ホームへ <English> 1. 粒子製法・評価ニーズと概要 2. 研究概要 3. 履歴書 4. 更新履歴

結晶性シリカと球状(アモルファス)シリカ(SiO2)、酸化亜鉛(ZnO)

本稿で扱う酸化物フィラーは、下記のように性能とコストのバランスが良く、また毒性などの問題点が比較的少ない。個別例の中でも、「汎用的フィラー」として位置付けられる1-11); 

  1. 熱伝導性は窒化アルミニウムなどより低レベルだが、その他に満たさなければならない粉体特性、特に粒子モルフォロジー特性の制御性が高く、その技術基盤が充実している(例えばシリカは高球形度で、粒子径分布の制御性が高い。酸化亜鉛はテトラポット状など特殊形態粒子が用意されている) 
  2. 経済性が比較的高い(例えば数万円/kg以上の窒化アルミニウムに対し、1000円以下〜1万円/kg程度である)12) 
  3. 毒性が低い(シリカは生体材料としての用途もあり、いわゆる亜鉛華(酸化亜鉛)は、低毒性の樹脂組成物フィラー(顔料など)として発展した)

本稿では熱伝導性フィラーの基本的な技術紹介として、「粒子の製法や特性評価法、サイズや表面性状などモルフォロジー制御法」の現状を中心に概説する。

1.結晶性シリカと球状(アモルファス)シリカ(SiO2)の概要 

シリカ(二酸化ケイ素)はSiO2化学式のシリコン酸化物の総称で、地殻の半分以上の組成を占め、結晶・非結晶質など種々の状態で採取・製造されている。本稿ではシリカの分類を概説した後、熱伝導性フィラーとしてのモルフォロジー特性を中心に述べる。なおシリカの諸性質についてはIlerらの総合的文献1, 2)、半導体封止材料・光ファイバー・ガラスフェルール・CMPスラリー・液晶用スペーサーなどの(粒子形態での)材料応用と、メーカー・生産統計・特許等の産業情報は、製本3-6)や学会誌の特集号7-9)が参考になる。 

シリカには種々の結晶構造(多形)があり、常温大気圧下は低温型石英が安定で、高温域でトリディマイトとクリストバライトが安定相で生成する。高圧域でコーサイト、スティショバイトが生成するが、天然では微量で、工業的には前記3多形が重要である9)。 

天然原料や精製した液体原料などから、膨大な機能性シリカが生産されている。本稿では「粒子形態のシリカ」という切り口で、特に代表的なシリカ製品の製法の相互関係を整理してみた。「沈降シリカ(液相法)はイオンクロマトのカラム材」とか、「溶融シリカ(気相法)は半導体封止材料」などの紋切り型の把握では現状を正しく認識できず、各製品が横断的に利用され、しかも各社・各用途で独自の利用を行っており、単純な理解では追いつかないことがわかる1-9)。 そこで半導体封止材料用フィラーを代表とする「熱膨張率のマッチング」をテストケースに取り上げ、熱伝導性フィラーとしての可能性を概説する(キーフレーズは、『「安価な増量剤(詰め粉)」から、「機能的な接着剤」に向けて』)。

2.半導体封止材料用シリカフィラーの概要 

現在利用されている半導体封止材料用フィラーを大別すると、次の4種になる6); 

  1. 破砕状の結晶性シリカフィラー(いわゆる結晶性フィラー) 
  2. 破砕状のアモルファスシリカフィラー(いわゆる破砕溶融フィラー) 
  3. 球状のアモルファスシリカフィラー(いわゆる球状溶融フィラー) 
  4. 液状封止用の球状のアモルファスシリカフィラー(いわゆる液状封止フィラー) 

本稿では、いまだに売上高の大部分を締めるLSIやコンデンサなどの個別部品(ディスクリート部材)の固形封止法ならびに、高集積化半導体や多層化素子用の液状封止法について、シリカフィラーの現状のモルフォロジー制御法を概説する。また次の3.では、粒子自身の製法や評価法として、研究現場などから先駆的な試みを若干紹介する。 

