研究内容

バーチャルリアリティ(VR)を用いた意匠工芸品作製システムに関する研究

バーチャルリアリティ(VR)を用いた新しい工芸品作成法の開発を目的として、パソコン上に映し出された仮想粘土材を人が指先を使って変形し、それを実体化するシステムの開発を行いました。

VR意匠形状入力装置の概念図
VR意匠形状入力装置の概念図

バーチャルリアリティを用いたデザインシステム

VR意匠形状入力装置の写真
VR意匠形状入力装置の写真

コンピュータやネットワークに代表されるIT(情報技術)の進歩は近年目覚ましく、製造分野に大きな変革をもたらそうとしています。特に、情報ネットワークの発達はメーカーとユーザの距離をますます接近させ、これによって新しいネットワークビジネスが続々誕生しています。

こうした情報ネットワークがさらに進展すると、ユーザーが直接生産プロセスにも参加することも可能になると考えられ、ユーザーが欲する製品を生産することができる、いわゆるユーザー主導型生産技術の実現も夢ではなくなってきています。

そこで、ユーザー主導型生産技術の確立に必要な基盤技術開発を目ざし、VR (バーチャルリアリティ:人工現実感) 技術を応用して、形状や質感に応じた手ざわりや目の感覚を得ながら自由に3次元構造体の変形を行い、その設計した構造体をネットワークを介して遠隔地でも製作できるシステムの開発を行っています。

変形動作過程の図解
変形動作過程

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拡大・縮小図解
拡大・縮小

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ここでは、開発したVR意匠形状作成システムの構成や基本動作結果について報告します。 本システムは、パソコンと立体視ディスプレイ、指サック型力覚デバイスで構成されます。仮想的な成形作業は、デザイン対象物の3次元形状表示と、指サック型力覚デバイスによる指先作業位置指定、および3軸方向作業反力フィードバック機能によって実現されています。

仮想粘土材は、新たに開発されたリアルタイム型3次元塑性変形モデルで表され、「押す」、「曲げる」、「付ける」、「除く」といった実粘土材と同じような様々な成形作業が可能です。それに加えて、「着色」や「押印」の付加、変更が行えるなど、VRならではの創作活動を支援する環境も実現されています。作り出された形状デザイン情報は、他のCADシステムやラピッドプロダクションシステムで直接利用することができます。

PCベース包囲型ディスプレイ

平成13年度地域新生コンソーシアム研究開発事業「低価格包囲型ディスプレイ装置及びソフトウェアの開発」の成果により、低価格の4面包囲型ディスプレイが開発できました。従来のスーパーコンピュータを使わずに、8台の液晶プロジェクタと9台のパソコンで、没入感のあるディスプレイができています。(価格は、2千万円以下が達成できています。スクリーン価格の低減化により、もっと安く製作することが可能です。)

PCベース包囲型ディスプレイ 概念図
PCベース包囲型ディスプレイ 概念図
PCベース包囲型ディスプレイ デモ画面(写真)
PCベース包囲型ディスプレイ デモ画面

設計データを利用して、3次元の構造体や部品を作製するまえに立体的に検証することが可能です。それに加えて、ここ数年ハードウェアの爆発的な価格破壊が起こっており、立体視画像の生成や制御に使っていた数年前のワークステーションレベルの性能が汎用のPCが有する状況となっています。投影型のフルカラープロジェクタも、8000ルーメンの出力がDLPプロジェクタで実現できており、液晶プロジェクタでも最上位の機器で3000ルーメンのものが市場に出てくるようになりました。このような背景と、適切な機器の選択、最適な制御手法により、驚くほどの低価格化が実現できるものと期待できます。

PCベース包囲型ディスプレイ デモ画面を操作している様子の写真
PCベース包囲型ディスプレイ デモ画面
(横浜市街)
360°全包囲型球面ディスプレイの写真(上海公元2500体験館 FUTURE COSMOS)
360°全包囲型球面ディスプレイ
(上海公元2500体験館 FUTURE COSMOS)

ここで得たソフトウェアと制御に関するノウハウを活用して、中国上海にて360度全包囲球体映像システムが実現できました。鍵となっているのは、柱の影が球体内部に映らずに、13台のプロジェクタで360度全包囲を構成できたことです。

360度全包囲は、名古屋万博についで世界2番目の開発となり、合計数万人の来場者に体感していただいています。

参考文献

  • ”仮想空間のモノづくり手法”, 日刊工業新聞, 6月11日
  • S. Hirose, K. Mori, R. M. Y. Lee and Y. Kanou, ”A VR Three-dimensional Pottery Design System Using a PHAMToM Haptic Device”, Proceedings of the Fourth Annual PHAMTOM Users Group Workshop, Dedham MA, October, 1999.
  • 加納裕, 岩本和世, 廣瀬伸吾, 森和男, 福岡いずみ, ”PCベース4面包囲型ディスプレイの開発”, 計測自動制御学会論文集, 33 (1997) 1-3.

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