ホームへ <English> 1. 粒子製法・評価ニーズと概要 2. 研究概要 3. 履歴書 4. 更新履歴
フィラーとは強度や機能性向上、コスト低減のためプラスチックス(樹脂)やゴム、塗料などに添加される粒子や粉状の物質としてアメリカ材料試験協会規格に定義されている1-3)。その中でも熱伝導性フィラーは、(詳細は第1章に譲るが)半導体やプリンターサーマルヘッドなどの高集積化と発熱問題を、伝熱路(パーコレーション)の確保と樹脂の高成形性で同時に解決する方法として重要な技術となっている3-7)。その検討方法を熱伝導性に焦点を絞り過去の特許・学術論文、学会誌の特集号から鳥瞰すると、(1)粒子そのもの、(2)プラスチックスと混合した状態、(3)特性の評価法の3つに大別できる。熱伝導率は物質固有の物理量ではなく、試料形態に左右され6)、フィラーとプラスチックスの複合体の値はBruggeman式8)などが提案されている。熱伝導性フィラーの作動原理は「伝熱路(パーコレーション)の確保」にあり、理論式から導かれる設計指針を整理すると次のようになる;
本稿では熱伝導性フィラーの基本的な技術紹介として、製本1-3)や学会誌の特集号4-6)から技術動向を抽出し、上記設計指針を満たすために最も多く利用されている「粒子の製法や特性評価法、サイズや表面性状などのモルフォロジー制御法」を中心に概説する。
まずフィラー熱伝導率を決める「材質」としては、以下の諸条件を同時に満たす必要があり、フィラーとして利用できる選択肢はそれほど多くない(但し、成形体や焼結体の値を掲載);
2番目にフィラーの体積分率を決める代表的な「指標」としては、以下1.〜4.の設計指針が用いられることが多い;
注意すべきことは、粉体特性は互いに影響を及ぼしあっているため、取り扱いが複雑であることである。そのため、検討時間の限られた製造現場で十分に考慮するのが難しく、 「粒子径分布の分布幅を広くする」 「球形粒子の割合を大きくする」 「粒子と樹脂の混合中に表面改質液を噴霧する程度のマイナーチェンジ」 など、画一化された方法で、各社とも鎬を削っている現状を生み出しているものと思われる。
経済性を無視してフィラーを扱うことはできないが、マイナーチェンジでは見込める成果に限界がある。研究現場や企業の開発現場では、いわば「攻めの制御」「攻めの評価」というべき独自の視点でブレイクスルーが試みられている。製本1-3)や学会誌の特集号4-6)から技術動向を抽出し、粒子自身の製法や評価法に関する先駆的な試みを若干紹介する(但し図中に挙げた例は、半導体封止材料用シリカフィラーを例題として引用した)。
その結果、粒子モルフォロジー特性の制御性の精密度を上げる検討の多いことが明らかとなった。まず粒子径分布、平均径、比表面積、形状などの粒子モルフォロジー特性は、製造現場では混用されていることが多いようである。例えば半導体封止材料の場合、分布幅の広いシリカ粒子の全範囲を評価するニーズから、光回折/散乱相当径11, 12)を用いることが多い。だが光回折/散乱相当径には、分散媒中の試料全ての情報が含まれ、(本当は多くの構成要素から成っている)モルフォロジー特性を分離し難い。このため粒子メーカーは、原料を各種配合することで制御性を補償しているが本質的な解ではなく「仕込んだ微細成分と大粒子が実際にはどう混合されているかを知ること」が長年の課題となっていた。 そこで先駆的な「攻めの制御」として、例えば次のような課題が検討されている;
粒子モルフォロジー特性の精密性を高めるための製法では、火炎条件や分級などの単位操作の精密度を高め、粒子径(および形)分布や、リードエラーの原因となるアルファ線の低制御性を改善している15)。また現状では焼結体用の微粒生産にウェイトが置かれ、粉砕操作などが必要で球形度の制御性が低い窒化アルミニウム粉体16)を、シリカの火炎溶融プロセスと同じ装置で製造し、球形度を改善した例が最近発表された7, 17)。また粒子表面に付着した粒子量を、任意かつ定量的に制御する製法も提案されている18)。
次に「攻めの評価」として、例えば次のような課題が検討されていることが多い;
例えば粒子モルフォロジー特性の精密性を高めるための評価法では画像解析法11, 12)が導入されるようになってきた。従来この方法は、試料数の少なさに基づく確率的問題があったが、観測場への分散煤の連続的流れを工夫して解消した例が何社かから販売されている。しかし現状では、投影面積から求めた円形度9)の平均値を示すか、円形度とHeywood径11, 12)との相関図で視覚的に傾向を論じるかの、いずれかの利用にとどまっているようなので、今後のさらなる有効利用が期待される。また光回折/散乱法と電気的検知帯法の相乗による粒子形状の評価(球状と板状の違いを検出)19)や、粒間に含まれる微細成分を除去して粒表面に付着した粒子量を検出する評価技術10)は、工業化(低コスト)を志向した既知情報の相乗による新規性開発の観点からも、興味深い技術である。
プラスチックスと混合した状態(分散系)の製法や評価法、最終特性(熱伝導)の評価法は、樹脂種によるケースバイケースの設計が一層重要となる。本稿では以下のように熱伝導性フィラーと課題との関係を示すにとどめる;
文 献 1) フィラ―研究会編、フィラ-と先端複合材料、(株)シーエムシー、8-21(フィラ―概論) (1995) 2) 相馬勲編、機能性フィラ―の開発技術、(株)シーエムシー、127-135(熱伝導性フィラ―) (2000) 3) 田中康雄、半導体封止材料の開発と信頼性技術、(株)技術情報協会、165-168(高熱伝導封止材料) (2001) 4) 工業調査会編、プラスチックス、49、10-84(配合剤とフィラーの進展特集号) (1998) 5) セラミックス協会編、セラミックス、33、25-42(シリカ特集号) (1998) 6) 前園明一、セラミックス、29、421-430(セラミックス基礎工学講座/熱伝導測定) (1994) 7) 高尾泰正、化学炎プロセスの新たな可能性、AIST Today(産業技術総合研究所広報誌)、1、15 (2001) ⇒http://www.aist.go.jp/aist_j/aistinfo/aist_today/vol01_09/vol01_9_main.html参照 8) D.A.G. Bruggeman、Ann. Phys.、24, 636 (1935) 9) 遠藤茂寿、粉体工学会誌、35、383-392 (1998) 10) Y. Takao et al.、Advanced Powder Technol.、12、17-31 (2001) 11) 椿淳一郎・早川修、現場で役立つ粒子径計測技術、日刊工業新聞社、65-124(粒子径分布評価法の概説) (2001) 12) 粉体工学会編、粉体工学の基礎、日刊工業新聞社、145-156(充填技術) (1992) 13) 新井紀男他編、実用燃焼炉設計および制御、テクノシステム、115-134(火炎溶融法と化学炎法) (2001) 14) 近沢正敏、粉体工学会誌、36、205-213 (1999) 15) C. Hung et al., J. Mater. Res., 7, 1861-1869 (1992). 16) セラミックス協会編、セラミックス、36、234-284(セラミックス原料の値段特集号) (2001) 17) Y. Takao et al., J. Chem. Eng. Japan、34、828-833 (2001) 18) Y. Takao et al., AIChE J., 43, 2616-2623 (1997). 19) 稲葉敬三・松本幹治、粉体工学会誌、32、722-730 (1995) 20) セラミックス協会編、セラミックス、28、1109-1167(レオロジー特集号) (1993)