従来(現状でも、LSIやコンデンサなどの個別部品(ディスクリート部材)はそうだが)、半導体封止材料用シリカフィラーの主眼は「熱膨張率のマッチング」にあった。すなわちはんだ付けなどのため不可避の熱処理のさいに発生する欠陥(気孔;ボイドなど)を小さくし、しかもシリコン基板や酸化ケイ素保護膜との熱膨張率差を最小に抑えることができる『安価な増量剤(詰め粉)』である(いわゆるリフロー特性)。しかし「熱との戦い」と言われる近年の高集積化半導体や多層化素子では、高強度(剛性)、高靭性(高弾性率)、低吸湿性、伝熱効率の向上をも達成する『機能的な接着剤』としての役割がますます緊急の課題となってきている4-9)。 

まず既往の封止法(及びディスクリート部材の固形封止法)の重要な設計指針は、シリカフィラーとプラスチック粒子との複合体であり、常温大気圧下で錠剤状の半導体封止材料を加熱し、液体状にして射出成形を行うさいの見掛け粘度である。種々の粘性方程式が提案されているが、Mooney式が汎用的と思われる13)。すなわち、フィラー形状、充填率が重要であることがわかる。汎用的な解法は、フィラー球形度の向上、Horsfieldモデル14)を基にしたフィラー粒子径Rosin-Rammler分布(正規分布ではない点が現場で経験的に蓄積された技術らしいと思われる)の中心部の傾きを小さくする、などであった。 

近年の高集積化半導体や多層化素子では、封止が要求される間隙(ギャップ)が数ミクロン以下であることが多く、常温大気圧下で既に液体状の樹脂材料(エポキシ等)中にシリカフィラーを分散させた液状封止法が重要となる。この場合「粒子モルフォロジー特性の精密性」の高さや、樹脂との親和性の制御がより高レベルで求められる。シリカの火炎溶融法では、製造中の鞘(シース)状ガスの導入により、注入するギャップに対応した5〜20ミクロンの粗粉除去などの乾式分級や、沈降径の測定原理である水簸を応用した湿式分級、および双方の組み合わせなどが検討され、既に製品化されている15, 16)。また火炎溶融法で得られたシリカは一般に疎水性表面を有し、表面シラノール量が極端に少ない。このため樹脂との食込みによる成形強度が低い("バリ"とか、バリ止め特性と呼ばれる)。そこでシランカップリング剤による化学結合の活性点の付与が行われることが多い17)。

3.粒子モルフォロジー特性のブレイクスルーをめざす先駆的な試み 

しかし現状の液状封止法で検討されている方法は固形封止法のいわば焼き直しで、精密度を高めたものに過ぎないという見方もできる。研究現場や企業の開発現場では、いわば「攻めの制御」「攻めの評価」というべき独自の視点でブレイクスルーが試みられている。 

「攻めの制御」とは、例えば高熱伝導性フィラーや付加価値の相乗である。材質をシリカに限定してみても、高熱伝導性被膜の表面改質や、ケイ酸エステルのAerosol Decompositionによる内部構造の多孔化などが検討されている。また火炎溶融法による球状アルミナ粒子も、シリカプロセスの応用という見方もできよう18)。現状では焼結体用の微粒生産にウェイトが置かれ、粉砕操作などが必要で球形度の低い窒化アルミニウム粉体12)を、シリカの火炎溶融プロセスと同じ装置で製造し、球形度を改善した例が最近発表されている19, 20)。 

「攻めの評価」とは、例えば粒子モルフォロジー特性の新しいパラメーター提案と抽出である。封止間隙の精密制御の要求度が高まり、ミクロンレベルでの微細成分や粗大成分の添加・除去が必要となっている。分級などで制御はしたとしても、「仕込んだ微細成分と大粒子が実際にはどう混合されているかを知ること」に関して、現時点では十分な回答は与えられていない。光回折/散乱法と電気的検知帯法の相乗による粒子形状の評価(球状と板状の違いを検出)21)や、粒間に含まれる微細成分を除去して粒表面に付着した粒子量を検出する評価技術22)は、工業化(低コスト)を志向した既知情報の相乗による新規性開発の観点からも興味深い技術である。

