMS(二次イオン質量分析計)で局所分析すると, 飽和含水量の圧力依存性を利用することによって, 粒子が破砕し含水量が凍結された時点の深さを推定することができます. 例えば2000年3月31日の有珠の噴火ではこの手法により, 破砕の起きた深さが1.5-2.5kmと見積られています(宮城ほか 2000). それらのg2粒子の未発泡部を分析したところ, 含水量は1.5重量%程度になりました. この値は玄武岩としてはかなり高いので今後の検討を要しますが, この含水量は, マグマが比較的高い圧力の下で(〜200気圧)凍結されたことを示します. この圧力は大変興味深い数字です. 200気圧は, 地下600〜700メートルでの岩石による重さによって生じる圧力に相当しますが, 三宅島の山頂からこれだけ地下に下ると, ちょうど海水面あるいは地下水面と同じ深度になるではありませんか. すなわち,上昇してきたマグマはその付近で地下水に接触し, 爆発的に膨張する水蒸気によってばらばらに破砕され, 山頂から噴出した,と想像することが可能です.
次に,比較のため8月18日のg2粒子の分析を試みましたが, こちらはくまなく発泡していて, SIMSで分析できるような個所(約10μm;状況により変える)が無いほどでした. この特徴は,減圧後の急冷が緩いことを意味しています. このことから,もしかすると,8月18日の噴火は, マグマ水蒸気噴火とマグマ噴火の中間的なものだったのかもしれない, という想像が可能です. マグマ噴火では,マグマが地上に出るまで効果的な冷却が起きないので, その間マグマは高温低圧の状態に曝される,と想像できます. したがってその間に脱水は進行し, 噴出物の含水量はさらに低下することが予想されます. そこで比較のために, マグマ噴火の噴出物(伊豆大島1986年Aおよび1777年Y1スコリア)と, 8月18日のg2の全岩含水量の分析を行ないました. その結果は,予想どおり,Aスコリアの全岩含水量は, わずか0.1重量%,Y1スコリアの全岩含水量も, 0.1重量%しかありませんでした. それに比べて8月18日の本質礫(顕微鏡下でハンドピック)の全岩含水量は, 0.3重量%と,有意に高いのです. 【注:全岩の含水量と,局所分析の含水量とではデータの意味が全く異なるので, 直接数字を比較することはできません.しかし全岩データ同士で比較することには, 意味があるでしょう.】 このように, 噴出物の含水量に関する研究を行なうことによって, 噴火がどのようなメカニズムで起きたのかを知るための手掛りが得られる と期待されます.
9月以降の噴火はどのようなものでしょうか? 9月中旬以降,黒灰色の噴煙をあげるような激しい噴火はみられなくなりました. 地質調査所のマグマ供給系モデル(口絵の図1)にもとづくと, これは火道が安定したためにマグマと地下水が接触しにくくなったため, と解釈できます. 実際に噴出物を検討すると,それが反映されています. まず,火山灰そのものの放出量が極端に低下しました. そして火山灰の構成物にはg2粒子が見られなくなりました. 代わって,円磨度の高い, 変質度の少ない完晶質粒子が大半を占めるようになりました. 火山灰中の変質鉱物にも変化がみられました. 8月末まではスメクタイト,カオリン等の粘土鉱物が含まれていましたが, 9月以降は見られなくなりました. 連日の噴出によって火口付近の変質鉱物がほとんど消費されたと思われます. これらのことから,火山灰の構成粒子の大半は, ごく表面付近の溶岩等の破片と考えられます. それらは火砕丘に噴きあげられては火口に落ち込むことを何度も繰り返し, 円磨された,と解釈されます.
2000年に三宅島で活動したマグマは前回1983年の出残りではなく, 今回新たに供給(口絵の図1の,DからAへ?)された本源的なものだと考えています. その理由はまず,全岩組成がより本源的なことです. 8月18日の火山弾のSiO2含有量は51重量%程度であり, 最近1000年程度の噴出物の中では, FeO/MgO濃度比(マグマの冷却結晶化とともに増大)が最も小さいのです. 温度も,本源的なマグマらしく,十分高温です. 少なくとも固まりかけの低温マグマに由来するとは思えません. 8月18日の火山弾の斑晶と石基間の酸素同位体分別(温度計になる) を調べることによって, 斑晶を結晶化した際の温度が約1200℃と見積られています. 磁鉄鉱の化学組成分析結果も,より本源的であることを支持します. 図1でMyk2000g-2中の磁鉄鉱は右上のほうにプロットされますが, この図では右上ほど それが高温あるいは本源的な組成のマグマから晶出したと考えられるからです. 興味深いことに, 全岩組成はこれまでの三宅島噴出物に比べて若干斜長石がわに外れる傾向があります. これは本源的なマグマに斜長石成分が付加したことを意味しています. 試料を見ると,いかにも斜長石が付加しています. 口絵写真8の8月18日の噴出物断面に沢山見える白灰色の斑点は, 斜長石斑晶と斜長石に富んだ結晶質岩の破片からなります. もしかするとこれらの「破片」は, ピストンとシリンダーの陥没のすきま(口絵図1)で多量に生成し, そのすきまを通って上昇したマグマに取り込まれたのかもしれません.
なお,地質調査所による三宅島火山研究の最新情報は,
本所のWWWページで公開しておりますので,どうぞ御覧ください.
地質調査所の三宅島ホームページは:
http://www.gsj.jp/miyake2000/miyakeindex.html
特に,噴出物に関連した情報は,
宮城のページ:
http://staff.aist.go.jp/miyagi.iso14000/iMiyake.html
および
東宮のページ:
http://staff.aist.go.jp/a.tomiya/miyake.html
を御覧ください.
謝辞: 本報告の作成にあたり,直接間接的に多くの方々のご協力をいただきました. 火山灰の採取や地質調査には東京都をはじめ,三宅支庁,三宅村, 大学合同観測班ほか,多数の機関の方にご協力をいただきました. 筆者(宮城)が現地で火山灰を観察する際には, アジア航測の千葉達郎さんにお借りした携帯型実体顕微鏡と, 民宿「ほまれ」の沖山鞠枝さんからお借りしたドライアーが役立ちました. スコリアの含水量測定にあたり, 秋田大学工学資源学部付属資源素材システム研究施設の 松葉谷治教授にお世話になりました. お礼申し上げます.
一色直記(1960):5万分の1地質図「三宅島」および同説明書,地質調査所,p.85.
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