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【 窒化アルミニウムの粒子(フィラー)や、原料粉体の新規供給ルートの高いニーズ 】

1.窒化アルミニウム“AlN”とは (材料の概要、メリット)

電子材料関連技術の中で、組成が無機材料から成る粉体を、組成が有機材料から成る樹脂系原料に充填して用いる複合材料系は、絶縁材料や電極・導電材料、電気粘性流体、化学機械研磨用スラリー、射出成形や鋳込み成形などのセラミック成形プロセス原料などとして使用される重要材料系である。更に近年では、半導体素子の保護・絶縁などを目的としたパッケージング材料に広く利用されるようになっている。VLSI化の進展に伴う素子の微細化に対応するために、微小な電極間への注入や任意形状化を実現するパッケージング材料の、高放熱性・高熱伝導性・低熱膨張性と同時に、低粘性・高成形性が不可欠となっている。 放熱性などを向上する目的で充填される無機フィラー粉体は、現在のところSi及びO元素から成る非晶質で球状のシリカ粉体が主流を占めている。熱的特性の観点からは多くのシリカを充填するほうが望ましいが、その場合には粘性・成形性が低下するため限界がある。そこで成形性を損なわずにできるだけ多くのシリカを充填する目的で、シリカの粒子径分布や表面修飾の検討、微粒子の添加などが試みられ、これらの各種制御を組み合わせる工程が採用されている。しかし、急速に進展する半導体素子の開発競争の潮流下、単体のシリコンチップ中に全システムを内包するシステムLSIや、三次元実装などシステムレベルの多機能高密度化を志向するシステムインパッケージ等、高度化する要求や精度に応えるには、現時点の封止技術やフィラー特性では対応に限界がある事が指摘されていた(例えば、萩原伸介、”半導体用封止材の開発現況”、プラスチックス、Vol.49、p.58、1998)。 

シリカの理論的熱伝導率が約2Wm−1K−1であるのに対し、窒化アルミニウムは約300Wm−1K−1で、シリカより少量の添加でも高い放熱性が期待できる。即ち熱的特性以外の、粒子径分布や球形度等で現行シリカフィラーと同等の特性を有する窒化アルミニウムフィラーが存在すれば、熱的特性と粘性・成形性を同時に達成した、画期的なフィラー及び封止技術に発展する可能性がある。この観点から、既に、シリカの“一部”を窒化アルミニウム粉体に代替する試みが発表されている(例えば、特開平9−183610公報)。しかし現時点では、フィラー粉体として必要な粒子径(平均粒子径が数〜数10ミクロン程度)を有する窒化アルミニウム粉体は、粉砕工程を経て製造される直接窒化法が主流であるため、形状が角張った形をした非球状粉体となっており、粘性・成形性が著しく低下する欠点があった。更に粉砕は純度の点でも問題で、ソフトリードエラーの低減要請が高度化する封止材料では課題がある。そのため、窒化アルミニウム粉体のみをフィラーとして使用することは現時点では実現できておらず、球状シリカフィラーを同時に添加する事を余儀なくされ、即ちシリカの一部を代替するような添加剤的使用法しかできていなかった。 

一方、焼結体原料粉体として多くもちいられている直接窒化法と並ぶ工業的製造方法として、アルミナと炭素の混合物を窒素雰囲気下で焼成する還元窒化法がある。粉砕工程が不要な還元窒化法では、比較的球形度の高い粉体が製造されている。しかし、現在の還元窒化法は主に焼結体原料粉体の供給プロセスとして確立されたもので、平均粒子径がサブミクロンオーダーの粉体を対象とし、フィラー粉体として主に必要な数〜数10ミクロンオーダー以上の粒子径を持つ粉体が容易に製造可能なようには、現時点では用意されていない。しかも、発熱反応である直接窒化法とは正反対の、吸熱反応である還元窒化法では、1500〜1800℃程度の高温度域、且つ一定時間以上の熱処理が必須であり、フィラー粉体のような比較的大粒径の粉体を製造するために大粒径のアルミナなどの原料粉体を用意した場合に、電気炉加熱のみで効率よく還元窒化プロセスを進めることが可能か、現状では確認されていない。また高温度域の熱処理装置や、炭素源の除去が必須で、工程及び装置数が増加するなど、直接窒化法に比べコスト的に不利である点も考慮しなければならない。 

