LIBS(Laser Induced Breakdown Spectroscopy)とは、高出力パルスレーザ光を物体表面の微細なスポットに集光照射して、瞬間的に原子がイオンと電子に分離したプラズマ状態を発生させ、 励起状態にある原子が基底状態に戻るときに発する原子固有の波長の光を分光し、スペクトルデータを解析することによって含有する元素を定性・定量する分析法です。 LIBS分析は通常、測定対象物の表面を研磨などの手段により平滑化した後、物体表面上にパルスレーザ光の焦点が正確に位置するように固定した状態で行われます。 近年このようなLIBS分析を応用した固体選別装置(LIBSソータ)の開発が進んでおり、廃棄物リサイクル分野でも導入が始まっています。 LIBSソータは選別対象物をベルトコンベヤで高速供給しながらLIBS分析によって個々の物体が含有する元素情報を非接触で検知することでその種別を識別し、 コンベヤの後端に配置した電磁式パドルやエアジェットなどを使って物体の落下位置を種別ごとに変化させ別々の容器に回収する固体選別技術であり、 廃車や廃家電の破砕選別処理施設で発生する鉄やアルミなどの金属スクラップ片を合金種類ごとに選別する手段として注目されています。
LIBS分析では、パルスレーザの照射スポット(直径最大数mm)からのプラズマ発光が採光部に十分な強度で到達しないとスペクトルデータを正確に検知できず、 パルスレーザ光を微小スポットに集光照射できないと、プラズマ発光自体が発生ぜず分析不能となります。廃車や廃家電などの破砕処理で発生する不定形で複雑な形状を有している 金属スクラップにLIBS分析を適用するには、コンベヤ上を移動中のスクラップ片の位置や高さといった空間情報(三次元情報)を高精度に検知し、 その情報に基づいてパルスレーザ光の最適な照射スポットの位置を決定し、その位置に正確に撃ち損じることなく集光照射する必要があります。
本研究では、ベルトコンベヤのベルト幅方向の全域を1台のレーザとスキャンミラーの構成でカバーする「走査型LIBSソータ」に特徴的な要素技術である「移動物体の三次元情報の検知技術」及び「LIBS分析用レーザ集光位置の三次元制御技術」を開発しています。 これまでに、リサイクラー企業、大学等と共同で平成28年度から3年間にわたりNEDO助成事業「動静脈一体車両リサイクルシステムの実現による省エネ実証事業」に参画し、 ベンチスケールの走査型LIBSソータを当時世界で初めて試作して、アルミニウム合金スクラップの高度選別プロセスの試験導入を達成しました。 最近では大手アルミ圧延メーカと共同で走査型LIBSソータの「純国産化」を目指した取り組みも開始しています。
開発装置写真 上左:走査型LIBSソータ試作1号機(LIBSセンサ部は独SECOPTA社製MopaLIBS)、上右:試作1号機の3D計測部(LIBSセンサ前部BOX内)、下:筆者らが開発した「移動物体の位置及び表面形状計測プログラム」操作画面