研究
Small to Large
私は、震源破壊成長のスケーリングや震源からの地震波放射の周波数による特徴の違いなど、様々な観点から震源過程に興味を持っています。 現在は、これらに加えて、同じ活断層で過去に発生した地震や将来発生する大地震を理解する手がかりとなるような、小規模・中規模の地震の震源特性についても研究しています。
"Small to Large"は私の研究をよく表していると思います。 スケーリングの研究では、小規模から大規模の地震にわたる震源過程の自己相似性を検討しました。 地震波放射の周波数依存性に関する研究には、単一地震の破壊過程に関する幅広いスケールの特性を明らかにしました。 さらに、大地震の破壊過程を評価するために、小さな地震の震源特性を手掛かりに研究しています。 このような私の研究の方向性は、米国地震学会(SSA)の "At Work"というオンライン記事によくまとめられています。
いろいろな形で一緒に研究していただく方をいつも募集しています。 興味がある方は、こちらをご覧ください。
地震観測から探る震源の物理
地震破壊成長のスケーリング
地震の最終的な規模はどのようにして決まるのでしょうか? この問いへの答えを得るために、規模の異なる地震の破壊過程がどのように似ていて、どのように違うのかを解明することを目指しています 特に、巨大地震の始まり方が小規模地震と似ているのかどうか検討してきました。
まず、巨大地震の初期破壊過程を詳細に解析すると同時に、その破壊過程全体を解析するためにマルチスケール断層すべりインバージョン法(Uchide and Ide, 2007)を開発しました。 この手法を用いて、2004年のパークフィールド地震では、少なくとも最初の0.2秒からすべり速度が1 m/sを超える高速の破壊過程であったことを明らかにしました(Uchide et al., 2009)。 また,2011年東北地方太平洋沖地震では、破壊の伝播方向が変化する高速の破壊過程であることがわかりました(Uchide, 2013)。 カリフォルニア州パークフィールドで発生した小地震から大地震までの地震破壊成長過程を比較した結果、モーメントレート関数の成長曲線から、自己相似的に破壊が進展していることがわかりました 地震の破壊が地震発生帯の限界に達すると、破壊の進展の仕方も変わっていました(Uchide and Ide, 2010)。
高周波数地震波放射と高速断層すべり
異なる周波数帯域の地震波は、地震の破壊過程の異なる側面を反映していると考えられます。 2010年に発生したメキシコ・バハカリフォルニア州 El Mayor-Cucapah地震に対して、断層すべりインバージョンとバックプロジェクション解析を行い、高周波数の地震波放射は断層のすべり始めやすべり終わりで強く、断層が高速すべりをしているときは高周波数の地震波放射が弱いということを明らかにしました(Uchide et al. 2013)。 その理由はまだ不明ですが、断層帯の粘弾性レオロジーによる応力拡散によって、高周波数放射のない高速断層すべりが発生した可能性があるのではないかと考えています(Sone and Uchide, 2016)。
小規模地震の震源特性
震源の物理に関する一般的な理解を目指して、小規模地震の震源特性(応力降下量、震源メカニズム解、地震モーメント(モーメントマグニチュード))を調べています。 その一環として、東北沖で発生した小規模地震の応力降下の空間分布に関する研究(Uchide et al., 2014)を実施しました。 経験的グリーン関数(EGF)として使う地震を大量に使うことで、より高精度に震源スペクトルを推定する多重スペクトル比法を開発して、それを用いたデータ解析の結果、震源スペクトルがより複雑であることを明らかにしました(Uchide and Imanishi, 2016)。
また、同じ多重スペクトル比解析により,解析対象の地震とEGFの小地震の地震モーメント比が推定できます。 それを用いて小地震のモーメントマグニチュードを推定した結果、微小地震(M<3)において、モーメントマグニチュードと気象庁マグニチュードスケールが1:1の関係から系統的にずれていることがわかりました(Uchide and Imanishi, 2018)。 これは、微小地震を用いた地震統計解析において、マグニチュードの種類を適切に選ぶ重要性を示しています。
