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【粒子モルフォロジー特性の評価研究の必要性〜半導体封止材料(コンパウンド)を例題として】

〜 粒子間に分布した粒子量や、粒子表面に付着した粒子量の重要性 「封止技術分野の新規評価指標の提案」 〜

1.はじめに 

従来のシリカフィラーは平均粒子径数10ミクロン程度で製造されていた。そこでは例えば、複数の粒子径分布を持つ多成分粉体系の充填問題と捉え、最適粒子径分布などが提案されてきた。しかし上記のような新材料系では、それらは必ずしも合致せず、新たな設計指標などが要望されてきた。

製造プロセス上の評価技術の問題として、粉体特性測定法もある。現場では簡便性から、光散乱回折径を採用する事が多かったが、上記のように微細成分が多くなると、問題があるのは周知の事実である。また充填で問題になると想定される円形度の効率的な評価法も未だ十分には普及していない。

一方、2種以上の成分が分離して複合構造を持った粒子として、核となる粒子(以下母粒子と略す)の内部にそれより小さな第2成分の粒子(以下子粒子と略す)が粒子の状態で分布した相分散型複合粒子、母粒子表面に子粒子が粒子の状態で付着したり子粒子成分が膜状の被覆層となって母粒子を覆った被覆型複合粒子など、所謂“粒子複合構造”は、ガスセンサーや触媒、トナー、焼結助剤の添加法など、セラミック分野で特性向上を図る際の代表的な制御因子であった。相乗的機能向上、機能発現制御または機能低下抑制、均一混合・分散性向上などが検討されている。⇒<参照; 『セラミック分野の粒子複合化構造例と、其れに基づく特性向上の検討例』>

半導体封止材料に用いられるシリカフィラーでも粒子複合構造が重要な制御因子となり得る。現行シリカフィラーは天然硅石を原料とする溶射技術を発展させた化学炎法(可燃性ガス-酸素系)で製造され、サブミクロンの微細成分が含まれる。従来は混錬後に分散するとして無視されることが多かったようだが、微小間隔への封止ニーズが高まり、用いるフィラーサイズも微細化した結果、これらが顕著な影響を示す事がある。微細成分フィラーは母粒子フィラー間並びに粒子表面双方に分布しており、これを考慮した粒子径分布評価を含め、流動特性との相関化が新たな評価指標として注目される。しかし液状媒質の不定形母組織を持つ材料系は有効な内部構造観察法すら確立されていないような状況で、粒子複合構造を制御因子として検討した研究例は見当らない。⇒<参照; 『微細成分フィラーの分布状態の概念図(母粒子表面または母粒子間)』>

2.既往の封止材料検討方法の限界

微細成分フィラーの指標としての有効性を確認するため、市場で大半を占める固形タイプ封止材料で代表的な粗粒シリカフィラーを試料として用いた(D50=13ミクロン)。緒言で述べたようにサブミクロン〜100nm以下の微細粒子が、それより大きな粒子表面に多数付着している(粒子間にも存在)。シリカフィラーは円形度向上のため、火炎条件(燃料-酸化剤比、炎温度、流量等)や前駆体組成が調整されるが、観察の結果フィラー表面の微細成分量にも影響を及ぼす事がわかった。これを利用し、湿式分級で「フィラー間の」微細成分のみを取り除き、「フィラー表面の」微細成分量のみ異なる原料を調製した(粒子径分布などは同じ)。原料をエポキシ樹脂に70mass%で混錬、封止材料のモデル試料を作製した。またセラミックス分野で用いられた偏光光学観察法を、粒子-樹脂分散系へ応用することで封止材料中のフィラー充填構造を検出する事を試み(5)、フィラー〜内部構造〜流動特性の相関化を検討した。

シリカフィラープロセスで一般的に用いられる球形化処理は、フィラー表面の微細成分分布(数100nm程度の粒子)にも影響を及ぼし、出発粉体に比べて少なくなる事が判った。出発粉体(図3)のフィラー間の微細成分除去後の状態が図5-(a)、出発粉体(図3)球形化処理後の試料の其れが図5-(b)である。但し両者の粉体全体としての粒子径分布は変わらないように調製した。出発粉体の場合、数100nmの微細成分フィラーが多層に表面付着した構造を形成しているが、球形化処理試料は相対的に其れが少なく、フィラー地肌が露出している部分すら見られた。

出発粉体(Intact Powder)、出発粉体のフィラー間微細成分除去後試料(Stratified)、球形化処理試料のフィラー間微細成分除去後(Interspersed)の粘性曲線を比較した(図6)。Interspersed粘性値は他より上昇し、300-1以上はトルクリミットで測定できないほどであった。だがStratifiedでは、フィラー間微細成分が除去され、既往の封止材料設計指針では大幅に粘性上昇すべきであるにも関わらず、100-1以下を除きあまり増加しなかった。

既往の材料設計的には、粒子径分布で違いの無いStratifiedとInterspersedで粘性差が生じ、更に表面微粒子量が少なく粉体比表面積の小さなInterspersedの方がStratifiedより高粘性である事は説明できない(低面積の方が粒子表面に供給される溶媒量が相対的に増え、見かけ粒子充填濃度が減少するため)。実用プロセスで使用されている工業用フィラーは、多用な粒子径成分、複雑な表面構造と形状を有し、総花的な粉体一次特性(粒子径分布と表面積など)「だけ」では、流動特性を正確に把握する事は難しいかもしれない。

3.新規評価法の1例(開発済み技術、複数あり)

粒子-樹脂分散系の流動特性を説明する考え方の一つに、材料中に充填されたフィラー凝集体の増減(Shear-thinning to Effective Volume Fraction of Silica Flocculation)の理論的検討がある(10, 11)。これと、偏光観察で検出された光学的異方性をフィラー凝集体と考え、フィラー表面の粒子複合構造を鑑み、本実験の流動特性に一定の理解を与える事が出来る。図6の模式図に示したように、混錬後の封止材料中でフィラ-が完全に一次粒子状態で分布する事は難しく、一定量の凝集体を形成していると推定される。この「不均一部分」には、気泡や、溶媒たる樹脂などが存在すると考えられる。剪断が印加されると、凝集構造が壊され、内部の樹脂が封止材料全体へ分布、流動に寄与するようになる。そのため相対的な粒子充填濃度が低下し、粘性が下がる。そして初期充填構造が回復するには時間が必要なので、ヒステリシスが生じる。即ち初期凝集構造体が多いほど粘性値は相対的に大きい事が予想される。図7の封止材料・内部構造を見ると、凝集体=光学的異方性は、

  「 Intact Powder→Stratified→Interspersed 」

の順に増加し、図6の100-1以下の低剪断領域の流動特性と傾向的には合致している。「低剪断領域」流動特性と相関化される点は、初期充填構造の関与を示唆している。Stratified〜Interspersed間の差を考察すると、Stratified試料のフィラー表面に残存していた微細成分フィラーが、混錬時に封止材料中に適度に分散して凝集形成を防止した効果が推察される。特にInterspersedでは数ミクロン程度の輝点量が多く、関連研究(5, 7)の高粘性試料では数10ミクロン程度の輝点量が多く観察された事を鑑みると、微細成分フィラーの関与が強く示唆される。⇒<参照; 『微細成分フィラーの封止材料指標の有効性を確認する実験結果』>

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