異形断面形状が成形できるスピニング加工機
「リニア・ロボスピン」
− リニアモーター駆動の実用機プロトタイプ −

産総研HP広報記事

2009年 日本ロボット学会 実用化技術賞 受賞


ポイント: ロボット制御技術の導入により、楕円・偏心・多角形など異形断面形状の成形を実現。
   金型コスト削減で小ロットの多品種少量生産、単品の特注品や製品開発における試作に有利。

(独)産業技術総合研究所と(株)大東スピニングは、異形断面形状が成形できるスピニング加工機「リニア・ロボスピン」を共同開発しました。
「リニア・ロボスピン」の特徴は、
 (1)加工ローラをリニアモータで駆動し、金属素材に加える加工力が高速で制御できること
 (2)主軸にサーボモータを採用し、主軸の回転角に合わせて加工ローラを動かせること
です。これらにより従来のスピニング加工機では難しかった、楕円・偏心・多角形など様々な異形断面形状の成形を実現しました。

■ 開発の経緯

 スピニング加工とは、板や管などの金属素材をモータで回転させながら、ローラ工具を押し付けて成形する塑性加工の一手法です。スピニング加工は、(1)金型がオス側1個だけで済むために金型のコストが低い、(2)材料の無駄が少ない、(3)加工に要する力が小さいため装置が小型で騒音・振動が少ない、などの点が優れています。特に小ロットの多品種少量生産、単品の特注品や製品開発における試作などに威力を発揮する加工法です。 しかし、従来のスピニング加工では回転軸に直交する断面が円形の製品しか成形できませんでした。こうした丸物以外の製品は、少量であっても型代の高価なプレス加工や手間のかかる板金溶接などで作らざるを得なかったのです。

 産総研では、よりフレキシブルで付加価値の高い加工を実現するために、ロボット制御技術をスピニング加工に導入することを試みております。特に、従来のスピニング加工の枠組みを超えて、楕円・偏心・多角形などの異形断面形状が成形できる新しいスピニング加工法の開発に取り組んできました。このたび産総研とスピニング加工機の専門メーカーである株式会社大東スピニングは、これまで開発した異形断面形状に対応するスピニング加工法を集大成し、より実用的な要素を加味した、リニアモータ駆動による力制御スピニング加工機「リニア・ロボスピン」を共同開発いたしました。

■異形断面形状の成形方法 ■

 「リニア・ロボスピン」では、異形断面形状を成形するために「力制御スピニング」「同期スピニング」という2つの新たな加工法を用いています。

 力制御スピニングでは、作りたい形状と同じ異形断面形状の金型を用います。加工ローラの押し付け力を一定に保ち、素材を金型に押し付けます。一方、金型の回転軸と平行な方向には、加工ローラを一定速度で送り制御します。ローラは金型の形状に倣って動き、素材を型に密着させます。その結果、金型と同じ異形断面形状の製品を作ることができます。

 異形断面形状を成形している間、金型の形に合わせてローラを半径方向に非常に速く往復させる必要があります。そのため「リニア・ロボスピン」ではローラの半径方向の動きをリニアモータで駆動しています。ローラが金型の形状にすばやく追従するので、成形時間を短縮できます。また吸引力相殺型リニアモータを採用し、推力増加と摩擦力低減を両立させました。

 同期スピニングでは、半径方向のローラの変位xをワークの回転角θと同期して制御します。「リニア・ロボスピン」では主軸にサーボモータを採用しているため、ワークの回転角とローラの位置を同時に指定することができます。ローラとワークの接触点の軌跡が作りたい断面形状を描くようにすることで、所望の異形断面形状を成形します。この方法は金型を用いずに素材が中空のまま成形を行う際に特に有効です。また、同期スピニングと力制御スピニングを組み合わせて段階的に成形を行うことで、成形しにくい形状や材質にも対応できます。

■ その他の機能 ■

 「リニア・ロボスピン」では、新たな異形断面形状の成形ばかりではなく、これまでのスピニング加工機で一般に用いられている機能も盛り込み、従来機からの移行に配慮しました。
 ・ ジョイスティック操作による教示再生機能で従来通りの丸物の成形加工が可能
 ・ 成形作業を助ける様々な周辺機能 …心押し台,ブランク受け,バックアップローラ,ノックアウト機構など

「リニア・ロボスピン」の主な諸元
装置寸法 巾2875mm × 奥行1820mm × 高さ1895mm
X軸(半径方向) 吸引力相殺型リニアモータ 定格推力4000N
Z軸(主軸方向) サーボモータ+ボールねじ 定格推力10000N
C軸(主軸) サーボモータ+遊星減速機 定格出力 7.5kW 定格回転数 375rpm
ワーク寸法 最大直径400mm 最大高 350mm


 平成20年10月30日〜11月4日に東京ビッグサイトで開催された第24回日本国際工作機械見本市(JIMTOF2008)をはじめ、おおた工業フェア、MF-Tokyo2009などの展示会において、本機を用いた加工実演を行いました。

 今回共同開発したプロトタイプをベースとした加工機は、椛蜩激Xピニングにおいて製造販売を開始しております。また加工機導入の検討を目的とした部品の試作トライも受け付けます。


■ ビデオ ■

 開発したスピニング加工機による加工例をビデオで紹介いたします。

力制御スピニングによる楕円錘の成形
アルミ板(A1100-H)厚さ1.5mm
 ビデオ: (640×480, 3.2Mb) (320×240, 1.2Mb)


力制御スピニングによる偏心円錘の成形
鋼板(SPCC)厚さ1mm
 ビデオ: (640×480, 2.9Mb) (320×240, 0.9Mb)


同期スピニングによる楕円錘の成形
鋼板(SPCC)厚さ1.2mm
 ビデオ: (640×480, 7.6Mb) (320×240, 2Mb)


同期スピニングによる偏心円錘の成形
鋼板(SPCC)厚さ1.2mm
 ビデオ: (640×480, 7.6Mb) (320×240, 2Mb)


装置各部の動作

ビデオ: (640×480, 5.6Mb) (320×240, 1.8Mb)


教示再生機能

ビデオ: (640×480, 2.5Mb) (320×240, 0.9Mb)

力制御スピニングによる段付切欠円錘の成形
鋼板(SPCC)厚さ1mm
 ビデオ: (640×480, 7.7Mb) (320×240, 2.9Mb)


同期スピニングと力制御スピニングの併用による角錐台の成形
鋼板(SPCC)厚さ1mm
 ビデオ: (640×480, 5.7Mb) (320×240, 1.9Mb)


力制御スピニングによる長円錘の成形
鋼板(SPCC)厚さ1.2mm
 ビデオ: (640×480, 8.6Mb) (320×240, 2.1Mb)


同期スピニングによる偏心パイプの成形
ステンレス(SUS432)厚さ1.2mm
 ビデオ: (640×480, 8.6Mb) (320×240, 5.1Mb)


同期スピニングによる角筒形状の成形
鋼板(SPCC)厚さ1.6mm
 ビデオ: (640×480, 4.4Mb) (320×240, 1.7Mb)


JIMTOF 実演展示 2010年
ビデオ
MF-Tokyo 実演展示 2015年
ビデオ


スピニング加工の研究


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