さらに研究室レベルで検討が行われている窒化アルミニウム粉体の製法として、有機物前駆体を原料とした気相(エアロゾル)合成法、火炎CVD法、熱プラズマ法などがあった。しかし以上の方法は、一旦、原料を完全な気体状態として、蒸発―凝縮反応、核生成、粒成長過程を経る駆動原理を主とすることから、必然的にナノメーターレベル(大きくても数10ナノメーター)の粉体合成は可能である。しかし、それが本発明で対象とする技術分野の材料系に必ずしも好適なわけではない。本発明で主たる技術分野として対象とする、無機フィラー粉体として必要とされる平均粒子径範囲が0.1〜100ミクロンに含まれ、平均粒子径が1ミクロン以上及び粒子の外形が球状である窒化アルミニウム粉体は、既往の気相法では実現できていなかった。  また、本発明で第二の技術分野として対象とする、基板材料及びその原料粉体としても、一般に上記のような“超微粒子”は捕集や分散、成形などの粉体工学的取り扱いが難しく、易凝集性粉体で、焼結体用原料粉体としては余り用いられない。むしろ粘稠剤用フィラーとして利用されている。即ち、焼結体原料粉体供給プロセスとしては、平均粒子径が数10ナノメーター〜サブミクロンレベルから、ミクロンレベル程度の粉体を制御性良く合成可能なことが求められるが、ビルディングアップ法であるこれらの手法は、そのために長時間を要したり、前駆体の高濃度化が必要となって生成物の制御性が低下する恐れがある。しかも、減圧気相プロセスであるため、前駆体・高濃度化の融通性は比較的小さい。  更に、熱伝導率が長所となる窒化アルミニウム粉体は、粒子径に最適範囲がある。一般に、窒化アルミニウムAlNは酸素を不純物としてその含有量が増加する程、熱伝導性が低下し、一方、酸素含有量が少なすぎると、焼結時に焼結助剤として機能する酸窒化アルミニウムが過少で、焼結性が低下する。そのため、約1%前後の酸素含有量が必要とされている報告が多い。そして酸素含有量は通常、その比表面積に経験的にほぼ比例することから、(粒子径分布にも関係するが)平均粒子径がサブミクロンレベルからミクロンレベル程度の粒子径範囲が選択されている。この観点において、現状の気相合成法で得られた窒化アルミニウム粉体は過小である。 

2.解決策案

つまり「フィラーサイズ」で、且つ「球形」の窒化アルミニウム粉体の、工業的製造方法による製品を提供するためには、その多系であるAlONやAl2O3を含めた、生成機構の再検討が必要になるものと考えられる。⇒それ故に、今の我々の仕事が存在する、と判断しています。

例えば、Al2O3とAlNの混合物を窒素雰囲気中で高温焼成する方法は、多くの多系を持つAlONの組成制御が比較的容易との利点を有し、その製造方法として一般的である。即ち相図から、発想を転換すれば、逆にAlONをAlNの前駆体と考えて、そこから窒化反応によって酸素を取り除く方法も十分有り得るものと推察される。  しかしAl2O3―AlN高温焼成法は、固―固反応であり、高温で長時間の熱処理が必須で、実際の焼成温度が2000℃以上に及ぶ場合も報告されている。その理由としては、固相拡散を主たる反応機構と考えた場合の、約1650℃以下での窒素の拡散率の低さなどが指摘されている(例えば、Normand D.Corbin,Aluminum Oxynitride Spinel: A Review,Journal of the European Ceramic Society,Vol.5、p.143、1989; 又はHiroyuki Fukuyama,Wataru Nakao,Masahiro Susa and Kazuhiro Nagata,New Synthetic Method of Forming Aluminum Oxynitride by Plasma Arc Melting,Journal of the American Ceramic Society,Vol.82、p.1381、1999)。このような焼成条件下で生成された粉体は粗大化し、その後の粉砕も容易ではない。更に、長時間熱処理と粉砕は、純度の点でも問題で、半導体応用などを考える場合、致命的になりかねない。また高温処理用の炉体などが必須となり製造コストの問題がある。

