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【半導体封止材料の流動特性に及ぼすフィラー表面の粒子複合構造の影響】

○高尾泰正(産総研)、神谷秀博(東京農工大)、内藤牧男(JFCC)、山東睦夫(産総研)

1.は じ め に

世界的規模で進むIT革命を進展させるため、次世代携帯情報端末の小型・軽量・薄型化の向上が鍵となる。日本基幹産業である半導体産業における国際的技術競争力を高めるには、一層の小型化を実現可能とするシステム・イン・パッケージなど高密度実装技術開発が極めて重要となる(図1)。其処では要素技術である設計資産開発、莫大なデータ処理が可能なCAD、廉価で高信頼性の検証技術と共に、微細なプロセス成形・加工技術の確立が必須で、以下の粉体技術が重要な役割を担う(1)。 半導体はシリコンインゴットからウェーハを作製、フォトレジストリソグラフィと化学的機械研磨(CMP)により素子作製・配線接続・絶縁層形成を行う。現行工程では、ウェーハを切り分けチップとし、ICチップとリードフレームを金線接続、そして半導体集積回路を衝撃や湿気から保護・放熱性向上・電気的絶縁を図るため、非晶質球状SiO2フィラー粉体(通常70-90質量%)と樹脂分散媒から成る複合材料で被覆・成形・固化する方法が用いられる(半導体封止、Packaging)。素子微細化の潮流下、封止材料を流すべき間隔が狭まり、一層の低粘性等を要求される(液状封止材料)。素子自体が微細化しても部品数は増加し、発熱量増大が一層深刻になり高放熱性が重要となる。SiO2やAlNは樹脂より熱伝導性が高く、高充填化は一つの解決策を与える(2)。即ち高熱伝導性、低熱膨張性、高い成形性(低粘性、低チクソトロピー性、高い粘性安定性)が要求特性で、SiO2等の無機粒子を可能な限り高充填し、同時に低粘性に留めるという相反する材料設計が重要である(3, 4)。 従来のSiO2フィラーは平均粒子径・数10ミクロン程度で製造され、複数の粒子径分布を持つ多成分粉体系充填問題と捉えHosfield Modelなど最適分布提案等が行われてきた。だが新材料系でフィラー径が微細化し、設計指針や特性評価法自体も再構築されている状況下、旧来指針の限界が指摘されている。本研究では新指標として、現行SiO2フィラーが天然硅石原料の溶射技術を発展させた化学炎法(可燃性ガス-酸素系)で製造され、微細成分(サブミクロン〜100nm以下)が含まれる点に着目した。従来これは混錬後に均一分散すると考え無視されることが多かったようだが、微小間隔への封止ニーズが高まり、フィラーサイズが微細化した結果、その分布が顕著な影響を及ぼす事が判った。微細成分フィラーは母粒子フィラー間並びに粒子表面双方に分布しており(図2)、これを考慮した粒子径分布評価を含め、流動特性との相関化が設計指標として注目される。しかし液状媒質の不定形母組織を持つ材料系は有効な内部構造観察法すら確立されていないような状況で、粒子複合構造を制御因子として検討した研究例は見当らない。 そこで検討の端緒としてSiO2フィラー表面の微細成分のみが異なる試料(粒子径分布など他の一次的特性は同一)を調製し、封止材料中のフィラー凝集(充填構造)を偏光観察法で検出し(5)、流動特性に及ぼすフィラー表面の粒子複合構造の封止材料・制御指標としての有効性を調べた(6, 7)。

2.実 験 方 法

詳細は印刷中の英文誌に譲る(6)。先ずは検討の端緒として、微細成分フィラーの指標としての有効性を確認するため、市場で大半を占める固形タイプ封止材料で代表的な粗粒SiO2フィラーを試料として用いた(図3、D50=13ミクロン)。緒言で述べたようにサブミクロン〜100nm以下の微細粒子が、それより大きな粒子表面に多数付着している(粒子間にも存在)。SiO2フィラーは円形度向上のため、火炎条件(燃料-酸化剤比、炎温度、流量等)や前駆体組成が調整されるが(8, 9)、観察の結果フィラー表面の微細成分量にも影響を及ぼす事がわかった(6)。これを利用し、湿式分級で「フィラー間の」微細成分のみを取り除き、「フィラー表面の」微細成分量のみ異なる原料を調製した(粒子径分布などは同じ)。原料をエポキシ樹脂に70mass%で混錬、封止材料のモデル試料を作製した。評価はX線沈降式粒子径分布、BET3点法比表面積、粉末拡散反射FT-IR、ニ軸回転円筒式粘度測定を行った。またセラミックス分野で用いられた偏光光学観察法を、粒子-樹脂分散系へ応用することで封止材料中のフィラー充填構造を検出する事を試み(5)、フィラー〜内部構造〜流動特性の相関化を検討した(図4)。