4.酸化亜鉛(ZnO)の熱伝導性フィラーに関する概要 

熱伝導の視点からは、シリカは(結晶性シリカでも)数Wm-1K-1で、セラミックスの中でも低い部類に入る。この材料は、むしろ「粒子モルフォロジー特性の精密性」の高さや、製法や製品の豊富さを生かした幾何学的アプローチを優先した選択と位置付けられる。単に熱伝導の視点からは、窒化アルミニウムや炭化ケイ素などの高熱伝導性材料が望ましいが、非酸化物材料は非球状粒子である場合が多く、(特に、フィラーとして多く求められる平均粒子径が数〜数10ミクロンレベルで)粒子モルフォロジー特性が低かった。アルミナ18)や酸化亜鉛などは、そのトレードオフの選択と位置付けることが可能である。 

酸化亜鉛(一酸化亜鉛、ZnO化学式)はペロブスカイト化合物と並ぶ電子セラミックスの双璧であり、シリコン組成物の代表的な増量剤(目的;高熱伝導、硬化促進、耐熱性向上など)23)で、最近のトピックとしてはプリンター・サーマルヘッド用フィラーや半導体・ヒートシンク用フィラーとしての検討がある24)。本稿では酸化亜鉛の性質と製法を概説した後、熱伝導性フィラーとしての可能性について、モルフォロジー特性の観点から述べる。なお酸化亜鉛の諸性質や、バリスター原料、顔料(亜鉛華)、触媒、蛍光体、電子写真感光体(コピー機用感光ドラムなど)、ガスセンサーなどの(粒子形態での)材料応用と、メーカー・生産統計・特許等の産業情報は、学会誌の特集号10、 11)が参考になる。 

酸化亜鉛は天然に紅亜鉛鉱として算出するウルツ鉱型(六方晶系)構造を持ち、結合形式はイオン結合と共有結合の中間に位置する。 工業的製法は乾式法と湿式法(ドイツ法)があり、乾式法には更に間接法(フランス法)と直接法(アメリカ法)がある。乾式間接法は、溶融金属亜鉛(融点420oC、沸点907oC)を1000oC程度で加熱し亜鉛蒸気を作り、空気で酸化させてフィルター回収するという、金属亜鉛の高蒸気圧を利用した独特の方法で、国内生産の3/4を占める。乾式直接法は亜鉛鉱石にコークスなど還元剤を加え、煤焼で発生する亜鉛蒸気を空気で酸化させてフィルター回収する。日本ではせん亜鉛鉱(ZnS)から電気亜鉛を精錬する際に発生する鉱屑が利用され、国内生産の2割を占める。湿式法(ドイツ法)は硫酸亜鉛(または塩化亜鉛)水溶液にソーダ溶液を加えてできる沈殿を仮焼して作る。また水酸化亜鉛を仮焼して作る湿式法もある。 

さらに亜鉛には、製造条件によってc軸方向に選択的に成長した針状や、中心から4方向に枝が伸びたテトラポット状の単結晶が生成する性質があり、学術的な電気導電率制御のほか、成形物の異方性の緩和剤など、工業製品も販売されている25、 26)。 

酸化亜鉛の熱伝導性フィラーとしての独自性は、モルフォロジー特性の観点から拓けていく可能性がある。電導(伝熱)路(パーコレーション)の確保の観点から、燐片状銀(Ag)粒子を用いたAgペーストは、電気伝導性はもちろん熱伝導性向上としても有名であり27、 28)、研究現場でもアルミナ(alpfa-Al2O3)・ホウ化チタン(TiB2)・炭化ケイ素(SiC)・窒化ボロン(BN)の板状粒子フィラーの樹脂組成物の熱伝導性検討など29)、「伝熱路の直接接触によるパーコレーション確保」の魅力は健在である。もちろん、非球状フィラーは物性のばらつきが出やすいデメリットがあり(一方、球状はどの方向から圧力が掛かっても相対的に安定した充填が可能で、得られる特性の安定性につながる)、熱伝導シートの厚み方向に板状粒子を直立させて配向する30)など、成形方法の工夫が必須である。だがアルミナ18)と同様、「熱伝導性と粒子モルフォロジー特性のバランスの良さ」が、やはり酸化亜鉛の熱伝導性フィラーとしての発展のキーポイントになるものと考えられる。

