二本指マイクロハンドの機構

 二本指マイクロハンドはパラレルメカニズムを基本としたフィンガーモジュール機構を二つ用いることで構成される。二本指マイクロハンドの作業領域、及び二本指としての協調制御は、この構成法に大きく依存する。ここでは、二本指による安定な微細操作ならびに作業領域の拡大を実現する最適な二本指マイクロハンドの設計概念について検討を行う。

二本指マイクロハンドを設計する際、前節で示したフィンガーモジュールを基本機構として採用する。その時、2つのフィンガーモジュールを微細作業に合わせて構成しなければならない。比較的単純な構成法としてFig. 3に示すようにフィンガーモジュールを並列に並べて二本指を構成するといった方法が挙げられる。しかし、この構成法において、いくつかの問題点が生じた。第一に二本指としての作業領域が小さいこと,第二にそれを動作させるための協調制御が困難なことである.

Fig. 3の機構において,二本指としての作業領域は,各フィンガーモジュールの作業領域の共通領域に限定され,個々のフィンガーモジュールの作業領域と比べて非常に狭い.これを定量的に評価すると,二本指としての作業領域は,各々のフィンガーモジュールの設置角度(Fig. 4で示すθ)に大きく依存することがわかる.Table 1は,設置角度θに対して,二本指としての作業領域$Vtwoを示したものである.ここでVtwo/VoneはVoneを一つのフィンガーモジュールの作業領域としたときVoneに対する二本指としての作業領域Vtwoの割合を示している.

Fig. 3-1 In parallel two-fingered micro hand
Table 3-1 Ratio of common workcspace to workspace of one finger module

install angle θ[deg]

volume of common workspace Vtwo[l]

ratio to workspace of one handmodule Vtwo/Vone[%]

15

0.0689

21.95

20

0.0587

18.71

30

0.0501

15.95
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Fig. 3-2 Common workspace of two-finger micro hand in parallel

Fig. 3-2をみると分かりやすいが、設置角度θが大きくなると,各指の作業領域における共通領域,すなわち二本指としての作業領域Vtwoが減少する。そこで,設置角度を小さくするためには,フィンガーモジュール本体からの指先の距離を長くすれば良い.しかし距離が長くなると,針先の位置決め分解能が劣化し,さらに指として利用しているガラス針の剛性も低下するため,振動に対する影響が無視できなくなる.以上から,並列に設置して二本指を構成する機構では,二本指としての作業領域が極端に狭く有効でないことが推測される。

 次に二本指の協調制御について考察してみよう。フィンガーモジュールは各リンクの圧電素子の長さ情報のみをフィードバックしており,キャリブレーションによって求められた圧電素子の電圧変化に対する指先の移動変化を示した変換行列により顕微鏡下の針先の位置を制御している.二本指として協調制御をする際,相手の針先の相対位置を一定に保つことが重要となる.キャリブレーションが正確に行えれば,相手の圧電素子の長さ情報から,変換行列に基づき針先の位置情報が推定できる.しかし、非常に高い絶対位置決め精度を、温度による指先の長さの変化などといった機構の誤差も考慮に入れ、マイクロハンドに維持させることは非常に困難である。このため,微小対象物を把持した場合,双方の指の距離を一定に保ちつつ移動することは困難である考えられる.したがって並列式二本指機構では精度の良い協調制御が極めて困難なことが判明した.

 人間は箸を用いて様々な操作を器用にこなすことができる.始めに,実際の人間の箸の操作を観察し,二本指マイクロハンドの最適な機構について考察を行ってみよう.第一節では,二本指による基本的な対象物操作を提示した.この基本的な操作を箸で行う場合,その操作法にはある特徴が観察される.箸のほとんどの操作は,人差し指側で操作する箸が器用に動くことによって行っており,親指側の箸は手に固定された状態,すなわち手全体の動きに連動した状態になっている.具体的には,対象物の把持や回転,加工などの細かい操作では,人差し指側の箸が主に動作し,親指側の箸に対する相対運動を生成している.それに対し親指側の箸は,固定された状態で,人差し指側の箸の補助的な役割を果たしているに過ぎない.また,把持した対象物の位置決めに関しては,人差し指側と親指側の箸は手全体を動かすことにより,結果的に同方向に動作している(Fig. 3-3).このように箸の役割を分担することにより,人間は様々な操作を器用にこなすことができる.

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Fig. 3-3 Manipulation of chopsticks by human hand

 

開発する二本指マイクロハンドでは,人間の箸の操作と同じように比較的単純な動作で微小対象物を器用に操作できることが望ましい.以上の考察に基づき,二本指マイクロハンドの新しい機構として,フィンガーモジュールを直列に設置した機構(Fig. 3-4)を提案する.3つの円盤状のプレートのそれぞれが6つの圧電素子を介して固定されている.エンドプレートの中央に穴が空いており,ミドルプレートから親指側の箸に相当する指が伸びている.エンドプレートには人差し指側の箸に相当する指が固定されている.すなわち上部フィンガーモジュールの指は,細かい操作における二本指の相対運動を生成するように動く.下部フィンガーモジュールの指は,主に微小対象物のグローバルな位置決め制御に寄与する.

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Fig. 3-4 A serial two-finger micro hand

 具体的には微小対象物を把持する際は,まず上部フィンガーモジュールのみを制御し人差し指側の箸に相当する指で微小対象物を把持する.次に,把持した微小対象物を移動する際は,上部フィンガーモジュールはその位置を維持したまま,下部フィンガーモジュールを制御し任意の場所に微小対象物を持ち上げ移動させる.このようにそれぞれの指に対して,別の役割を持たせることができる機構のため,微小対象物をハンドリングする際の協調制御が容易に行える.さらに作業領域については,下部のフィンガーモジュールの針先の作業領域がそのまま二本指の作業領域となるため,並列に設置した二本指マイクロハンドのように作業領域が極端に制限されない.

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Fig. 3-5 Workspace of the serial two-finger micro hand

 上部フィンガーモジュールの微小対象物の把持、姿勢制御に寄与する作業領域、及び下部のフィンガーモジュールの微小対象物の位置決めに寄与する作業領域はFig. 3-5に示す通りである.試作したマイクロハンドでは,上部のフィンガーモジュールに最大変位量8[mm]の圧電素子を用い,下部には,最大変位量15[mm]の圧電素子を用いている.それぞれの指の特徴を考慮して,用いる圧電素子を区別した.すなわち,人差し指側の箸に相当する上部のフィンガーモジュールは,微小対象物の器用な操作を行うものであり,作業領域の広さよりも分解能に重点を置いた.親指側の箸に相当する下部のフィンガーモジュールは,微小対象物の大域的な移動が主なため,作業領域の広さを優先させた.Fig. 3-6に試作した二本指マイクロハンドの外観を示す.

Fig. 3-6 Photograph of the two-fingered micro-hand prototype

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