3.実 験 結 果

SiO2フィラープロセスで一般的に用いられる球形化処理は、フィラー表面の微細成分分布(数100nm程度の粒子)にも影響を及ぼし、出発粉体に比べて少なくなる事が判った。出発粉体(図3)のフィラー間の微細成分除去後の状態が図5-(a)、出発粉体(図3)球形化処理後の試料の其れが図5-(b)である。但し両者の粉体全体としての粒子径分布は変わらないように調製した。出発粉体の場合、数100nmの微細成分フィラーが多層に表面付着した構造を形成しているが、球形化処理試料は相対的に其れが少なく、フィラー地肌が露出している部分すら見られた。 出発粉体(Intact Powder)、出発粉体のフィラー間微細成分除去後試料(Stratified)、球形化処理試料のフィラー間微細成分除去後(Interspersed)の粘性曲線を比較した(図6)。Interspersed粘性値は他より上昇し、300-1以上はトルクリミットで測定できないほどであった。だがStratifiedでは、フィラー間微細成分が除去され、既往の封止材料設計指針では大幅に粘性上昇すべきであるにも関わらず、100-1以下を除きあまり増加しなかった。

図4の光学系で試料を観察した。数10ミクロンの楕円状構造体がシリカフィラーや其の凝集体と考えられる。透過写真では3種とも同様に充填されているように見られるが、Intact Powder→Stratified→Interspersedに従って、偏光系で試料45°回転ごとに明暗変化を繰り返す(光学的異方性)輝点の総量が増加し、特にInterspersedでは数ミクロン程度の輝点量が多かった。輝点は鋭敏板を併用したリターデーション観察で、相加条件にある楕円長軸方向が、鋭敏板の低速度方向と合致した事から、正の伸張の光学性を持つ事が判った(6)。

4.考 察 

既往の材料設計的には、粒子径分布で違いの無いStratifiedとInterspersedで粘性差が生じ、更に表面微粒子量が少なく粉体比表面積の小さなInterspersedの方がStratifiedより高粘性である事は説明できない(低面積の方が粒子表面に供給される溶媒量が相対的に増え、見かけ粒子充填濃度が減少するため)。実用プロセスで使用されている工業用フィラーは、多用な粒子径成分、複雑な表面構造と形状を有し、総花的な粉体一次特性(粒子径分布と表面積など)「だけ」では、流動特性を正確に把握する事は難しいかもしれない。 粒子-樹脂分散系の流動特性を説明する考え方の一つに、材料中に充填されたフィラー凝集体の増減(Shear-thinning to Effective Volume Fraction of Silica Flocculation)の理論的検討がある(10, 11)。これと、偏光観察で検出された光学的異方性をフィラー凝集体と考え、フィラー表面の粒子複合構造を鑑み、本実験の流動特性に一定の理解を与える事が出来る。図6の模式図に示したように、混錬後の封止材料中でフィラ-が完全に一次粒子状態で分布する事は難しく、一定量の凝集体を形成していると推定される。この「不均一部分」には、気泡や、溶媒たる樹脂などが存在すると考えられる。剪断が印加されると、凝集構造が壊され、内部の樹脂が封止材料全体へ分布、流動に寄与するようになる。そのため相対的な粒子充填濃度が低下し、粘性が下がる。そして初期充填構造が回復するには時間が必要なので、ヒステリシスが生じる。即ち初期凝集構造体が多いほど粘性値は相対的に大きい事が予想される。図7の封止材料・内部構造を見ると、凝集体=光学的異方性はIntact Powder→Stratified→Interspersedの順に増加し、図6の100-1以下の低剪断領域の流動特性と傾向的には合致している。「低剪断領域」流動特性と相関化される点は、初期充填構造の関与を示唆している。Stratified〜Interspersed間の差を考察すると、Stratified試料のフィラー表面に残存していた微細成分フィラーが、混錬時に封止材料中に適度に分散して凝集形成を防止した効果が推察される。特にInterspersedでは数ミクロン程度の輝点量が多く、関連研究(5, 7)の高粘性試料では数10ミクロン程度の輝点量が多く観察された事を鑑みると、微細成分フィラーの関与が強く示唆される。 以上のように、フィラー粉体一次特性から流動特性までをリンクさせて理解するため、試料内部構造を直接画像化する偏光観察手法は一つの方法である。この方面での次の課題は光学的異方性の原因である。セラミックス試料に関する報告では、伸張形状を有するアルミナ結晶粒と内部気孔界面を偏光の起点と考察している(12)。材料種の違いに基づく屈折率差と、異方形状に基づく伸張の光学性が理由である。封止材料で用いられるシリカは必ずしも完全球形であるわけではなく、中には扁平状なものも存在する(図3、5)。これと樹脂又は、混錬過程で含まれる事が想定される内包気泡との界面屈折率差は、一因として挙げられる。別の可能性として、液晶パネル(LCD)の基本原理であるナノメーターオーダーの高分子の配列部分が偏光の起点となる複屈折現象(光弾性効果)(13)を、本系の場合考慮する必要があろう。LCDの場合、印加電圧などで樹脂分子配列を変更し、透過光線を制御している。粒子充填系の場合、フィラーが局所的に凝集形成した部分で、周囲樹脂に及ぼす内部応力が相対的に大きくなり、偏光が大きくなる事が推察される。本系の光学的異方性は、正の伸張の光学性を有し、樹脂の再配列の可能性を強く示唆しているが、今後の課題である。

5.結 論 

シリカフィラー表面の微細成分のみが異なる試料(粒子径分布など他の一次的特性は同一)を調製した。フィラー凝集(充填構造)と流動性を調べたところ、フィラー表面の微細成分量が多いものほど樹脂中での凝集が少なく流動性が良好で、封止材料の設計指標としての可能性が示唆された。このフィラー表面粒子複合構造という新指標は、微細間隔への封止が必要な液状封止材料で特に重要で、封止材料中のフィラー凝集(充填構造)との定量化などが課題である。

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