パラレルメカニズムを使った駆動機構

 箸のような二本指運動を実現するには各指が最低3自由度を持つ必要があり、加えて微細作業を実現できるほどの精度が要求される。すなわち、多自由度、高精度を実現する機構が必要となる。以下に二本指マイクロハンドの指の駆動機構(以下フィンガーモジュールと呼ぶ)の具体的仕様を示す。

・指先の並進運動、ないし並進と回転の両方の運動が実現できること。

・数ミクロンの対象物を操作できる精度を持っていること。

・微小対象物を顕微鏡下で扱うため、機構のサイズは数[cm]程度の寸法であること。

このような機能を実現する機構としては、以下の理由により、従来のマニピュレータに用いられている多関節型機構よりはパラレルメカニズムが適切と考えられる。パラレルメカニズムは、

・多自由度の動作がコンパクトな機構で容易に実現できる。

・位置決め精度が高い。

・逆運動学が単純で動作制御が容易。

等の長所がある。唯一の欠点である可動範囲が小さいという問題も、基本的には作業領域は顕微鏡下に限られるため、大きな障害とならない。以上からフィンガーモジュールにはパラレルメカニズムを基本的な機構として採用することが有効であると思われる。

 アクチュエータについては、直動シリンダ、小型モータ、圧電素子などが候補として考えられるが、大きさの点から積層型の圧電素子(TOKIN製AE0203D08、外形寸法 2×3×10 mm)を用いることとした。したがって、直動型のアクチュエータとして用いることになり、フィンガーモジュールの構成としては、圧電素子を駆動リンクとする6自由度スチュワートプラットフォームを基本に設計を行うこととした。エンドエフェクタ先端部の運動特性と可動範囲を最大とするような評価指数を定め、これを最適とするようにリンクパラメータ、すなわちリンク結合点の位置を定めた。正確なスチュワートプラットフォームを構成するためには、リンクをベースプレートとエンドプレートに接続するための微小ジョイントの実現が課題となる。すなわち、極めて小さなボールジョイント、あるいはユニバーサルジョイントで対偶を構成しなければならない。しかしながら、本研究で必要とする程度の小さなジョイントは実現が困難であり、もちろん市販もされていない。そこで、ボールジョイントをバネで置き換える方式である。リンクを支えると同時に、アクチュエータの伸び縮みよって生ずるリンクの動きに柔軟に追従6させるものである。リンクの主要部分である圧電素子の剛性が極めて高いことと、リンクの変位が機構全体の大きさに比して極めて小さいこと(千分の1以下)を考慮して、バネはステンレス製(SUS304-WP)で直径 0.45mm 、長さ 2mm のワイヤで実現することとした。積層型圧電素子では最大の伸びは全長の千分の1程度である。ワイヤの全長を2mmとしてそのバネ定数を計算すると、先端での軸垂直方向の負荷に対して 0.2 [N/$エmu $m]程度である。これは、圧電素子の発生力数百[N] に比して十分小さく、したがってワイヤ部はボールジョイントとして要求される微小な曲げやねじれが容易に実現可能である。試作した機構の駆動部の概略寸法はf60×20 [mm]である。Fig. 2-1に外観を示す。エンドフェクタ部は細胞操作に用いられる市販の直径 1[mm]の中空ガラスパイプが用いられており、先端部は市販の専用加工器により加熱引っ張り加工を施し、曲率 0.1ミクロン以下の尖状にすることが可能である。

Fig. 2-1 パラレルメカニズムを使ったフィンガーモジュール機構

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