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【フィラ―研究の必要性; 半導体封止材料(コンパウンド)を例題として】

 1.高密度半導体集積回路 

現在、世界的な規模で進むIT(情報技術)革命を進展させるために、次世代の携帯電話やモバイルPCを含む携帯情報端末の小型・軽量・薄型化の向上が一つのキーポイントとなっている。我が国の基幹産業である半導体産業において今後高い成長が予想される携帯情報端末市場の国際的な技術競争力を高めるためには、さらなる小型・軽量・薄型化を実現可能とする高密度実装技術の開発が極めて重要である。

高密度実装技術としてはフリップ・チップ実装(又はチップ・サイズ・パッケージCSP)、マルチ・チップ・モジュール(又はシステムLSI、システム・イン・パッケージ)や積層基板など、種々の技術開発競争が激しく行われている。システム・イン・パッケージとは、動作検証済みの設計資産(Intellectual PropertyまたはKnown Good Die、抵抗器や容量素子、電気フィルターやセンサーなど)を組み合わせて大規模な機能システムを1チップ上に形成した半導体集積回路である。高集積化、高速化、多機能化などの高付加価値半導体集積回路である点で、既成の半導体製品とは異なる新たな市場を創出する製品として期待を担っている。一方、其れを成立させるためには、市場となるアプリケーション分野の見極め、要素技術であるシステム実現に不可欠な設計資産の開発、莫大なデータ処理が可能なCAD(Computer Aided Design)、微細なプロセス成形加工技術、廉価で信頼性の高い検証技術等の確立などが必要となる。

2.半導体封止(パッケージング)技術 

実は“微細なプロセス成形加工技術”分野で、粉体技術が重要な役割を担っている。半導体はシリコンインゴットをスライスして円板状ウェーハとし、其処へフォトレジストリソグラフィと化学的機械研磨(CMP)により半導体素子作製、配線接続、絶縁層形成を行う。現行工程では次にウェーハを切り分けて個々のチップとし、ICチップとリードフレームの電極を金線で高速接続する。この状態で電気的には動作可能だが、通常は半導体集積回路を衝撃や湿気から保護し、放熱性向上、電気的絶縁等を図る必要がある。そこで主に非晶質球状シリカフィラー粉体から成り(通常70-90質量%)、分散媒にエポキシ系など樹脂系材料を用いた複合材料で覆い、溶液状態で成形し、固化する方法が用いられる(半導体封止Packaging “固形封止材と液状封止材の概要”)。

3.シリカ(SiO2)フィラーの高充填封止の必要性

素子微細化の潮流下、封止材料を流すべき間隔が狭まってきており、一層の低粘性を要求されている(液状封止材)。素子が微細化しても部品数はむしろ増えており、単位体積あたりの発熱量増大が一層深刻になり、そのため革新的な高放熱性が必要となる。シリカは樹脂より熱伝導性が高く、高充填化は一つの解決策を与える。また環境負荷低減のため、非Pb系半田による実装が求められているが代替製品のSn-Ag系などは溶融温度が高く、従来の樹脂や封止材料ではパッケージ信頼性が劣化する(耐半田リフロー特性)。この場合も高充填化は一つの解決策である。

4.SiO2フィラー特性の明確化、新規封止技術の必要性

即ち半導体封止材料は、高熱伝導性、低熱膨張性、高い成形性(低粘性、低チクソトロピー性、高い粘性安定性)が必要である。そこではSiO2等の無機粒子を可能な限り高充填し、同時に低粘性に留めるという、相反する材料設計が求められる。

従来のSiO2フィラーは平均粒子径数10ミクロン程度で製造されていた。そこでは例えば、複数の粒子径分布を持つ多成分粉体系の充填問題と捉え、最適粒子径分布などが提案されてきた。しかし上記のような新材料系では、それらは必ずしも合致せず、新たな設計指標などが要望されてきた。

弊所でも検討中の新指標例として、現行のSiO2フィラーは天然硅石を原料とする溶射技術を発展させた化学炎法(可燃性ガス-酸素系)で製造されており、サブミクロンの微細成分が含まれる事が挙げられる。従来は混錬後に分散するとして無視されることが多かったようだが、微小間隔への封止ニーズが高まり、用いるフィラーサイズも微細化した場合、顕著な影響を示す事がある。またSiO2フィラーは気相中で合成(エアロゾルプロセス)されるので一般的に球状となるが、必ずしも真球ではなく、円形度も問題にすべきと思われる。

製造プロセス上の評価技術の問題として、粉体特性測定法もある。現場では簡便性から、光散乱回折径を採用する事が多かったが、上記のように微細成分が多くなると問題もある。円形度の効率的な評価法も未だ普及してはいない。

また液状媒質の不定形母組織を持つ材料系は、有効な内部構造観察法すら確立されておらず、上記の粉体特性の経験的検討と、レオロジー理論のリンクが必要である。無機粒子特性とレオロジー特性の相関化など、研究整備を進める事は無機材料と有機材料の両分野に跨るニッチ(niche)的な学問分野として、学術的にも発信すべき課題である。

5.高熱伝導性フィラー開発の必要性

ハイパワーデバイスなどでは放熱性が特に問題となり、放熱フィンや放熱板の使用、リードフレームや樹脂材料の高熱伝導化が行われているが、封止材料中大部分を占めるフィラー材料の変更が、寄与度が大きい。そこでSiO2と並び球状粉体の技術基盤の充実しているAl2O3や、BN等が検討されている。

AlNは高熱伝導性などを利用して、代替の回路基板として応用が進められているが、フィラー応用が確立できれば、その高熱伝導性と、Si基板との小熱膨張率差より革新的な特性向上を達成する可能性がある(AlN, metal Si, Al2O3 and SiO2; 300, 90, 20 and 2 Wm-1K-1 at 400K/ thermal expansion coefficient of AlN is close to that of Si substrate, 5×10-6 K-1)。

しかしAlN粉体の工業的製法である直接窒化法と還元窒化法は、焼結体原料として開発が行われており、フィラー粉体に必要な10数μmの粒子径、幅広い粒子径分布、高い球形度を必ずしも満足していなかった。一方SiO2フィラーは天然硅石原料の化学炎法(可燃性ガス-酸素系)で製造されており、AlN粉の化学炎合成が可能となれば、上記のフィラー粉体特性の達成、SiO2系の知的資産や製造設備の利用、生産性、熱伝導性に特長を有した新規フィラー供給方法を提供するものと期待される。しかし従来は、非酸化物で融点の無いAlN粉体の、酸素雰囲気中の火炎法合成は、報告されていなかったものと考えられる。⇒<参照; 『窒化アルミニウムフィラーの球状化プロセス 、何故「球状」で「Filler-size」AlN粉体が必要なのか?』>

6.上記研究が行われた場合の副産物(無機物粒子とポリマの分散系材料)

電子材料関連技術の中で、実は無機粒子をポリマーに分散させた複合材料は、半導体集積回路の中ではほかに内部電極材料、また変電所の電気的絶縁・気密性保持用のパッキン材料、電気粘性流体、化学的機械研磨(CMP)用の研磨剤まで、非常に幅広く使用される重要材料系である。封止材料特性向上のための新規評価指標や、高熱伝導な新規フィラーが開発できれば、それらにも有益であると思われる。

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