即ち、既往の窒化アルミニウム粉体の、主たる三つの製造方法によると、

  1. 直接窒化法では粒子径は満足されるが形状が不可
  2. 還元窒化法では球形度は満足されるが粒子径が不可
  3. 従来の気相合成法では粒子径が不可
  4. その他のAlN多系による窒化反応では低温処理のための技術的要件が不足で粒子径・形状共に不可

となり、粒子径と形状の両方を満たすことは、現時点ではできていなかった。 

上記サイズの高純度粉体を、しかも経済性良く製造し得る方法として、『3種のルート』を検討すれば、考え得る可能性をまずは把握できると思われる

その第1として、現行の代表的フィラーである非晶質球状シリカ粉体に着目した。この粉では「化学炎プロセス」が一般的で、可燃性ガスと酸素の混合ガスの燃焼火炎中に硅石原料やSi金属粉を投入し、原料表面の溶融や、気相中の蒸発−反応−結晶化プロセスの併用により、球形度の高いシリカ粒子を、しかも粒子径範囲を任意に調整して製造することが行われている。この手法による球状粒子化は、気相中で化学反応が進行した場合に、立体的に周囲から作用を及ぼされることが少ないため、球状に形を構成し易いというエアロゾル合成の特長を利用している。また蒸発―凝縮反応のみを駆動原理としているわけではないので、超微粒子だけでなく、ミクロンレベルから10数ミクロンのフィラー粉体サイズまで適用可能である。 

この方法や製造装置を窒化アルミニウム粉体に適用すれば、(1)粒子径が不適(粗大或いは過小)、或いは(粉砕による)形状異方性が大きいという欠点の解消、(2)シリカフィラー合成で蓄積されてきた粉体合成制御等の知的資産やノウハウの利用により、粒子径分布など粉体特性の制御性向上や、必要特性を得るための検討時間の短縮、(3)化学炎法の製造装置の流用による初期設備投資の優位性、(4)窒化反応の際に必要とされる事がある炭素を反応過程で同時に生成することができ(中性火炎から還元性燃焼火炎とすれば容易)、其れに拠り前駆体粉体の周りに均一且つ高分散に分布させる事が可能で、通常よりも低温で反応を終結させる事が行い得る、など、多くの利点が期待される。  しかしこれまで「窒化アルミニウム“フィラー”化学炎プロセス」は実現されてこなかった。これは、(1)「酸素」の存在する火炎中で非酸化物を合成し得るとは考えず、内炎又は還元性燃焼火炎等の対酸素還元力を利用する発想がなかったこと、(2)シリカと異なり融点の存在しない窒化アルミニウムでは「原料粉体表面の溶融」による球状化は期待できないこと、(3)「酸素」の存在する火炎中へ単純に原料を投入するだけでは、非酸化物の窒化アルミニウムが製造できないこと、(4)これまでは一度の反応で完全な窒化アルミニウムの結晶構造を有した粉体を合成しなければならないと考え、気相合成の特徴である複数の反応を連続化できる点に着目しなかったこと、などが問題点の一部として例示される。

調査は、特許庁のフロントページ検索、TACCのInspec、JICSTやSTN、J.Am.Ceram.Soc.検索Siteで、「酸窒化アルミ」「粉」「フィラー」「シリカ」「封止材」「噴霧」「アルミニウム」「火炎」等など...(及び各々の英語単語)のワードで行いました。
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