ホームへ <English> 1. 粒子製法・評価ニーズと概要 2. 研究概要 3. 履歴書 4. 更新履歴
液状媒質の不定形母組織を持つこの材料系は、有効な内部構造観察法すら確立されておらず、上記の粉体特性の経験的検討と、レオロジー理論のリンクが必要である。無機粒子特性とレオロジー特性の相関化など、研究整備を進める事は無機材料と有機材料の両分野に跨るニッチ(niche)的な学問分野として、学術的にも発信すべき課題である。
従来にも東大Gr.や、Dexter社により、成形性の評価指標の一つとして、封止工程の直接観察の試みが行われていた。しかしDie形状化したさいの、気泡巻き込みの有無の確認など初歩的状況に留まっており、定量化による評価指標としての積極的利用や、充填されたフィラー状態を直接表現するレベルではなかったと思われる。
無機粒子-ポリマー複合材料は、上記のように無機粒子フィラーとレオロジー特性の関係が極めて重要で、粉体特性と粘性との相関化研究や、材料中に充填されたフィラー有効体積の増減(Shear-thinning to Effective Volume Fraction of Silica Flocculation)等の理論的検討が行われている。しかし液状媒質の不定形母組織を持つ材料系の、有効な内部構造観察法が確立されておらず、上記の経験的検討と理論とをリンクする方法が必要であった。
偏光光学系でポリマー材料を観察した場合に、ナノメーターオーダーの高分子の配列部分が偏光の起点となる複屈折現象(光弾性効果)は、液晶パネル(LCD)の基本原理である。
これを無機粒子-ポリマー複合材料に適用した場合、フィラーが局所的に凝集を形成した部分などで相対的に偏光が大きくなることを初めて見出した。
フィラー粉体一次特性から流動特性までをリンクさせて理解するため、試料内部構造を直接画像化する偏光観察手法は一つの方法である。この方面での次の課題は光学的異方性の原因である。セラミックス試料に関する報告では、伸張形状を有するアルミナ結晶粒と内部気孔界面を偏光の起点と考察している。材料種の違いに基づく屈折率差と、異方形状に基づく伸張の光学性が理由である。封止材料で用いられるシリカは必ずしも完全球形であるわけではなく、中には扁平状なものも存在する(図3、5)。これと樹脂又は、混錬過程で含まれる事が想定される内包気泡との界面屈折率差は、一因として挙げられる。別の可能性として、液晶パネル(LCD)の基本原理であるナノメーターオーダーの高分子の配列部分が偏光の起点となる複屈折現象(光弾性効果)を、本系の場合考慮する必要があろう。LCDの場合、印加電圧などで樹脂分子配列を変更し、透過光線を制御している。粒子充填系の場合、フィラーが局所的に凝集形成した部分で、周囲樹脂に及ぼす内部応力が相対的に大きくなり、偏光が大きくなる事が推察される。本系の光学的異方性は、正の光学的異方性を有し、樹脂の再配列の可能性を強く示唆しているが、今後の課題である。
そしてこの偏光観察法と、フィラー粉体の比表面積・粒子径分布や表面シラノール構造など一次特性、さらに無機粒子-ポリマー複合材料のレオロジー特性(粘性系数、チクソトロピー性)が、良い相関性を示すことが明らかとなった。
例えば或る粘性曲線では、平均粒子径が中位径のフィラー系が最小粘性を示すことがある。従来の知見では、平均粒子径が大きいほど低粘性化に有利とされており、このことからだけでも、一種類の粉体特性のみによるレオロジー特性理解が難しい事が判る。一方、偏光観察法により各フィラー系に含まれるフィラー有効体積を可視化して調べた結果、偏光量と粘性系数とが良い一致を示すことがわかった。すなわち無機粒子-ポリマー複合材料中の複屈折を、新たなレオロジー特性の指標として用いる事が可能となる。この方法はSEM等と違い、研磨や真空設備が不要で、非接触で内部構造を同定できる可能性があり、半導体パッケージング材料などの工程管理技術としても注目されている。
さらに、無機粒子-ポリマー複合材料の複屈折を利用した内部構造可視化技術により、レオロジー特性に影響を与える無機粒子フィラーの新たな一次特性(制御因子)として、一個のフィラー粒子表面上に局所的に付着したサブミクロンオーダー微粒子(フィラー表面の幾何学的な複合構造)の影響が示唆された。また形状異方性の大きいAlN粉体では、球状SiO2で構築されたレオロジー特性制御手法が必ずしも有効ではなく、例えばSiO2フィラーで一般的な界面活性剤による表面修飾などが低粘性化に寄与しない場合がある。そのような場合に、上記のフィラー表面の幾何学的な複合構造の改質による粘性調製を検討した結果、低粘性化に有効であることがわかった。