文献 

1) R.K. Iler, The Chemistry of Silica, John Wiley & Sons Inc., 462-621(Silica gels & powders) (1979) 2) H.E. Bergna ed., The Colloid Chemistry of Silica, American Chemical Society, 165-286(Surface chemistry of silica) (1994) 3) (株)ティー・アイ・シー編、日本特許に見る新技術動向/高純度球状シリカ粉末、(株)ティー・アイ・シー、1-6(総説) (1993) 4) 加賀美敏郎・林瑛監修、高純度シリカの製造と応用、(株)シーエムシー、246-300(微粉末シリカ、IC封止用シリカフィラー) (1999) 5) 相馬勲編、機能性フィラ―の開発技術、(株)シーエムシー、188-195(封止材用フィラ―) (2000) 6) 長坂英昭、半導体封止材料の開発と信頼性技術、(株)技術情報協会、255-264(第4章溶融シリカフィラーの粒径制御と技術動向) (2001) 7) セラミックス協会編、セラミックス、20、266-307(シリカ特集号) (1985) 8) セラミックス協会編、セラミックス、33、25-42(シリカ特集号) (1998) 9) 日本エアロゾル学会編、エアロゾル研究、16、269-288(シリカ特集号) (2001) 10) セラミックス協会編、セラミックス、18、917-969(酸化亜鉛特集号) (1983) 11) (株)シーエムシー編、マテリアルインテグレーション、12、No.12/1-64(酸化亜鉛特集号) (1999) 12) セラミックス協会編、セラミックス、36、234-284(セラミックス原料の値段特集号) (2001) 13) M. Ogata et al., J. Appl. Polymer Sci., 48, 583-601 (1993). 14) 粉体工学会編、粉体工学の基礎、日刊工業新聞社、145-156(充填技術) (1992) 15) C. H. Hung and J. L. Katz, J. Mater. Res. 7, 1861-1869 (1992). 16) 岩佐光芳他、特開平H10-95607(電気化学工業)⇒http://www.denka.co.jp/product/index.htm参照 17) Y. Takao, et al., The Transactions of The Institute of Electrical Engineers of Japan, 121-A, 1019-1024 (2001). 18) 吉田昭夫他、特開2001-226117 (電気化学工業株式会社) 19) 高尾泰正、化学炎プロセスの新たな可能性、AIST Today(産業技術総合研究所広報誌)、1、15 (2001) ⇒http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_09/vol01_9_main.html参照 20) Y. Takao et al., J. Chem. Eng. Japan、34、828-833 (2001) 21) 楊逸明他、塗装技術、No.7, 83-87 (1992). 22) Y. Takao et al.、Advanced Powder Technol.、12、17-31 (2001) 23) 沖乃島弘茂他、特開2000-86898 (信越化学工業株式会社) 24) 中村才恵樹他、特開H11-245246 (京セラ株式会社) 25) Suyama et al., J. Am. Ceram. Soc., 71, 391-395 (1988) 26) http://www.mie.panasonic.co.jp/amtec/amtec_a.html参照 27) 窪田規、電子材料(導電性接着剤特集)、No.7、89-96 (2001) 28) http://www.mtc.pref.kyoto.jp/ce_press/no961/kenkyu2.htm参照 29) R.F. Hill et al., J. Am. Ceram. Soc., 85, 851-857 (2002) 30) 山崎好直他、特開2002-164481 (住友スリーエム株式会社)

Copyright (C) 2002  [Yasumasa TAKAO] All rights reserved.