徳永仁史>粒子法(SPH法)による鋳造シミュレーション

産総研
last updated 2023.12.4
 粒子法を用いた高速な流動・凝固シミュレーションについて研究開発を行っております.特に,鋳造プロセスの解析手法,方案設計への適用について研究を進めております.

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鋳造とは
 鋳造とは金属材料等を融点より高い温度で溶融させ(溶湯と呼ぶ),型(鋳型と呼ぶ)に流し込み,冷却・固化させ目的の形状に成形する製造方法です(図1)1.様々な工業製品の製造に使用されており,鋳造業は生産高で約2兆円規模の産業となっております.


図1 鋳造プロセス

鋳造方案とは
 鋳造方案とは,広義には,良質な鋳造品・鋳物を得ることを目的として,鋳造に関わる各要素の企画・設計を行うことを意味しております1.また,狭義には,鋳型内の製品形状であるキャビティ部分に溶湯を運ぶために設計された部分を含めた流路を示す場合もあります(図2).この流路の一部は,湯口系と呼ばれ,溶湯の流入口である「湯口」,溶湯をキャビティへ導く「湯道」,キャビティへの入り口である「せき」等から構成されます.湯口系の設定は,溶湯の流動に影響を与え,キャビティへの流動の順序,充填完了時の温度分布に影響を与えます.それらは凝固の進行に影響を与え,鋳物の品質を左右することになります.従って, 鋳造方案の可否の判断のため,これら溶湯の流動や充填完了時の温度分布等を予測し評価する必要があります.


図2 鋳造方案(湯口系)の例

鋳造シミュレーション
 鋳造シミュレーションは,設計された鋳造方案に対して溶湯の流動や温度分布を解析してその結果を設計者に提示することにより,鋳造方案検討の効率化を支援するツールです.鋳造シミュレーションに関しては既に研究・開発され,市販ツールとして販売されてきました.そのような従来の鋳造シミュレーションでは,有限差分法(FDM),有限要素法(FEM),有限体積法(FVM)といった解析手法が用いられてきました.これら従来手法は,方案設計の効率化に大きく貢献してきましたが,計算時間が長い,解析空間のメッシュ生成が必要,設計システムとの連携が不十分であるといったことから,さらなる効率化を目指すことが難しいと考えております.

本研究の取組み
 本研究の目的はa)高速な鋳造シミュレーション(湯流れ,凝固)を開発すること,b)高効率な方案設計手法を開発することです.高速な鋳造シミュレーションの実現のため,本研究では解析計算に粒子法(Smoothed Particle Hydrodynamics 法,SPH法2)を採用するとともに,グラフィックスプロセシングユニット(GPU)を用いてその計算を高速化します.図3に示すように,設計と解析の繰返しからなる方案検討プロセスにおいて,解析計算を高速化することにより,方案設計プロセスを効率化します.さらに,粒子法の計算中に適用可能な形状変形手法を採用することにより,流れの変化を見ながら対話的に湯道等の形状を変更するなど,設計と解析が同時に実施できるようになり,高効率な方案設計を実現します.


図3 本研究における方案設計の効率化

粒子法とは
 粒子法とは,解析対象を有限個の粒子に分割し,各粒子の近傍粒子の集合を用いて近似関数を構築することにより挙動を求める手法です(図4).粒子法の特徴として,物性値を持つ粒子が動くことにより流動を表現することから,解析空間のメッシュ生成が不要,連続体・不連続体や大変形を含む複雑な流れの解析が容易であるとともに,湯道といった流路の境界形状の取扱いが柔軟という点が挙げられます.粒子法には以上のような長所がありますが,他の解析手法と比較して計算時間が非常に長いという短所もあります.


図4 粒子法

粒子法の高速化手法
 本研究では解析手法として粒子法の一つであるSPH法を採用しています.通常のSPH法の計算ではCPUを用いて計算を行っているものがほとんどです.一方,本研究ではGPUによる並列計算により,高速計算を実現しています.図5に示すように,複数のCPU(またはコア,スレッド)を用いた計算では,分割した解析空間の一部を一つCPU(またはコア,スレッド)に割り当てて並列化するのに対し,GPUを用いた計算では,さらに,各粒子の計算をGPU内に数千個存在するコア(正確にはスレッド)に割り当てて並列化します.


図5 粒子法のGPUによる高速化手法

 標準的なテスト問題であるダムブレイク問題を用いて,GPU(本手法)とCPU(従来の粒子法)を用いた計算速度を比較した結果を図6に示します.いずれの場合も,粒子数に比例して1フレームの計算時間が増加することが分かりますが,本研究でのSPH法の計算手法は,従来のSPH法の計算に対して2桁以上の高速化が実現できていることが分かります.


図6 本手法(GPU)と従来のSPH法(CPU)の計算速度の比較
(GPU: NVIDIA GeForce GTX980,CPU: Intel Core i7 3960X)

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参考文献
  1. 例えば,日本鋳造工学会編,鋳造工学便覧,丸善,H14.
  2. 例えば, J. J. Monaghan: Simulating Free Surface Flows with SPH, Journal of Computational Physics, 110, (1994) 399.

誌上発表(筆頭のみ)

口頭発表(筆頭のみ)