小地震を用いた断層特性の推定
小規模地震の震源特性は、応力や摩擦特性など、断層の物理特性を知る手がかりとして利用することができると考えられます。 断層の物理特性を理解することは、将来の大規模地震の破壊過程を評価するのに役立ちます。
応力場の推定
震源メカニズム解は応力が働く方向(主軸方向(方位と傾斜))を反映しています。逆に、これを使って応力が働く方向を推定することができます。 まず、山梨県(内出ほか,2015;今西ほか,2016)を含む関東地方(今西ほか,2019)の地殻応力場を調べました。 更に、P波初動極性を自動的に読み取るニューラルネットワークモデルを構築し(Uchide, 2020)、これを用いて日本全国内陸部の地殻応力場を推定しました(Uchide et al., 2022)。 推定した応力方位は産総研地殻応力場データベースでご覧いただけます。
地下断層形状の推定
地下における断層の形状は、テクトニクスと地震発生の理解を深めるために必要な情報です。 これを知るための数少ない手掛かりの一つが微小地震の分布です。 3次元分布を認識することは容易でなく、これまでは断面図や動画を用いて調べられてきました。 私たちは点群解析の手法を応用して、断層形状決定手法を開発し、2024年能登半島地震の断層面の形状を推定しました(Sawaki et al., 2025)。 計算コードはGSJ研究資料集(佐脇ほか,2025)から公開しています。 この手法を用いて、各地の地下断層面を解明する研究を展開しています(例えば、2025年神奈川県西部の地震(Sawaki et al., 2025b))。
大地震の破壊過程の解析
主に近地の強震波形を用いた断層すべりインバージョン解析によって、大地震・中規模地震の破壊過程を明らかにしてきました。
- 2004年新潟県中越地震 (Mj 6.8) (Uchide and Ide, 2007)
- 2004年米国パークフィールド地震 (Mw 6.0) (Uchide et al., 2009)
- 2010年メキシコ・El Mayor-Cucapah(バハカリフォルニア州)地震 (Mw 7.2) (Uchide et al., 2013)
- 2011年東北地方太平洋沖地震 (Mw 9.0) (Uchide, 2013)
- 2016年熊本地震 (Mj 7.3) (Uchide et al., 2016)
- 2016年韓国慶州(キョンジュ)地震(ML 5.8=韓国における観測史上最大の地震) (Uchide and Song, 2018)
地震研究における機械学習の活用
機械学習を活用して地震研究を加速する試みを2018年から行ってきました。P波初動極性の自動検測(Uchide, 2020)を手始めに、ポスドクや大学院生の方々のご活躍により、テクトニック微動の検出と震源決定(Sugii et al., 2024; Sagae et al., 2025)、震源分布を用いた地下断層面の検出(Sawaki et al., 2025a)をそれぞれ行う手法を開発してきました。 地震波形解析のための地震波形データ読み込みソフトウェア(内出, 2025)も公開しています。 これら一連の研究では、地球科学的な知見を広げることに役立つ手法を開発することを心がけています。
研究に関する記事
研究についてご紹介している記事をここにまとめておきます。ご興味のある方はぜひご覧ください。
- 「AIが拓く新たな地震学研究」日本地震学会広報誌なゐふる122号4~5ページ(2020年8月1日発行)
- At Work(米国地震学会(Seismological Society of America)ホームページ)(2020年12月16日公開)
- 「信号処理と機械学習を活用した地震波形 ビッグデータ解析による地下断層の探索 」地震本部ニュース2021年秋号 4~5ページ
- 文部科学省STAR-Eプロジェクトで実施している研究課題についてご紹介しています。
- 「日本内陸部のストレスマップをオンライン公開」産総研プレスリリース(2022年6月14日公開)
- 「日本内陸部ストレスマップの公開 」地震本部ニュース2022年秋号 8~9ページ
- 「ストレス(応力)マップとは?」産総研マガジン-話題の○○を解説-(2023年7月5日公開)
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